35. 許せないこと
劇が終わった途端、背後ではルネやロラ、ヴァネッサが集まって壊れたものを調べていて、目の前の学友たちには感謝される。レティは混乱していた。
というのも、レティの可哀想な頭でセリフや流れなんて覚えられるわけもなく。マルレーヌが考えたのは、レティの思考パターンをほぼ当て書きし、周りの行動から自然とその役にしていくことだった。つまり、レティは事故だと全くわかっていなかった。
「ねずみ?」
「……うん、どうやら鼠が紐を食いちぎってしまったようでね」
よくわかっていないレティに殿下はごく普通に嘘を吐く。その自然さは、意味のわかっている他の生徒たちでさえも錯覚してしまうほどだ。
殿下は、レティが事件などに関わったり巻き込まれるのが嫌いだ。国民などどうでもいい。レティが損なわれないことが大事であり、もし大事なものがあったなら箱などに仕舞い込むタイプだった。
これ幸いとヴァネッサに目配せし、警護するように伝えた。
「嘘ですわね」
レティは直感が鋭い。嘘特有の動きを無意識化で理解している。その上で、害のない嘘には甘んじて引っかかる。人を信じているからだ。
「悪しき者が、いるのでしょう?」
だが、それが自分を守るものや他人が傷つけられるものなら、話は別だ。
「未来の国民たちの思い出を守らなければ」
殿下は嘘の仮面を外し、盛大にため息をついた。こうなってしまえばもうてこでも動かない。なんなら予測不能な動きでいつの間にか犯人を救ってしまっている。
「うん、わかった。降参だよ。今回は上手くいくと思ったんだけどな……」
「私がわからないわけないでしょう? ずっと一緒にいますのよ」
「やめてくれ、そういうことを言うのは」
「?」
さっきまで恐れられていた殿下に生暖かい目が送られる。レティが無自覚に酷い女すぎて、あまりにも不憫だ。しかもわからないまま、まぁいっかというように放置。
「ルネ。悪しき者の位置がわかる?」
「……魔力痕が微量すぎて」
「微量って少ないってことよね? なら、痕跡が私でもわかるようにするのは?」
「……追跡はできませんが」
「十分よ」
ルネが魔法を展開させ、解析を始める。魔力には、気配がある。身体能力の優れたものは魔力操作が不得意で、魔力の優れたものは身体能力の低いこの世界で、あまり役に立たないものだ。
スンスンッとレティが匂いを嗅ぐ。ふっ、と教室棟の方を向いた。
「あっちよ」
追跡魔法などいらない。どちらも最高峰の異端、レティにはわかる。
殿下はレティのクラスメイトにはこのまま待機を、アネットには魔法で劇の時間割変更を伝える。ロラはその場に残り、今後の後処理の算段だ。ルネは遠距離から援護を、ヴァネッサは別ルートから。
レティはまっすぐに犯人の元へ向かう。
普通の足取りで、普通に準備室のドアを開ける。
「おー、オベール様。どーしたんですか、文化祭中に。課題ならちゃんと受け取っ……」
「見つけた、貴方ね?」
レティが殺気を纏わせる。先生は指を鳴らし……準備室で爆発が起こった。
「っ!!」
ルネが防音魔法を、殿下が防御壁を張ったため、レティは何事もなかったが、ゆるい授業に反して念入りに作られた資料、何より赤ん坊の映った家族写真に火がつく。
「オカシイなァ。バレてしまった」
そこにいたのは、地理学の先生の顔をした、何者かだった。ケタケタと笑い、焼けこげた写真を握りつぶす。
「……先生はどこ?」
戦いの時ほど、感情に飲まれてはいけない。レティは低い声で尋ねる。
「……コロシましたヨ」
目を三日月型に細めたその姿に、レティはこの者をこてんぱんにすると決めた。




