1-5 Ohm side
☆
「え!?」
「あ痛ッ!」
ハイドスキルを使い気配を消しながら移動していたのが仇になった。なんと目の前の人が急旋回してきたのだ。その人は私に気付かず進んでしまったし、私も走っていたので止まれずぶつかってしまった。
「あ、すみません気付かなくて。大丈夫ですか?」
見上げると初期装備のイケメン(アバター)が私に手を差し出している。こんな少女マンガみたいなこと本当にあるんだな。と思いながらその手を借りる。まあだいたいみんなアバターイケメンだしね。マッチョとかお相撲さんみたいなアバターの人もいるけど。
「すみません。止まれなくて。」
「いや、全然。人の気配が無くて、今始めたばっかりでまだこのゲームに慣れてなくてぶつかってしまったんだと思います。」
ハイドスキル使ってたことは黙っておこう。スリとかと間違えられても嫌だし。まあこのゲームそういう盗み系はプレイヤー間ではできないんだけど。
「お兄さんかっこいい装備してますね。」
「あ、ありがとうございます。」
「スッキリした黒の装備に黒髪は映ますね〜!」
どうやらこの人は私を男性アバターだと勘違いしているようだ。ユニユニを始めて半年、他の人の邪魔にならないようにハイドスキルを進めた結果ジョブもほぼ忍者に寄っていたためそのまま隠密系アップの装備を着ているからだろうか。
「これもMMOの醍醐味かな!って思うんで良かったらフレンドいいです?お兄さんが初なんですよー!まあまだ5分と経ってないんですけど!」
「え、あ、はい。じゃあ・・・。」
なんだこの展開。勢いに押されるままついつい返事をしてしまった。とりあえず申請を待ってみる。
「・・・。」
「・・・。」
え?なにこの沈黙。なんの時間?私どうしたらいいの?
「フレンド申請ってどうやるんですかね?」
イケメンはてへへと笑いながらメニューを開いている。そうだこの人まだ始めて5分も経ってないって言ってたわ。私がやらないといけなかった。
「あ、えっと、私がやりますね。えっと、あぁ!ちょ、ちが!」
慌てに慌てた結果白紙のプロフィールカードを飛ばしてしまう。人と交流する機会がほぼない私はプロフィールカードを交換することも無いのでいじったことも無い。
「ん?これでフレンドになったんですか?プロフィールカード?」
「や、ちがくて、その、すみません!ちょっと待ってください!」
急いで通常のフレンド申請を送る。
「Abyss Ohmさん?」
「そうですアビスオームです。よろしくお願いします。」
「ナッツサーティーンです!よろしくです!ってアビスオームさん女性なんですね!?すみません俺勘違いして・・・。」
「あ、全然!その!気にしてないので!大丈夫です。こちらこそ言うタイミングが見つからなくてすみません!」
ナッツさんはナンパみたいになっちゃまいましたけどそういうのじゃないので、と丁寧に謝罪をしてくださった。なんだろう。溢れんばかりの陽キャ感だ。本来関わり合いになることはないだろう人種な気がする。
ちなみにこのゲームのフレンド申請では名前と所属していればギルド名、そして名前の横にオスメスマークが出る。
「あ、ナツじゃん。なにしてんの?」
声がした方を振り返ると怖そうな金髪のお姉さんが立っていた。装備からして魔法使いか。あれは2回前のアプデで話題になっていた《羽衣ローブ》かな。
「このゲームそんな簡単に出会えんの?てか初期装備じゃないじゃん。」
「いやそろそろかなと思って探してた。いいでしょー!私の名前にピッタリ!」
「あ、そうだキャラ名くらい教えといてよ。サーチしても出てこなかったわ。」
ナッツさんと親しげに話すこの女性は何者だろう。そして私はもう立ち去ってもいいのだろうか。イケメンとギャルに挟まれてなんとも居心地の悪いこと悪いこと。そして私を挟んで会話するのをやめてください。
「あ、ほんとだ。忘れてた。フレンド送るね〜。」
「いやGod Venusって。」
「私が神で女神だぞ。崇めな?」
「はいはいカミさんカミさん。」
「それで?この人は?」
ふいに視線が私へ集まる。そうか、ぶつかったからハイド解けてるのか。見えてないのかと思ってたがただただ空気にされていただけのようだ。
「あ、えっと、あの、その、あの・・・。」
「この人はえっと、なんだっけ、あぁ。あれ、オムさん。」
「オムさんね、りょ。知り合い?」
「今知り合った。フレンド第1号。」
「はっや。」
ハッハッハと笑うゴッドさん。やっぱりそうだ。この2人は紛うことなき陽キャだ。ノリが。てかオムさんって何!?なんでそうなった!?
「じゃあオムさんも私のフレンドってことでよろでーす!崇めてね?」
そう言ってフレンド申請が送られてくる。うわ、本当にGod Venusだよ。どんな自信だこの人。自分で女神名乗るとかすごいな。
「あ、よろしくお願いしますす。」
まさかここでの出会いが後に深く深く関わることになるなんて今はまだ知る由もない。




