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焦土と測量士  作者: today
第一章
6/35

少年と電脳士

またしても、長い文章になってしまいました。読む人ごめんなさい。

続きが予想以上に早く書けたので投稿します。

 こんな日に出歩く人間はそう多くない。

 だが、仕事をしない訳にはいかず、ちらほらと口を覆いながら出勤している人の姿が見られる。

 スリップは怖いので、減速しながらの出勤だ。

 砂や灰はバイクにとってかなりの危険物だから、運転に気を抜けない。

 悪天候ゆえに、街並みを確認するのは難しいが、地上に住む人間は余り少ない。

 殆どの人間が地下にもぐっている。

 第一の理由は、他の地域から流れて来る汚染物質の心配、第二に、地上は殆どの機能を先の大戦で失ってしまい、建造物は崩れた物ばかりで不便だからだ。

 だが、地下交通網を広げる余力は何処のコミュニティにも無く、地上を移動しなければ辿り着けない区画が多数存在する。

 だから、地上を行き来する影は少なくない。

 

 道路の舗装などほとんどされず、バイクはかなり揺られる。

 灰色の街を、小さな二輪車は駆け抜ける。

 残骸置き場に似た区画まで走った。

 その旧世代の遺物に埋もれるかたちで、小屋が建っている。

 横には、何台かの電動バイクと車が並ぶ。

 そのさらに横に、見慣れないトレーラーとキャンピングカーが数台駐車されている。

 

「測量団のお客でも来てるのか?」

 

 横目に見ながら、駐輪と施錠を手早く済ませて小屋に入る。

 扉はゆっくりとスライドし、脂臭さが充満する小さな部屋が出迎える。

 中には、三つの扉と電子ロックがあり、それぞれの戸にインターホンが付いている。

 床の砂が擦れて音を立てる。


「掃除しろよ。」


 思春期のイライラを独り言に乗せて吐き出す。

 ポケットからカードを取り出し、電子ロックのカードリーダーに入れる。

 作り物とバレバレの「カード認証しました」の音声と共に、ドアが開く。

 ドアに入ると薄暗く、稼働していないエスカレータを素通りして、リノリウムのはげ落ちた階段を工具箱片手に降りてゆく。


 ちなみに天井は低く背の高い人間は、かなりギリギリの高さの階段である。

 地下四階に来て、すりガラスの向こう側に光が見える扉がある。

 手前に長机が置いてあり、その上に脱いだヘルメットと口当て布を乗せる。

 埃を払ってから、ドアノブを回し入室。


(ここに着くまで何回ドアをくぐらせるつもりだか。)


 白夜はため息交じりに、タイムカードを取り出し、機械を通して時間を記入。

 一時期は絶滅危惧にすら指定された機械らしいが、今はどうでもいい。

 カウンターを見ても誰もいないのが、さらにこの空間を不気味にしている。

 大戦前はターミナルの一角として使われた区画を、改造したこの電機屋がバイト先だ。

 掲示板に貼りつけられた、レシートに似た今日の作業ノルマのリストと剥がし、さらに奥へと進む。

 いつもなら、ここで小うるさい店長が出てきて、追加の作業リストを押し付けてきて、受付嬢をやっている、可愛い女の子が励ましてくれるのだが、今日は何もない。


「禿げ店長はずる休みか?追加が無いなら仕事が楽でいい。」


 憎まれ口を叩いても、反応が無い。

 ここで悩んでも始まらないため、鉄の重たい扉の向こうにある作業場に向かう。

 ベルトコンベアや、アームが設置された場所に、夜勤メンバーがうなだれて作業をしていた。夜間勤務の疲労が凄いが、いたって普通の光景だった。


「事故った訳じゃないのか。」

 

 独り言を漏らしながら、周囲の状況を確認する。


「俺がミスする訳が無いだろが!」


 いきなり怒鳴り声が飛んでくる。

 紺色のキャップを深めに被ったが体の良い男が、こっちを睨んでいる。


「いや、別にロペスさんがどうだとか一言も言ってないでしょ。」


 白夜は頭を下げながら言いわけをする。

 この、筋肉隆々でつなぎがパンパンに膨れた男は、ロペス・ハミルトン(本名かは不明)。

 深夜の現場監督をする人だ。


「店長が見当たらないから、問題でも発生したのかと思いまして。」

「いや、…って店長じゃなくて一応社長なんだけど。お客と話してるらしいぞ。」

「まさか、測量団じゃないですよね。」

「分からん。それより喋ってないで、さっさと担当と交代しろ。」


 これ以上、口を開けばまた怒鳴られそうなので急いで家電修理ラインに向かう。


「お疲れ様です。交代します。」


 一晩中、電化製品の修理を行っていた夜勤メンバーに軽く挨拶をして軍手をはめ、ベルトコンベアの前に立つ。


「おう、やっと来たか。今日のシフトは朝番がねえからきつかった。」


 作業をしていた中年のおっさんたちが一斉に作業場の端に集まって寝ころんだ。

 そう言えば、今日は朝六時くらいからのシフトのメンバーが存在しないかなりきつめのシフトだった。

 そのため、深夜部隊が深刻な疲労を抱えている状況に陥っている。

 ノルマの修理工程を再確認し、工具箱を広げ冷蔵庫の修理にかかる。

 基盤そのものがいかれている場合は、型番を見てそれに合致するパーツを取っている。

 それでも駄目な場合、ソフト面で深刻なダメージがあったりする。

 そのバグを発見し、削除するのがかなり大変だ。


 いちいちキーボードで削除と、命令文の打ち込みをするのは骨が折れる。

 だから、首筋にケーブルを刺して家電に繋いでソフト修理をする白夜はソフト修理においてアドバンテージが高い。

 なぜかと言われれば、手で情報を入力するより、脳で考えた事全てが入力される方が情報量が圧倒的に多いからだ。

 まあ、大抵ここのラインに流れて来るのは、深夜の頑張りでハードの修理が終わった物ばかりなので結局、白夜がソフト修理をするはめになる。


 多くの電化製品は、大戦前に技術革新があったことで、ほぼすべてにプログラムやら、量子ネットワークを利用した保守点検用の電脳空間を所持している。

 そこに白夜は入って修理する。

 家から潜った電脳世界に比べたら、あまりにも小さい虚数空間。

 問題の個所を探すのも彼にかかれば、数秒で発見される。

 

 ここでもフィニルの機能は役に立つ。

 異常プログラムの検索は、電脳空間の攻撃を探知することの応用だ。

 凝り固まった変質プログラムは、フィニルの情報パルス攻撃で粉砕。

 後は、取り除いたプログラムを補う情報を足してやれば作業終了。

 時間にすれば、五分とかからない。

 そしてまた現実世界に戻り、別の電化製品の電脳空間に潜入。

 一時間で八台以上の修理を行う。

 もはや人間離れした作業速度だ。

 これだから、社長から追加の作業を押し付けられてしまう。


 正午過ぎにはノルマの七割を済ませ、昼食を取る。

 それが終われば、休む暇も無く作業に戻る。

 他人の倍以上の修理を行うため、バイト代はかなりの金額になる。

 それもあって、周りからのひがみも多くこの作業場ではあまり中の良い人はいない。

 口を開けば、脳を繋ぐなんて気持ち悪いだの、現実逃避のツールなんて使うなだの、言われるのが落ちだ。

 だから、この場からさっさと逃げてお金をたくさんもらうために、一量子ビットでも多くの情報を早く処理する技術を日々鍛えている。

 脳内で情報の処理が速くなれば、電脳世界で出来る事も多くなり、そして、その影響力も強くなる。

 そうすれば、いずれどんなフィニルすら恐れる事なく、あの自由な場所を思う存分堪能できる。

 白夜にとって無上の幸せと言っていい。


 他人から見れば寂しい人生に思えるだろうが、東洋人である事がばれればあまり好意的に思われないこのエリアで人と深く関るなど無理な話。

 だから、自分を偽らずにいられる電脳の海は、彼にとって母なる海に等しいのだ。

 と、三時を回るころには本日のお仕事は終了と言った具合だ。

 ノルマのチェックリストをラインの監督に提出し、鉄の扉の外に出る。


読んでいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

何かこうした方がいいなど、アドバイスがありましたら、遠慮なく感想に書いてください。それと、できるだけ感想を書いていただければありがたいです。

(それを読んで活力にいたしますので。)

では、不定期ですが、次回も読んでいただければ幸いです。

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