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小話3. 秘密は三日月の形をしている

 三日月の戦いとは十五年戦争屈指の激戦である。後年、十五年戦争はざっくりと五年ずつに上期、中期、下期と味気なく分けられる。下期はレヴィアンとクルアハが派手に大暴れした時期であり、三日月の戦いはその下期の幕開けと言われている。



 異変があったのは三日月と朝日が空を彩る時分、傷病兵の治療をしていたクルアハは敵による魔術の行使を感じた。周りの様子を見ると、さっきまで横になっていた傷病兵達が自分の怪我に構わず周囲の人間と殺し合いをしている。骨折した腕を動かし、脚がちぎれても立ち上がろうと蠢く。正気の沙汰ではない。クルアハは自分では根本的な治療は不可能だと判断し、ひとまず彼らの動きを封じた。そして、急いで魔法に精通しているレヴィアンのテントに行った。

「何が起きている……?」

 レヴィアンはやや広めのテントの中、仲間の死体を見分していた。

「死霊魔術だな。つまり、俺達の仲間はみんなゾンビになったんだ。首を刎ねるまで止まらないらしい」

「のようだな」

 レヴィアンが殺した味方には様々な傷があるが首を刎ねられるまで止まらなかったらしい。

「術師を殺しても無駄か」

「ああ。俺もそんなまどろっこしいことはしないしな。……あ、先程の言葉を訂正しよう」

「ん?朗報か?」

「つまり、敵も味方も、補足すると敵の術師もみんな、俺達2人を除いてゾンビになったんだ。朗報かな?」

 レヴィアンはクルアハに対して諭すような口調でわかりやすく説明した。つまりは、悩む前に早いところ敵も味方もまとめて殺さねばならない。戦場以外の、例えば近くの村に被害が広がる可能性がある。急がなければならない。

「要はまともな奴ほどゾンビになったってわけか。嫌な報せだ」

「理知的に言うと魔力量の問題だろうよ。術師より少ない奴はみんなゾンビだ」

 それで、お前はどうすると試すように見つめるレヴィアンに相対してクルアハは覚悟を決めた。

「私に迷いはない、お前と違ってな……。今日の戦場はこの三日月の下。遠慮なくみ~んな殺せばいいだけだ」

 可愛げのない台詞を吐き捨てて、クルアハは今日の戦場に向かった。

「いつも遠慮なんてしてないだろう」

 捨て台詞を拾うとレヴィアンは古代魔術を駆使して広範囲攻撃を実施し、敵も味方も区別なく殺した。クルアハに指摘された迷いは薄れていた。

 そろそろ終わりが見えてきたなと思い、レヴィアンは辺りを探ると一番見たくない光景がそこにあった。クルアハがクロムを斬っていた。クロムは最期に土気色の唇を動かしていた。やけにスローモーションに見えた。

 そうして、戦場に異様な静けさが戻った。クルアハの様子を見ると珍しく左目から血を流していた。クルアハはクロムを斬る際、クロムに指を入れられ、左目を潰されていたのだ。

「治さないのか?」

 二人だけとなった戦場でレヴィアンはクルアハに恐る恐る声を掛けた。残った片目で何を考えているのか。レヴィアンでも見通せない黒々とした絶望がクルアハを覆っている。

「……できない」

 嘘だ。クルアハに治せない怪我はない。魔力さえあればどのような怪我でも治し、欠ければ再生させることができる。

「レーヴ、汚い空だなぁ」

 クルアハは上を見ている。血煙の間に暗い空が覗いていた。どうやら夜になっていたらしい。残った目でクルアハは空を眺め続けている。

「空は空だ」

「……違いない。汚かろうが赤かろうが、空は空だ」

 レヴィアンは下を見た。味方と敵の死体が入り混じった地獄絵図があった。そして、クルアハに首を刎ねられたクロムを目に灼きつけた。

「なあ、クルアハ」

「なんだ」

クロム(善人)が死ななくてすむ世界を創りたいな」

「……私は兄さんが傷つかないですむ世界がいいなぁ」

 いつの間にかクルアハが空から視線をレヴィアンに移していた。

「クロムは最期になんて言ってた?」

 クロムとよく似た顔立ちと全く似ていない表情を見ていたら、するりとレヴィアンの口から言う気のない言葉が漏れた。

「ゾンビが動きを止める時が最期?……笑わせる」

 案の定、呆れた笑いを含めてクルアハは答えた。それもそうだなとレヴィアンは頷き、同意を告げようとした。

「空が赤いと音を出していただけだ」

 そして、クルアハはたった一つになった目を三日月形に歪ませ、再び、暗い空に視線を移した。


 


 生存者は両軍合わせて二人、レヴィアンとクルアハだけ。戦場も焼け野原と化していた。そのため、詳しい状況は有耶無耶のまま、後年に伝わる情報は皆無に等しい。もちろん、敵も味方もゾンビとなったことは誰も知らない。レヴィアンとクルアハの秘密である。









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