過去:とある、夢。
企画小説初投稿^^;
主にシリアスメインで、残酷な描写も出てくると思いますので苦手な方はご注意くださいませ。
今回はだいぶ短いです。
――夢を見た。
一人の幼い少女が、楽しそうに、嬉しそうに微笑んでいる、夢。
何の辛いことのない、悩みのないような真っ青の瞳を輝かせて――……
――やめて。
意識していないのに、心の中から吐き出された言葉。
暗闇の中に住まう僕には、この少女の笑顔は眩しすぎた。
例えその少女が、“過去の僕”であったとしても。
――いやだ。見たくない。……やめて
これは幻想。夢。そう、とてもとても甘い――まぼろし、なんだ。
わかっているのに。
僕は見ていられなかった……何故なら、僕はこの先を知っているから。
少女の未来を、その先に伸びる呪われた道を知っているから……。
『---!』
少女が嬉しそうに叫んで、ある一人の少年に駆け寄る。
背までに伸びた、ラベンダーグレイの長髪をきっちりと、一つに結っている十二歳ほどの少年。
その少年に、少女は勢いよく飛びついた。
『どわっ!? ……いっ痛ぅ……』
驚きの声を上げる、少年。
『なんだよ、痛いじゃないか……いきなり飛びつくな、----。』
声は、聞こえなかった。それは僕が聞きたくないからだろうか?
少年は少女を睨みつけたが、しかし優しげに目を細めた。そしていとおしげに少女の頭を撫でてやる。
長い少女の髪の毛がくしゃくしゃとかき混ぜられ、少女は気持ちがいいというようにきゃっきゃと笑った。
『おーい、---、----! ご飯だぞ、戻って来い!』
僕は思わず、この声に振り向く。するとその先には初老の男性が、家から顔を出していた。その手には既に木のスプーンが握られており、気が早いとばかりにその奥にいる女性がため息をついた。
それは日常茶飯事。この森にある小屋に住んでいる、子供たちと夫婦の日常。
幸せ。
――懐かしい、もの。
今の僕にはない、小さな小さな……それでも大きい、まぼろし。
――やめ、て。
二度と帰ってこない、過去。
――いやだ……もう、見たくない!
過去の重圧に負けて、僕は夢の中で頭を抱え込んだ。
この幸せすぎる日常を、見たくなくて。思い出したくなくて。
――……もう、
もう、この時間は、帰ってきてはくれないんだ――……
*・*・*
何も無い真っ暗な空間に、太陽の光が差し込んでいく。
まるで闇を切り刻まんとしているかのように、光は段々と闇を侵食し始める。
――その光を受けて、一人の影がゆっくりとその瞳を開いた。
呪われた精霊の刻印が刻まれた、その右目を――……