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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人魚の約束

作者: かなちょろ

  俺は夏休みを使って昔懐かしい海辺の田舎町に来ている。

 どうしてここに来たのか? それはよくわからない。 なんだかここに来ないといけない気がしたからだ。

 2泊3日で安い旅館にチェックイン。 若い女将さんと仲居さんが出迎えてくれる。

 チェックインも済んで部屋に荷物を置いて暑い日差しの中、自販機で水を買い飲みながら浜辺に向かって歩く。

 道路の横にはテトラポッドがあり、波が打ちつけている。

 俺はどこで手に入れたか覚えていない子供の頃から肌身離さず持っている一枚の虹色に輝く鱗を太陽にかかげた。

 キラキラと輝く鱗は俺のお気に入り。


「この先だったな」


 しばらく歩いてやっと砂浜に辿り着いた。

 潮風と波の音、焼けた砂浜……。

 海水浴に来ている家族やカップル、友達とワイワイ楽しんでいる人達が多い。


「う〜ん……落ち着けない」


 浜辺をしばらく歩いていると、砂浜のはじまで来てしまったようだ。


「戻るか……」


 引き換えそうと振り向いた時、一陣の風が吹き、少し大きな麦わら帽子が俺の視界に入った。

 反射的に帽子をキャッチして前を見ると、白いワンピースを着た髪の長い女性が立っていた。


「ごめんなさい、風で飛ばされちゃって」

「い、いえいえ……はい、これ……」

「ありがとうございます」


 麦わら帽子を返すと女性は帽子をかぶる。

 夏の日差しと潮風に揺れる長い髪、白い肌に白いワンピース……写真に撮りたくなるくらい絵になっていた。

 思わず見惚れてしまった……。


「あの……? どうかしました?」

「いえ、それじゃ俺はこれで……」

「はい、帽子ありがとうございました」


 女性はお辞儀をすると、浜辺のはじで海を眺めていた。


「ふ〜……なんだか綺麗な人だったな……、……ナンパは趣味じゃ無いけど名前聞いておきたかった〜」


 生まれてこのかた、女性に声なんてかけたことがないから最初から無理な話しではある。


 旅館に戻って浴衣に着替え温泉へ向かう。

 温泉はいい感じでさっぱりして部屋に戻る途中、浜辺で出会った女性とバッタリ会った。


「あ! 浜辺の!?」

「あ、海ではありがとうございます。 貴方はこの旅館にお泊まりですか?」

「はい、今日から2泊3日で……」

「そうなんですね、私はここで働いているんです」

「そうなんですか!? え〜と……私は【佐渡 敏夫(さわたり としお)】って言います」

「私は【井瑠美 るるな(いるみ るるな)と申します」

「るるなさん……いい名前ですね」

「そんな事ないですよ。 変な名前でみんなからはるーなって呼ばれますし」

「いいじゃないですか。 るーなって可愛いと思いますよ」

「そうですか?」

「そうですよ」

「ありがとうございます。 それでは私は仕事がありますのでこれで失礼いたします」

「はい!」


 るるなさんとまた会えるなんてラッキー! しかも話せて名前までわかるなんて……。

 働いてるって言ってたから、昨日は休憩時間かな? 明日、休憩時間に海に誘ってみたいな〜……。

 俺にその勇気があるかは、明日の俺に任せよう……。


 旅館の夕食は海の幸が並び、旅館の値段の割には豪華な海鮮舟盛りが食卓を飾った。

 もちろん全部美味い!

 この旅館は当たりだな。

 食事も終わると、ちょっとお土産を見に行くついでにるるなさんがいないかな? とキョロキョロとしながら廊下を進む。

 だけど残念。 るるなさんには会えず部屋に戻ると(ぜん)は片付けられて布団が敷かれていた。


「寝るにはまだ少し早いな」


 旅館の部屋によくある謎スペースである広縁の椅子に座って外を眺める。

 海に近いせいか波の音が聞こえる。

 せっかくなので、お土産売り場で買ったおつまみと、冷蔵庫からビールを取り出して飲みながら波の音を聞く。


「こんな休日も悪くないな……、……しかし….なんで俺はこの場所を選んだんだろう……?」


 お酒も回ってくると、細かい事はどうでもよくなってくる。

 明日は別の場所に行ってみるか……。

 今日は良い気分で深い眠りへとついた……。


「……やっぱり……、……て…………げて……」


 不思議な声が聞こえる……。 俺は寝ているはずだ……、でも、海の香りもするし懐かしい声も聞こえる……。

 ……なんだろう……?


 アルコールもあり、日頃の疲れもあったのかも知れない。 この夜は深い眠りについた。


 朝、広縁から入ってくる日差しと潮風で起きた。


「ふぁ〜……よく寝た……、……あれ? 昨日窓開けたっけ?」


 お酒のせいかよく覚えていない。

 ま、いいかと朝食を食べに行く。

 朝食は部屋ではなく食堂でブュッフェスタイルとなっている。

 うん、朝ごはんも美味しい!

 さて……るるなさんはどこかな?


 休憩時間とか浜辺を一緒に散歩出来たらいいなと思いながら服を着替えて旅館内をうろついて探してみたりする。

 ストーカーみたいだ……。

 やめとこう、仕事中だったら迷惑だし……。

 誘う勇気が出ないからと言うのは内緒だ。


「今日は違う浜辺にでも行ってみるか」


 ここには大きな浜辺の他に小さな入江がある。

 波が高く、いきなり深くなっているため遊泳禁止になったいるので人はまったくいない。

 小さな浜辺を歩くしか出来ないからだ。


「ここなら人がいないし、静かだろう」


 思った通りこの入江には人がいない。

 浜辺から波を眺めている時にふと、岩場の方を見る。

 そこには昨日と同じく麦わら帽子に白いワンピース姿のるるなさんがいた。

 岩場に座って何をしているんだろう?


井瑠美(いるみ)さ〜ん! そこでなにをしてるんですかー!?」


 声を張り上げて呼んでも波の音でかき消されたしまう。

 聞こえる距離まで近づこうと岩場に行くと、るるなさんの姿が突然見えなくなった。


「るるなさん! 海に落ちたのか!?」


 急いで岩場を上り、るるなさんがいた場所へ急ぐ。

 るるなさんのいた場所には麦わら帽子と白いワンピースが風で飛ばないように石で押さえつけてある。


「るるなさん!? 海に? まさか身投げ……」


 俺は岩場を探してみるが見つからない。 やはり海の中か……。

 

 上着を脱いで海に飛び込んだ。

 大きな浜辺の方とは違い、波も荒く深い。

 泳ぎは得意ではないものの、それなりには泳げる。

 それでも海を舐めていたのかも知れない。

 遊泳禁止になる理由がわかる。

 泳いでいるはずなのに行きたい方向に行けず、海流のせいで揉みくちゃにされてもうどっちが海上なのかもわからない。


 このままでは、るるなさんを探す余裕すらないまま自分が溺れてしまう!


 泳ぐことも出来ぬまま意識がなくなってしまった。


「……ゴホッ! ガハッ!! ……ハァハァ……、……あ、あれ? るるなさん?」

「大丈夫ですか?」

「どうして? 俺は……」


 溺れたはず……、それにるるなさんはどこから?

 それに……。


 気がついた場所は潮が引くと現れる洞窟の中。

 わずかに海水が残っている。

 そんな場所に水着姿のるるなさんに膝枕をされていた。


「ご、ごめんなさい!」


 膝枕に気がつき急いで起きあがろうとすると、るるなさんに止められた。


「まだ寝ていないとダメですよ。 それにしてもどうして海に? ここは遊泳禁止なのは知っているでしょう?」

「え? だって……」


 そう、俺は消えたるるなさんを探そうと海に飛び込んだのだ。


「それにしてもここに来るのは13年ぶりですね」

「え!?」

「覚えていませんか? 敏夫(としお)さん13年前にもここで溺れたんですよ」


 溺れた……?

 13年前……って事は……俺が8歳の時……。


 段々と忘れていた記憶が浮かび上がって来る。


 そうだ……8歳の時、俺は親と一緒に旅行でここに来た……。 そして……遊泳禁止の意味がよくわからず、誰もいない海に飛び込んで溺れたんだ……。

 その時もこの場所で……。

 あの時もこうやって誰かに助けられた……。


「君はあの時の!?」


 俺は勢いよく起き上がり、るるなさんの顔をよく見る。 記憶にある面影そのもの……いや、そんな馬鹿な! 13年前だぞ、るるなさんはどう見ても 18歳かそこらだ。


「思い出してくれたんですね」


 るるなさんのその一言で疑惑が確信に変わった。


「本当にあの時の?」

「そうです。 あの時の約束覚えていてくれたのですね」

「あの時の約束……?」


 まったく覚えていない……。


「覚えていませんか……?」


 少し残念そうに下を向くるるなさんを見て、なんとか思い出そうと必死に頭の記憶を探る。


 13年前……海……溺れる……洞窟……鱗……。


 そうだっ!

 なんとか連想ゲームのように記憶の糸を手繰り寄せ、思い出したことが一つある!

 それはこの鱗だ!


 俺は鱗を取り出してるるなさんに見せた。


「この鱗をなんとなく覚えています」

「……やっぱり! まだ持っていてくれたのですね!」


 るるなさんは嬉しそうに抱きついて来た。


「うわっ!」


 それには驚きが止まらず抱き返す事も出来ず、その場に固まってしまった。


「るるなさんは本当に()()()のるるなさん?」

「そうですよ」

「年をとっていないようにみえますが?」

「それはー」


 るるなさんが話そうとした時、海水が上がって来ていることに気づいた。


「潮が上がって来てる! 早く戻らないと洞窟が完全に水没する!」


 俺にこの海を泳げるかが問題だけど……、るるなさんが秘密の出入り口とか知ってたりしないだろうか?


「あせらないで。 私に任せてください」


 るるなさんは手を握りしめてジッとしている。 実はギリギリ沈まないのかもと思っていたが、水面が上昇して洞窟も半分海水で満たされてしまった。 思っている以上に早い!


「思いっきり息を吸い込んで私に捕まってください」

「でも……」

「大丈夫です」


 思いっきり息を吸い込み海に潜る。

 るるなさんが俺を掴んで泳いで洞窟から出て行くのが目をつぶっていてもわかる。

 港町に住んでいるから泳ぎが得意なんだろうと、そっと目を開けると、太陽の光りが海中まで伸びている。 その中で俺を掴んでいる腕の鱗がキラキラと美しく輝いていた……。

 

 鱗?


 るるなさんに岩場の所まで運んでもらい、岩場に上がる。

 るるなさんに手を伸ばすと、バシャっと岩場に飛び上がってきた。

 その姿は……。


「に、に、に……人魚…………」


 腕の鱗よりも決定的なのは足が人のそれでは無く、魚のようになっていたことだ。


「るるなさん……人魚……?」

「そうです……」


 思い出した! 全部思い出した!!

 俺は小さい頃、両親と旅行でこの町に来た。

 そして暇だったから人がいないこと場所で泳ごうと、遊泳禁止の看板が読めずに飛び込んだんだ。

 そして泳ぐ事が出来ない波の荒さと海の深さで溺れた。

 そこで気がついたのはさっきいた洞窟だ。

 その時に助けてくれたのはるるなさん本人。

 あの時は本物の人魚に出会えて興奮して怖さはなかった。 ただあの時はるるなさん本人も傷を負っていたな。

 その傷をポケットに持っていた、べしょべしょになった絆創膏を貼ってあげたんだっけ。

 そして旅館まで連れて行ってくれた。

 その時、一枚の鱗をるるなさんからもらい「僕が必ず迎えに来る」 と言って帰ったんだった……。


「思い出したよ……あの時もるるなさんに助けられて今回も助けられたね」

「思い出してくれてよかった……、それじゃ早く家に帰ってください」

「どうして? 明日帰る予定だよ。 それまで話し出来ないかな?」

「この姿を見てしまいましたから……早く帰らないと大変な事になります」


 大変な事? そう言えばあの時も迎えに来ると言った理由があったはずだけど……。


「とにかく一度旅館に戻りませんか?」

「いますぐ帰ったほうがいいです。 旅館の荷物は私が後で送り届けます」

「どうして?」

「私は人魚です。 この姿は人には見せてはならないのです。 この姿を見た人は……」

「見た人は?」

「殺されます!」

「え!?」

「私は別の場所から上がりますので、敏夫さんはここから戻ってください……。 来てくれて嬉しかったです……」

「あ! るるなさん!」


 るるなさんは自分の服を手に取り、海に戻ってしまった。


 しかし、旅館に帰るのも危ないなんて……、どう言うことだ? るるなさんが人魚だと知ったら殺される? まさかな。


 俺は荷物を置いては帰れないし、殺されるのはさすがに大袈裟だと思い旅館に戻ってしまった。

 女将さんや仲居さんに変わった事は無く、ベタベタな体を流しに温泉に向かう。


「お、貸し切りじゃん」


 昨日はそこそこ混んでいたけど今日は誰も入っている人はいない。

 ゆっくり浸かれそうだ。

 出たらるるなさんを探してもう少し話しを聞こう。


 部屋に戻れば食事の支度もちゃんとされている。

 昨日と同じように海の幸が並ぶ、豪華な夕食だ。

 美味い! と舌鼓を打ちながらたいらげると、急に眠気が襲ってきた……。

 そしてその場に眠ってしまった。


「ん……つめた……」


 体が冷える感覚があり目を覚ますと、さっきいた旅館の部屋では無く、石畳の部屋に入れられていた。

 そして牢屋のように鉄格子がされている。


「なんだ!? どうなってる? おーい!!」


 自分の置かれている状況がよくわからない。

 なんでこんなところに?

 すると、誰かが近づいて来る足音がする。


「うるさいやつだね。 あんたかい? うちのるるなの正体を知っているってのは?」


 顔を出して来たのはかなりのご高齢の老婆。


「誰だおまえは! なんで俺をこんなところに!?」

「それはお前がるるなの正体を知っちまったからだね」

「るるなさんの正体って人魚ってことか!?」

「そうじゃ」

「正体を知ったからってなんだ! 早く出せ!」

「お前はここから一生出る事はかなわないんだよ。 私らのためにせいぜい頑張っておくれ」


 突然、どこからか苦痛の叫び声が聞こえて来る!


「なんだ!? 俺も拷問にでもかけるつもりか!?」

「そんな事はせんよ。 ただ、実験に付き合ってもらうだけじゃ……さっそく、実験できそうじゃな……」


 誰かが一枚の皿に乗った何かの肉を持って来た。

 あの人、旅館で見た仲居さんじゃないか……。


「これじゃこれじゃ……」


 老婆は皿に乗った血がまだ滴っている肉を摘み上げ、クチャクチャと食べ始めた。


「うっ……」


 見ていて気持ち悪くなる。

 吐きそうな気持ちを抑え老婆を見ると、老婆の白髪混じりの髪が黒く染まって行き、シワだらけの手や顔もハリが出て若返っていく。

 その姿は旅館の女将さんだった。


「驚いたかい? これが人魚の肉の力さ。 ただ年々効果が薄くなってしまってね。 1日に1回は食べないとダメなのさ」

「人魚の肉だって……まさか!?」

「そのまさかですよ。 るるなから肉を剥ぎ取っているのさ。 るるなは私からは逃げられないからね……、ほら、お前の分さ。 それを食べてどのくらい生きられるのか見せておくれ」


 鉄格子の隙間から差し入れて来た一枚の皿には、血がしたたり鱗がまだ付いている肉だった。


「おまえ! るるなさんに!!」

「安心おし、人魚は少し切られたくらじゃ死にはしないよ。 腕の一本や二本直ぐに再生するのさ」


 しかしさっきの叫び声は……。


「なんて酷いことを……」

「いいからさっさとお食べ。 食べなくてもいいがこの牢獄は時間と共に海に沈むよ。 食べた方が身のためさ」


 そう言うと女将と仲居は戻って行ってしまった。


 小さい頃るるなさんが怪我をしていたのは……くそっ!


 鉄格子をガチャガチャと動かしてもびくともしない。 そして部屋の空き間から海水が入り始めていた。

 肉を食べなきゃ死ぬ。

 その言葉が脳裏をよぎる……。

 だからと言って食べるつもりは無い。

 海水はどんどん入って来ると、牢屋はほとんど沈んでしまった。

 ギリギリ顔を上に向けて息が吸える。 でもまだ海水は上ってきていて時間の問題だ……。

 牢屋全てが海水で満たされ、俺は最後に息を吸い込み……水の中に潜る。


 苦しい……、息が……。


 に、肉を……。

 死にたく無い、その一心で肉を探してしまう。

 水中を漂っている肉を発見した俺はかぶりつこうと口を開け……。

 駄目だ……ここで食べたらあいつらと同じになる……。

 肉を遠くにやり、意識が朦朧としてくる。

 その時、口に空気が送られて来た。

 意識が朦朧とする中、目を開くとるるなさんが空気を送ってくれていた。

 牢屋の海水が引くまでるるなさんは俺に空気を送ってくれ、俺は一命を取り留めた。


「早く逃げて!」

「一緒に逃げよう!」

「私は逃げれないの。 あの女将からは逃げれない……もう千年はこうして生きてるの」

「なんで逃げれないんだ!? 何か理由があるんだろ?」

「約束……人魚の約束があるの」

「人魚の約束?」

「ええ……人魚が約束した事は破れない……破れば私は泡になって消えてしまう……私だけなら消えてもかまわなかった……だから何度約束を破ろうかと思ったのだけど、私がしてしまった約束は……」


 るるなは女将と約束したことを教えてくれた。

 それは、るるながまだ幼い頃、網にかかった所を助けてくれた女将に、お礼のつもりで自分の血を与えた。 病気がちだった女将の病はたちまち治り肌にハリやツヤも出て女将は人魚のるるなさんを逃したく無いと思ってしまったようだ。

 そしてるるなさんの大事にしていた真珠を奪い、返してほしければ不老不死にしろと無理矢理約束したらしい。

 肉を食べれば不老にはなるが不死にはなれなかった。 だから今でも不死について実験を行っていると言う。


「その真珠はそんなに大切な物なんですか?」

「はい。 その真珠は私の生まれ故郷である竜宮を照らす物。 それが無いと竜宮は滅びます。 他の仲間達もみんな死んでしまうでしょう」

「そんな大事な物をなんでるるなさんが?」

「私は竜宮の時期女王でした……でもずっと海の中で飽きていて、地上を見てみたかったんです。 だから少し借りるつもりで真珠を持ち出して地上に上がろうとして網にかかってしまいました」

「その時に真珠を取られたと?」

「はい。 あの真珠は人魚を人へと変える力があるんです。 だから私は今も人として……」

「なら俺が真珠を取り返せば一緒に逃げれたりしないか?」

「いえ、約束がありますから……だから敏夫さんだけでも早く逃げて……そしてここに二度と来てはいけません」


 るるなさんの足が人へと変わり、着替えて出口まで案内してくれる。

 るるなさんが俺を逃す事を女将はわかっていたようで地下の階段を上がった時、待ち伏せをくってしまった。


「早く! こちらへ!」


 るるなさんに手を引かれどこかの部屋に入れられると、窓を開けてここから逃げてくれと言う。


「るるなさんを置いては逃げれないよ!」

「私はいいんです! だから早く!」

「逃しゃしないよ! お前達!」


 女将に仲居は良く磨がれた鎌や包丁を持って追いかけて来た。


「必ず迎えに来ます!」


 るるなさんにそう言って俺は窓から逃げて真っ暗な夜道を走り森に身を隠した。

 仲居達はライトで照らしながら追いかけて来る。

 俺は逃げるそぶりを見せて旅館に戻った。

 手薄になった旅館に戻った俺はるるなさんを探す。

 見当たらないのは俺が閉じ込められていた場所のように隠し部屋でもあるのだろう。

 旅館の中をくまなく探すのは難しい……どうする……。

 俺を逃したことで何かをされている可能性がある。

 早く見つけ無いと……。

 その時、るるなさんの叫び声が聞こえてきた。


「こっちか!」


 叫び声が聞こえる方へ走り、壁に秘密の入り口を発見した。

 俺は廊下に置かれている消化器を手に持ち、階段を下りる。

 その先の部屋では女将にるるなさんが拷問を受けていた。


「どこに行ったか早く教えな! かばったっていい事ないよ」


 そう言いながら真っ赤に焼けた鉄の棒をるるなさんの体に当てている。

 肉の焼けこげる臭いと声にならない絶叫が部屋の外まで響く。

 女将はそのこげた場所のにおいを嗅いでヨダレを垂らしていた。


「おい! やめろ!!」

「おや? 戻ってくるとはとんだバカがいたもんだ」


 熱された鉄の棒を持って襲ってきた女将に向かっておれは消化器をぶっ放し、部屋は消化液まみれとなった。


「早く逃げよう!」


 囚われていたるるなさんを助け手を引くが、やはり手を払われてしまう。


「そうか、真珠か……真珠はどこに?」

「女将が肌身離さず持っているはずです」

「そうか……なら……」


 俺はゲホゲホとむせている女将に向かって行った。

 女将は懐から包丁を取り出して向かってくる俺の腹を突き刺した。

 俺は一瞬の痛みに耐え、消化器のノズルを女将の口にぶち込み、残りの消化液を放った。


「おぼぼぼーー!!」


 女将の腹は風船のように膨らみ、鼻や口から消化液を出して倒れた。

 俺は急いで倒れている女将の懐を調べると、袋に入った真珠を発見した。

 真珠を手に取りるるなさんと旅館を出る。

 女将が死ねば約束も無くなるだろうと考えたからだ。

 腹から血は流れているが、アドレナリンのためか痛みはほとんどない。

 遊泳禁止の浜辺までやって来ると、るるなさんの体から泡が出始めた。


「そんな! 女将との約束は無くなってないのか!?」

「女将はまだ亡くなっていないからだと思います。 私の事はもういいです。 助けに来る約束を守ってくれてありがとう……」


 るるなさんは俺にキスをして海に俺を突き落とした。

 俺は泳ぐことも出来ず沈んで行くと真珠が輝き始めた。

 その輝きは暗い海を昼間のように明るく照らす。

 気がつけば俺の周りにはるるなさん以外の人魚が集まっていた。

 俺はその人魚達に救われた。

 真珠を渡すと、あとはお任せして欲しいと人魚達に言われ、俺は気がつくと自分の家がある町の防波堤にいた。 財布はあったので一度タクシーで家に戻る。

 もう一度るるなさんを助けに行こうと考えていたが、一通の手紙が服の中に入っていた。


【一週間待っていてください】


 その一言が添えられた手紙の通り、一週間待った。

 仕事から帰り、明日から有給を使ってもう一度行く準備をしていると、部屋のチャイムが鳴る。


「誰だこんな時間に……」


 扉の覗き窓から見ると扉の前に立っていたのはるるなさんだった……。


「るるなさん!!」


 俺は急いで扉を開け、るるなさんを部屋に入れる。

 そしてあの後の話しを聞いた。


 るるなさんは旅館に戻ったが、海に持っていった真珠のおかげで仲間が助けに来てくれたらしく、女将との約束も無くなったらしい。

 そして俺と昔に約束した事を守るためにやって来たのだと言う。

 その約束は……。


「僕が助けたらお嫁さんになってよ……」


 小さい頃の俺は……マサガキだったようだが、グッジョブ!

 俺はるるなさんと一緒に暮らす事になった。

 あの後女将はどうなったのか聞くと、あまり言えない事になっているらしい。

 だから聞く事はやめて、るるなと幸せに暮らす事になった。

 人の姿になっているのは真珠とは別の物があるかららしい。 それは愛で生まれる結晶との事だ。 それがある限りるるなは人の姿をしていられる。

 月日も経ち、今度生まれてくる子は人か人魚か……?

 どっちでも俺とるるなの子だ。 一緒に頑張って育てていけばいい。

 俺達は幸せに暮らしていけるだろう。


 ………………


「頼む! もう殺してくれーー!!」


 海の底で叫ぶのは年老いた老婆。

 槍で貫かれ、手足を引きちぎられそれでも生きている。

 この暗く深い海底で永遠に……。

 読んでいただきありがとうございます。


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