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4. 冷酷王子の執着



 クロヴィス()()王子がレティシアに出会ったのは、五歳の時だった。


 艶のある黒髪に紫水の瞳。涙ぼくろはミステリアスで、顔立ちは端正。

 齢五歳にして多言語を操り、初等部どころか中等部までの教育を終えた神童。魔力操作に優れ、上級魔法まで使いこなす天才。


『クロヴィス様を次期王に!』


 まともな者は、皆クロヴィスを推した。


『あの第三王子を潰さなければ』


 王を傀儡とし、実権を握りたい者は、暗殺を企てた。

 しかし、彼は王位に興味がなかった。五十年に及ぶ隣国との戦時、野心家だった伯父は当時王だった祖父を生前退位させ、新体制への改革の最中で病に倒れた。その結果、穏やかで国王に向いていなかった父が跡を継ぎ、英雄によって戦争が終わった今でも政界は荒れている。そんな面倒事を引き受けるつもりなどなかった。

 彼は派閥争いに巻き込まれるどころか、その幼さや異常さを巧みに利用した。ある者には泣きつき、ある者には人格の難を見せつけた。

 彼にできないことなど、何もなかった。彼は何にも興味がなかった。


『……退屈だ』


 唯一、政権や教育に興味のない人物。すでに退位した祖父、先々王の元でクロヴィスがポツリと呟く。穏やかな午後の王族しか入れない中庭で、先々王は飲もうとしていたティーカップをソーサーに置いた。


『クロヴィス、皆に内緒で面白い子に会ってみないかい?』


 あのオベール侯爵家の一人娘で、生まれながらに継承権第一位の王太子、つまり兄の婚約者で、自分と同い年の子がいるのだと、先々王は話した。派閥争いはもちろんのこと、英雄の親バカが酷くて本当は会えないきまりだが、とも。

 クロヴィスは面白い子などいないと思っていた。期待などしていなかった。しかし、時間は有り余っていたし、内緒と言われれば会ってみたい気もした。


『お初にお目にかかります、レティシア・オベールですわ!』


 まず普通の人間は、クロヴィスの美しさに息を呑む。次にその強者の持つ雰囲気に怖気づくか、気づけずにすり寄るか。

 ……レティシアは人懐っこくニパーっと笑った。拙いカーテシーは、まるで仁王立ちのようだった。


『初めまして、ノアール様!』


 お初にお目にかかります、が初めましてという意味なのもわかっていない。王族しか入れない中庭に来ておいて、祖父が作ったであろう偽名を信じて疑わない。クロヴィスはその眩しさに少し驚いたものの、すぐに馬鹿だと思った。立場以外利用価値のない存在だと切り捨てた。

 面白い子なんて、やはりいなかった。が、オベール家に嫌われては厄介だ。そう考えて、完璧な笑みを張り付け、相手の望む返しをしたはずだった。


『初めましてレティシア嬢。とても美しいドレスですね。貴女の愛らしさをよく引き立てています』


 名前を呼び、ゴテゴテに盛られたドレスを、何より本人を褒める。思ってもいないことであろうと、それを気取らせなどしない。片膝をつき、手を取り、見つめて微笑めばいいだろうと。


『そうかしら? 私は動きづらくて嫌なのだけれど……褒められると悪くない気がするわね。ありがとう!』


 レティシアはこてんと首を傾げ、本心からそう言って笑った。目を見開くクロヴィスに、膝が汚れたらお母様や先生に怒られるから立った方がいいと促した。その上、


『ねぇ、どうしてわざと笑っているの? つまらないの?』

『……は?』


 クロヴィスの本心を見透かした。単なる野生の勘でしかなくとも、言い当てられたのは初めてだった。


『つまらないのなら、一緒に遊びましょう!』


 レティシアはおかしかった。褒め言葉が本心でなかったのをわかっていても咎めず、クロヴィスを疑わない。頭は悪いのに、好奇心旺盛で、それ故に突拍子がなくて。素直に感謝し、素直に謝る。性格も言動も読めず、しかし心地が悪いものでもない。


 彼が”また会いたい”と思った人は、後にも先にも彼女ただ一人。


『お祖父様、彼女は、()()()()()()()婚約者なのですよね?』

『……ああ、そうだが。まさか』


 数日後、クロヴィスは継承権第一位となった。第一王子は隣国に婿入りすることになり、第二王子は病弱を理由に降格された。

 自分が未来の国母だとは知りつつも、誰の婚約者なのかは知らなかったレティは、無邪気に再会を喜んだ。


         *


「学園生活も今年で最後……後少しで授業や取り巻き達に邪魔されずに済む」

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