33. 静まりなさい!!
「次はその木材を運べばいいかしら!?」
冬休みやプティの日、そして中間テストが終わるとすぐに文化祭がやってくる。捻くれた生徒などはこんな冬にやらなくてもと思うのだが、大きなイベントを夏……三学期にやるわけにはいかないのだ。
「あ、あのレティ様、殿方たちが……行ってしまわれた」
無事に中間テストを乗り越えたレティは浮かれていた。校庭に置かれた長い木材の二、三本が持っていかれる。騎士団に入団するつもりの男子生徒が、死んだ魚の目でレティを見ていた。侯爵令嬢は片手で木材を担がないのだが、余裕で担いで鼻歌をしている。
「ふん、ふん、ふふ〜ん!」
なお、レティは音痴だ。オベール家は母と次兄以外皆そうで、しかし自分では上手いと思っている。厄介だ。
「やぁ、レティ」
「殿下! 殿下は文化祭で何をやることになりましたの?」
「生徒会の運営かな」
「それは知ってますわ! クラスのは?」
「……生徒会が忙しいから出ないんだ」
偶然を装ったように出会っているが、殿下は監視水晶玉を見て会いに来ていた。また、殿下があくせく働くわけがない。自分は采配するだけだ。忙しいから出ないのではなく、レティを監視するのに邪魔だから不参加なだけである。
「まぁ……私は劇に出ますのよ!」
「それは楽しみだな。後で台本を見せてもらうよ」
ラブロマンスだった場合、学友は皆死ぬだろう。レティが自分以外と結ばれるなど劇であっても許さないのが殿下だ。
「殿下は見る前に内容を知ってしまってもよろしいので?」
「ああ、うん」
「私ね、男装して襲われる親子を守りますのよ!」
学友の命は助かった。とてもレティらしい役である。襲う役が怪我をしない事を祈るばかりだが、きっと迫力が出るだろう。
「それはいいね」
「ええ、絶対見に来てくださいね!」
レティは手を振って中庭へ行ってしまう。舞台の枠を運んでいるのはわかるが、本来一人で持てるはずもない重さと長さであり、周りが危険だ。校舎の二階の窓から顔を出したルネがこっそり形態変化魔法で長さを変えている。全てそうやって加工してしまえばいいのだが、この学園にそんな高度な魔法をかけられる大魔法使いなどルネしかいない。
「アネット、持って来たわよ!!」
「あ、レティ様。その、えっと、少々お待ちください」
中庭では書類を持ったアネットが囲まれていた。皆怒っており、冷静さに欠けている。
「だから、なんで劇が一番最後なんだよ! 不公平だろうが!!」
「ですから、それはくじ引きの関係で……」
「ねえ、なんでうちの模擬店の販売許可が降りてないわけ?」
「衛生管理の条件が達成されておらず……」
「ちょっと、頼んでおいたペンキがないんだけど!」
「注文リストから確認を……」
レティに難しいことはわからない。しかし、状況が良くないことはわかる。レティは大きく息を吸い……。
「っ一度静まりなさーーいぃ!!」
大声を出した。それはもう大きな声だった。静まれと言われても、近くにいた人間は衝撃波で黙るしかない。なんだなんだと皆が中庭を覗く。
────ドン、と中庭が揺れた。
「ヴァ、ヴァネッサさん、心臓に悪いので一言言ってください」
「……すまない」
状況を理解したヴァネッサがロラをお姫様抱っこして二階から飛び降りたのだ。アネットが目を見開く。
「どうやらお困りごとのようですね、アネットさん」
「ロラさん!!」
「ロラ、ちょうどよかったわ!」
学園内ではロラが一番適任だ。アネットから資料を拝借し、読み込み、順番に対応し、的確に、有無を言わさない。とはいえ思い通りにならなくて苛立ちの残る生徒たちをアネットが宥める。完璧な布陣だ。
「私なら言いやすいと思われているらしく……助かりました」
「文化祭など行事になりますと、必ず問題が起きますからね。ですが、まだ準備期間です。これからが本番ですよ」
二人がそんな話をしている間、レティは木材をノコギリで切っていた。ヴァネッサはそれを手伝いながら、手刀でやった方が速いのでは、なんて思っていた。




