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ヒーロー

作者: 石田いろは

すれ違った初恋の話です


地面から陽炎が見え

蝉の声もかき消されるような大歓声。

友達、家族、チームメイト、クラスメイト、知らない大人達が汗をかき、吹奏楽部の音楽とともに叫ぶ

「かっとばせー 廣崎!」



呼吸を整えながらピッチャーが投げるタイミングを見計らう


甲子園決勝戦

赤石農業8ー8青川学園

9回裏ツーアウト満塁


ヒットを打てばサヨナラ勝ちの場面で

バッターボックスに立っている廣崎くんは

ホームランを打った



史上初の青川学園は優勝にテレビや新聞、SNSで話題になった。

エースで4番、ホームランを打ったヒーローはそれからしばらく有名になった


観ていた私はテレビを消し、しばらく泣いていた。


「ヒーローインタビューです。今日のヒーローは満塁サヨナラホームランを打った廣崎 大輝くんです。 今のお気持ちはどうですか?」

「打てると思ってなかったので、ホームランを打て、チームの勝利に貢献出来て良かったです」

「今のお気持ちを誰に伝えたいですか?」

「大好きな幼なじみです。千秋、観てる?俺千秋のために打ったよ!もし、観てたら連絡して!」

「千秋さん、連絡してあげてください!!観てること祈ってますね!本日のインタビューは井上が放送しました。ありがとうございました。」





ーー2年後






大学2回生の私はアメリカへ留学することになった。得意の英語を活かした経験をしたい!と先生に言うと交換留学を提案され私に甘い両親はすぐに了承してくれた。

今までとは違う環境に不安がありながらも知らない国で生活する事にトキメキも感じていた。


アメリカへ到着してからは、優しいホストファミリーに一緒に居て楽しい友達。初めて知る文化や料理、場所、マナーなど慣れないことも沢山あったけど毎日が充実していた。

そんな時、仲良しのエミリーの誕生日会に招待された。

なんでも、親戚の友達や近所の子、友達の友達まで学校以外の友達もみんな呼んでの大パーティーをするらしい。

「千秋以外の日本人も居るわ!何でも、あなたに一目惚れをしたんだって!!相手はね……うふふ。ビックリすると思うわ!」と話された。


一目惚れ……?

いつ会ったのかしら?

私の知っている人だといいけれど一体、誰かしら




パーティー当日


薄いピンクのドレスを着て

エメリーの大好きなブルーベリーサンドとバックを持って家へ向かった。

到着すると50人くらいの人が会場で喋っている。

主役のエメリーは千秋に気付き、挨拶に来てくれた。



「ハッピーバースデー、エメリー!これプレゼントよ!あなたの大好きなブルーベリーサンドとあなたに似合うと思ったバック!受け取ってくれる?」

「もちろんよ!プレゼントありがとう、千秋。今日は人が多くて私とは、全然お喋り出来ないと思うけど千秋とお喋りしたい人は沢山いるわ!だからきっと楽しめるはず!楽しんでね!」

「ありがとう、エメリー!」



後から、エメリーの親戚らしき人が入ってきてエメリーはすぐに挨拶へ行った。

私は美味しそうなチキンとポテトを見つけて食べていると何人かの人に声をかけられる。

たわいもない話をした後、少し人酔いをしてベランダへ向かう。

すると、玄関付近でウロウロしている男の人を見つける。

一瞬、不審者か!?と考えたが大きな薔薇の花を持っているのを見て今日の参加者だと悟る。


しばらく、様子を見ていたが後から来た人にも先に入るよう譲ったりと中々入ろうとしないのを見て思わず声をかける


「あの…、入らないんですか?」

「えーっと…………って、!? あ、千秋!?」

「え?」


思わず見つめると、そこには小学生の頃から幼なじみの大輝が立っていた。

1年生から5年生まで同じクラスでどこへ行くにも一緒だった。クラスメイトからもハッピーセットとからかわれてしまうほど仲が良く、近くにいない時はお互いが探し合うほどだった。

そんな2人も6年生の時、大輝のお父さんの仕事の都合で東京へ転校することになった。

今まで一緒だった分、お互いが大号泣し会いに行く約束まで取り合っていたが、待ち合わせ場所で大輝が楽しそうに話す女の子を見て自分が大輝に恋をしていたことに気付く。それから、声をかけようとした時には女の子にキスをする瞬間を目にし、声をかける気にも喋る気にもならず自宅へ帰った。初恋が失恋に変わる瞬間だった。ベッドでしばらく泣いては両親も心配し、大輝からの連絡を無視していた。それ会うことも連絡することもなかった。




肩幅も大きく背の高い9年ぶりに会った幼なじみは別人のようだったが昔の面影を残した笑顔は大輝そのものだった。


「ひ、久しぶり。俺の事覚えてる?」

「大輝…。よね?久しぶり。」

「千秋!会いたかった。」

親友は歓喜のまま幼なじみに抱きついた。

あまりにも突然のことでビックリし固まってしまった。

「ちょ、ちょっと大輝。恥ずかしいわ」

「ご、ごめん。」

「こんなところで、何してたの?」

「今日は友達の親戚のパーティーに来ているんだ。ジェイって言うだけど、親戚の送ってきたっていう写真を見てたら千秋が写っていてもしかしたら。って思って参加させて貰ったんだ」

「全然、会ってなかったのに私ってよく気付いたわね。」

「気付くに決まってるだろ!ずっと会いたかったんだ。千秋のことを1日だって忘れたことはないよ。

あの日どうして来てくれ無かったんだ?連絡も来なくなって……俺、大阪まで探しに行ったんだぞ」

「ごめんなさい、部活やバイトで忙しかったの」

「本当に会えてよかった」

「久しぶりね。」


そこから大輝のお腹がなり食事をとることにした。

今まで何をしてたのかなど話していると


「俺、あれからも野球続けてるんだ。有名になったら千秋が気付いてくれると思って頑張ってたんだ」

「小学生の時、クラブチームにも入ってたもんね」


しばらく時間が経ち、癒えたと思った失恋だったが話す度に、思い出す度に「やっばり好きだな」と感じさせる


「千秋って、付き合ってる人いるの?」

「私?居るわけないわ!」

「好きな人は?」

「居ないわ」

「そうか!」

何故か嬉しそうな顔をする大輝に

期待してしまう自分が居る


「明日も試合があるんだ。良かったら観に来ない?」

「もちろん!楽しみにしてるわ」

「そこで、千秋に伝えたいことがあるんだ。ずっと俺を見てて」

「? わかったわ!」


ーー私、顔に出てなかったかしら…。恥ずかしい

久しぶりに会った大輝かっこよかったな。

きっと、素敵な彼女がいるに違いないわ。未練タラタラなんてらしくないし。また、友達として仲良くなれたらいいな。




数日後




実況「さあ、始ましました。長いリーグ戦を経て、本日勝てばブルーソックスは優勝が決まるこの一戦。注目すべき選手は日本からトライアウトを受けて入団しすぐにスタメン入り。プロ3年目の大輝 廣崎。ホームラン争いはチームトップの55号本日、その記録を超える子ができるのでしょうか?」


全米が注目し、大歓喜が訪れた。

「すごい、こんなに人気なんだ……」

留学してからは勉強や友達関係などに必死で

千秋はテレビニュースを見ていなかった

自宅で大輝の出る試合を調べるとすぐに出た。

なんなら、日本のニュースでは大輝の名前ばかり出てきたことに驚き今まで自分の無知さに恥ずかしくなった千秋だった。


目の前の観客などは「クール廣崎」と書かれたタオルを掲げていた。

「大輝がクールだなんて」とクスクス笑っていると

一緒に来ていたエメリーとジェイが顔を見合せ笑っていた。

「廣崎は笑わず、クールな事で有名なのよ。挑発された時は必ずホームランを打って何も無かったかのようにベンチに戻るから笑かそうとするチームメンバーや顔を歪めてやろうと闘志を燃やすピッチャーが多いのよ」

「週末にはバーで一人で飲んでることも多いから、振り向いてもらおうとする女性も多いんだが廣崎は全く動じない!それが気に食わなくて絡みに行った飲み比べで負けたのが俺と廣崎の出会いだ!」ふん!っと自慢げな顔をしながらジェイは話す。

「それなのに、突然エミリーの写真を見せたら隣に写ってる千秋を紹介してくれ!って凄い勢いで詰め寄ってくるからパーティーに招待してもらったのさ!」

「一目惚れ、とは聞いたけど知り合いだとは思わなかったわ〜」

2人の話を聞き顔が赤くなり、思わず俯いてしまう。その後すぐにスタートメンバーの発表で歓声が上がる。大輝が紹介されると「ILOVE廣崎!」と叫んだり指笛が鳴ったりと一番の歓声が上がった。



試合でらヒットやアウトが出る度に歓声があがったが、大輝は球団史上初の全打席ホームランを打ち勝利に導いた。シーズンで最も活躍した選手(MVP)に3年連続選ばれファンや観客、チームメイトから祝われた。

会場が作られインタビューが始まるにも関わらず笑顔が見えないことからか「Smile please」と看板が出され「NO」と答える大輝に皆が笑顔になった。


「3年連続MVPおめでとう。気持ちはどう?」

「ここに立てて嬉しいよ、ありがとう」

「もう少し嬉しい素振りをしたら?」

「彼女の前でだけ表すよ」

「…………!?」


彼女の言葉に動揺する。

周りの観客も拍手や指笛、悲鳴の嵐だった。

え!?と驚いていると

「廣崎が笑った!」

「彼女が出来たの!?おめでとう!」

「オーマイガー!私の廣崎が……」

観客それぞれの反応を見せていた。


「皆様、落ち着いて!気持ちは凄くわかります。私も驚いているから。皆さんの気持ちを代表して私が質問しましょう、廣崎あなたは彼女が出来たの?」

「NO、なって欲しいとは思ってる」

「なって、という事は好きな女性が居るんですね?」

「Yes、そのために球場に呼んだんだ。今日はカッコイイところを見せて惚れて欲しいと思ったから」

「来てるんですね。では、その女性に愛を囁いてください」


「千秋、ずっとずっと大好きだった。俺と結婚を前提に付き合って欲しい。千秋のためなら俺は日本にだって帰る」


告白の瞬間、画面には私が映し出された。

息が止まりそうだった。


「私も、ずっとずっと大輝が好きだった。こんな私でよければ付き合ってください!」


大歓声が上がった。

小学生の時に見た屈託ない笑顔の大輝が立っていた



試合後、優勝のビールかけやインタビューで忙しい大輝からメールが来た。

「告白受けてくれてありがとう。凄く嬉しい明日時間ある?喋りたい事がいっぱいだ!」

「もちろんよ、告白してくれてありがとう。大好きよ、大輝」

ーメールを送るだけなのに。恥ずかしい……

すぐに返信が来る

「愛しの千秋。俺も大好き」


顔が赤くなる。

ーこんなメール来たら寝れないよぉ…



翌日



「千秋!」「大輝!」

お互いの名前を呼びあったあと抱き合い人目を気にせずキスをした。

「私、大輝が初めての彼氏なの!キス下手でごめんね」

「俺も初めては千秋だよ。千秋しか俺は好きにならない」

「嘘つかなくていいわよ」

「嘘じゃない!」

それから、約束した日に行ったのに女の子とキスした瞬間を見たことを伝えるが大輝に心当たりがないこと。それから勘違いだった事を知る。

待ち合わせの日、大輝は千秋に告白しようとアクセサリーショップに買い物に行った。メッセージカードを描いたのにお店に忘れていったのを見つけた店長の娘(同じ年くらい)の人が届けに来たところだったらしい。たまたま私が居たところから、定員さんの転けた瞬間がキスした角度に見えたようで勘違いをしてしまった。


「私、恥ずかしい……」

「でも、あの頃から俺たち両思いだったんだな。」

「そうね」

「遠まりになったけど、一緒になれて良かった!」

「これからも、よろしくね!」


その後、留学期間が終わり日本に戻る千秋に「少しでも離れたくないから日本に帰る。」とだだをこねる大輝を宥め日本へ帰った。大輝は年俸500億ドルにサインしメジャー継続。

大学卒業してすぐに結婚し、アメリカで生活することになった。翌年には子どもが出来た。


6年後




「ママ、パパ出てくる?」

「もうすぐよ、ほら出てきたわ」


大歓声とスタジオの大音量と共に登場する

「今日も愛してるぜ〜」とファンからの声をバックに

無表情でバッターボックスに立つ

対戦相手は期待のルーキー。

急速は105マイルを超える怪物だ。

彼からは誰もヒットさえも打てていない。


ホームラン王VS誰も打てないピッチャー


皆が楽しみに待っていた。

第1打席が始まり、息を飲んで見つめる

2ストライク

2ボールとカウントされていく


不安な千秋が呟く

「パパ、お願い…」

その瞬間、折れたバットと共に高く上がったボールがスタンドに入っていく。

「ホームラン」と表示され大歓声があがる



この日も全打席ホームランを打ち、勝利を導いたヒーローは家族だけでなく皆を笑顔にさせた。



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