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5. レティの学園生活は



「おはよう、とっても気持ちのいい朝ね!」


 九月の微妙に強い日差しを浴びて、レティがはしゃぐ。これが曇りなら落ち着く、雨や風が強いと楽しいと表しただろう。

 毎朝迎えに来る殿下と共に馬車から降りた先には、取り巻き達……レティ様親衛隊第一群の十数名がズラリと並んでいた。


「「おはようございます、レティ様」」


 一斉にカーテシーをする図は壮観だが、初等部からなのだ。生徒は皆、見慣れている。最初は謎に頭を下げられることに嫌がったレティも、「レティ様が大好きだからです」と言いくるめられ、そういうものだと思っている。

 毎度のごとく名残惜しいと嘆く殿下は、殿下とはいつでもお話しできますから、という精神への打撃を受けて、別ルートで生徒会室へ向かい、レティは皆と正門を抜ける。


「なんだか嬉しそうね、ルネ。今日の魔法実技の授業が貴女の好きな複合魔法ってやつだからなの?」

「……いいえ、レティ様が今日もお元気そうだからです」

「まぁ、ルネったら! あ、ヴァネッサ、貴女新しい剣が欲しいと言ってなかったかしら? 昨日新しい鍛冶屋がオープンしたと聞いたの。一緒に行ってみましょう」

「レティ様と一緒に……恭悦至極に存じます」

「そのよくわからない言葉、相変わらずね! って、そうだわ。ロラ、貴女に聞きたい法案があったの。昨日サラから手紙が来て……」

「かしこまりました。お昼までに確認します」

「そんなに急がなくてもいいわよ! ああ、おはようアネット。この後宿題の答え合わせに付き合ってちょうだい!」

「もちろんです、レティ様!」


 一人一人と間髪入れずに話しながら、レティは校舎に入る。

 ────その瞬間、ピタリとおしゃべりが止まった。

 侯爵令嬢が様々な身分の令嬢を引き連れて、静かに移動する図。傍から見たら恐怖でしかない。が、これは学校の規則だ。

 ”レティシア・オベールが、廊下で言葉を発することを禁ずる”

 と、しっかり学生手帳に書かれているほどの。


「……ぷはぁ。いつものことだけれど、辛いわ」

「レティ様、いつものことですが、息まで止めなくてよろしいのですよ……さすがの肺活量ですが」


 教室の中に入り、レティは文字通り一息ついた。

 なぜこんなふざけた校則があるのか。というのも、レティが言葉を発するだけで、一部男子生徒は震えあがり、ほとんどの人は動きを止めて、集まってきてしまうからだ。しかもレティも一人一人と向き合って対応するため、そうなってしまえばもう最後、殿下が睨みつけでもしなければ皆レティ酔いから戻れない。学校の動き全体が止まってしまうのだ。


「皆様、おはよう!」


 レティの父、元騎士団長の英雄は言った。挨拶は大事だと。だから、レティの学園生活は挨拶から始まる。

 そうして同じクラスの第二群、第三群親衛隊の者たちとも談笑し、授業へ向かう。


 魔法実技の授業ではルネに教えられながらも複合魔法に失敗して、訓練場にどでかい穴をあけた。

 歴史の小テストでは、過去の偉人の名前をブリュレと間違えた。ブリュノである。予習したのにと悔しがるのを、アネットが宥めた。

 体術の授業では力加減を間違えて、180cmもあるヴァネッサを吹っ飛ばした。ヴァネッサは屈強だったため無事だったが、レティは「殺してしまったわ!」と涙目になった。「死んでません」とヴァネッサは言った。

 数学の時間では……レティの心教室にあらずだった。というのもレティは二桁以上の計算になると頭がパーになるのである。こればっかりは誰も慰められなかった。


「レティ様! 今日も特盛にしますからねー!」


 お昼の時間になって、レティはやっと元気を取り戻す。カフェテリアの給仕は洗濯桶のように大きなレティ専用皿にミートパスタを山盛りにし、それを満面の笑みで受け取る。レティはそれをペロッと完食し、殿下はその姿に内心で悶えるのだ。


「ごきげんようレジーヌ。妹さん……ガブリエルは元気かしら?」


 大貴族専用のカフェラウンジを出て、一般のカフェテリアを抜ける間、レティはすれ違う生徒にいつものように笑って挨拶をした。はずだった。


「……貴女、レジーヌではないわね」


 返事が返ってくるまでの、ほんの少しの間。それだけで、レティから笑顔が消えた。

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