34. レティは麗しい
文化祭の当日となり、レティがはしゃぐ。
殿下はもちろん一緒に回る気だったのだが、「生徒会のお仕事が忙しいのですものね」と親衛隊員との先約を入れられてしまった。アネットが不参加な分、言い訳もできない。
「全クラス回るわ!」
「レティ様、流石にそれは難しいのでは?」
「……校庭の模擬店などは数に限りがありますし、早めに行った方がいいかもしれません」
「コットンキャンディがこの値段とは。魔法で作っても味は変わらないのに悪どい……」
パンフレットを見てヴァネッサが顔を顰める。文化祭値段というものだ。真っ当な商売など期待してはならないし、レティはそんな細かいことは気にしない。
「さあ、行くわよ!」
なんだかんだと言いながら買って食べて、お店を回る。ゴーストハウスに謎解きゲーム、占いの館なんてものまであった。
「では、この国の未来を!」
本来は恋愛などについて聞くべきところで、レティは迷いなくそう尋ね、占い師役の生徒は震えながら「あ、安泰です。素晴らしい未来でしょう」と言った。例え災厄が降りかかると出たとしても、そんなことは言えない。レティは全く疑わずに喜んだ。
「次はどこに行こうかしら!」
「いえ、レティ様は衣装に準備がかかる役ですし、早めに行った方が良さそうですね」
「え、もう!?」
レティが走る。危ないから……と言う前にもう背中が見えなくなった。親衛隊員たちも裏方を手伝うために歩いて向かう。
劇のストーリーは王と王妃のラブロマンスだった。ある国でクーデターが起き、王は王妃を逃す。しかし、実は王妃は身籠っていた。王妃は幼馴染に助けられて、田舎で子を育てる。王もまた、他国の力を借りて、王は国を再建した。
幼馴染と恋仲であると勘違いされたり、部下を側妃だと思ったり、お互いにすれ違いながらもなんやかんやあって王妃は生まれた子供と共に戻るのだが、道中で襲われてしまう。
そこで現れるのが、親友のために姿をくらませた幼馴染。親友をお守りするために男として育てられた騎士だった。
大きく剣を振り、まるで絵のように。金髪とフリルが華やかに揺れる。
観客がまず思ったのは、「衣装係が優秀すぎないか?」だった。
「お怪我はありませんか?」
「「ひゃ、ひゃい……」」
守られる親子役の生徒が演技を忘れ、完全に惚れている。
麗しく凛々しい顔で手を差し伸べるレティに観客は放心した。キリッと微笑めば、薔薇が舞う幻覚が見える。ニパァァと笑う天真爛漫なレティはどこにいったのだろう。
そんな観客や役者を置いて、物語は進んでいく。騎士は護衛となり、無事に王の元へ送り届け、離れ離れになっていた親子は再会を果たす……。
いよいよクライマックスのその時、グラリ、と城のハリボテが傾く。例えハリボテであろうと、この大きさの木の板が頭上から降ってくれば怪我をする。その上固定した糸が絡み、照明までも……
「ハッ」
全ては、一刀両断された。偽物の剣……なまくらであろうとも、レティには関係ない。無意識化で強化魔法を施し、炎と共に焼き切る。照明と反応し、バチバチと火花が散った。
「無事でよかった」
国王親子に声をかけ、観客の方を向き、レティが頭を下げる。万雷の拍手と共に劇の幕は閉じた。演者たちは舞台袖にはけ、顔を見合わせる。
「だ、大成功だ」
「レティ様、ありがとうございます」
「うわ、まだ拍手が鳴り止まないよ!」
学友たちが騒ぐ中、レティのクラスにいる陰の薄い娘……実は巷で有名な劇作家であるマルレーヌは舞台袖で一人拳を握りしめた。一学年の時からずっと、レティに男装してもらいたくてたまらなかったのだ。三学年になりレティと同じクラスになった時、マルレーヌは天啓を受けたのだと思った。しかし……
「でも、脚本通りじゃないわ」
呟きと共に、静寂が広がる。
足音がした。その冷たい魔力に、学友たちが固まる。
「……その話、聞かせてもらいたい」
「ク、クロヴィス王太子殿下っ!」
すぐにルネたちが調べたところ、微少ながら、木っ端微塵になったハリボテにはレティ以外の魔力痕が残っていた。
「舞台道具に細工ができそうな者は?」
「げ、劇が始まるまでは教室においてありましたから誰、も……教室に入る権限を持つ人……教師なら」
見立てによると相当な手練れであり、生徒ではない。
「鼠が紛れ込んでいるようだな」




