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焦土と測量士  作者: today
第一章
3/35

ウィルス

 電脳空間の全てが分かっているかの如く、振り向きざまに五十メートルは離れたビルの柱に手りゅう弾を投げる。


 着弾する直前に、柱の一部が切り取られ、開き、中からマシンガンが飛び出してきた。

 当然、そのマシンガンは爆散して弾丸を吐き出す時間すら与えられなかった。


 それから、ホバリングしていたフィニルのバーニアをふかして、窓の無い部分から高速で侵入する。

 ツバメですら真似できるか分からないほどに、鮮やかに建物の中を飛行する。


 狭い金属質の廊下から、リノリウムとコンクリートの階段の折り返し、複雑な軽金属で仕切られた室内通路に半透明の結晶体の瓦礫で狭くなった警備用通路、それらに衝突すること無く通る。


 その先には、膨大なスイッチの並ぶ空間に出た。

 恐らくここで、このビルの警備システムを動かす様になっているのだろう。

 その一角に先ほどと同じ、液体金属が張り付いていた。

 それを容赦なく文字の煙に変換し、壊す。


「二匹目。」


 そして、倍速で元の道を戻り、外に出ると、全長二メートルのフルメタルスコーピオンが三体、待ちかまえている。

 巨大なハサミが胴を狙うが、紙一重でかわし、敵の頭部に両手を当て、念じるように肩に力を入れる。

 すると、パワードスーツから、黒い派動と青い派動が交互に発生し、金属サソリの全身装甲をはぎ取っていく。


 痛みがあるのか分からないが、敵はのたうち尻尾と無数の足をバタつかせ、悶えるがそれを気にする事も無く、心臓部を打ち抜く。


「三匹目。」


 なおも少年の動きは止まらず、飛び散った破片に指を向けると、その破片が爆風に逆らい弾丸の如く他のサソリ型ウィルスに突き刺さる。

 脚の部分が損傷し、動きが遅くなる相手をブースターで、四百メートルほど引き離し、腕のガントレットをも一度なでる。


 その動作に合わせて、自分の身長と同じくらいの砲身のビーム砲が出現。

 瞬時にサイトに敵を入れ、引き金を引く。


 その姿は漆黒の狙撃手、暗黒の死神と呼ばれるにふさわしい姿。


 出力される電脳荷電粒子は、電脳空間その物を軋ませながら、攻撃対象物に直進する。

 移動手段や防衛手段を失った哀れな虫は悲鳴を上げる暇も無く文字列となって消え去る。


「さあ、ラストだ。」


 だが、もう一度照準を合わせた時には、そこに居たウィルスは消えていた。


「逃げられたか。」


 その声の後にウィンドウが開き、スコーピオン一体他のURLへジャンプ:逆探知不能。

と表示された。


 まだ暴れ足りず、不満が残っていたがお気に入りの場所を守りきった満足感と、これほど危険な場所に来られる優越感に少し高揚する。


 目の前には青白い光の満ちる幻想的な世界。

 人によっては無機質で温かみが無く、酷く歪で毛嫌いしそうなクリスタルやガラス質で形成された構造物が立ち並ぶ街並みは、彼にとっては人間がリアルワールドでは作るのに失敗した夢の世界に自分が到達したと思える場所なのだ。

 他人が少年をネットオタクだとか、現実から目を背ける精神の弱い人間だとか非難しようとここに来る。


 今どきウィルスの漂う量子ネットワークに潜るのは、測量団のネット専門の人か、有力な国家のネット部隊ぐらいで、一般人が潜るのは命知らずの馬鹿であるため、そんな技術ははっきり言って無駄で、庶民にとっては現実逃避した社会不適合者が自暴自棄になって脳神経をネットに繋いでいるとしか思えないのだ。


 だから、こんな風に自分が直に情報の海に飛び込み、物体と異なるもう一つの世界を体感できるのは一般人では自分だけと言う優越感といったら表現できない。

 ここでは、肉体のある世界の法則に縛られず、ナイトでもウィザードでも、サイコキネシストでも何でもなれる。


 誰も自分を蔑む者の居ない世界、本当の自分をさらけ出せる世界。

 電脳世界では無意味だが、深呼吸をして量子信号パルスを全身いや、全中枢神経で堪能する。


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