28. 学期末ならぬ世紀末
レティは絶望していた。いや、レティは絶望などしないのだが、とにかく弱々しかった。
三学期制はテストの間隔が短い。そのおかげで範囲は狭いのだが、レティの可哀そうなおつむには関係なかった。
期末ならぬ世紀末テストが近づいてきていた。
「イヤァァァァァ!!」
「レティ様、大丈夫ですよ!」
「これが終われば冬休みです」
「中間も無事だったのですから、期末もどうにかなりますよ」
「……また教えます」
デジャヴどころか前回よりも酷かった。期末は教科が増えるのも原因だろう。テストばっかりは人が助けることはできないし、殿下が圧力をかけたところでレティは不正を嫌う。というか殿下も一緒に嫌われてしまう。本当に頑張るしかないのだ。
教室のドアが開く。地理学の先生がひょこっと顔を出した。三十代半ばで緩くて、生徒から人気のある先生だ。
「おーい、オベール様。テストでまた赤点ギリギリだとちょっとまずいから、放課後補習!」
その言葉にレティが顔を輝かせる。
本来、補習は嫌がるものだ。しかし、それはちゃんとやれば平均点が取れる人間に限っての話。補習またの名を救済措置は馬鹿の味方である。頭ではなく熱意でカバーさせてもらえる素晴らしい機会だ。
「救いの光が見えたわ!」
「……いやもう、こんなダルダルで授業中もテストにどこ出るのか教えてんのになんでダメなんよ。勘弁してよ。まだ殺されたくないんだよ、子供生まれたばっかだってのによぉ」
他に補習受講者がいないせいで、殿下に殺されかねない事態になっているのだ。喜ぶレティに先生が嘆く。サラッと言ったことに教室がざわめいた。
「「先生、結婚してたんですか!?」」
先生の恋愛事情で騒ぐのは学生の性である。騒ぎを聞きつけて隣の教室からも人が来て、先生は囲まれた。男子生徒に根掘り葉掘り聞かれ、女生徒に揶揄われ。レティは呑気にお祝いの品を用意しなければと考えていた。そんな騒ぎを聞きつけて、別教科の先生方もやってくる。
「一体何が……あっ、オベール様補習です」
「うわ人が凄いなぁ……って先生方」
「あー、ちょっと口滑らせて……オベール様に補習の連絡しに来ただけなんですけどね」
「奇遇ですねぇ、私もですよ」
国の明るい未来、レティを留年させないために、各教科の先生方の考えることは同じだ。レティの机とスケジュールはあっという間に補習と課題で埋まっていった。殿下がまた拗ねることになるだろう。
「レティ様、課題の解説はお任せください!」
「……頑張って教えます」
「スケジュール管理はお任せください」
「体術は実技で取り返しましょう」
第一群はもちろんのこと、第二群や三群すらもレティに教えられるようにと頑張るせいで平均点が上がってしまい、余計難しくなっているのだが……先生たちは美しき友情ならぬ親衛隊員たちの熱意に口を閉ざした。
結果的には全体の成績が伸びているため、国益にはなっている。レティ効果だ。
「皆様ほんとうにありがとう!! 私、頑張るわ!」
やる気満々なレティが力こぶを作ったところで、辺りが急に静まり返る。いつの間にか、白い髪に褐色の肌のエキゾチックな青年がレティの目の前にいた。
「……ハッ。こんなのが侯爵令嬢とは、国力が知れるな」
鼻で笑った彼は、留学中の西の国の皇子殿下だった。短期で一週間ほど滞在する予定で、先日着いたばかり……つまり、レティのことをよく知らなかった。学友たちは反論したいのを必死に我慢する。外交問題にするわけにはいかない。
皆が固唾を飲んで見守る中、真正面から喧嘩を売られたはずのレティが、こてんと首を傾げる。
「こんなのって……私の名前はレティシア・オベールなのですけども、カリーム殿下」
そしてまた対人に記憶が特化しすぎているレティが、他国の皇子について知らないわけがない。レティ節の始まりである。




