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永遠の別れ


それから、しばらくしてから、双子の赤ちゃんは男の子だという事が分かった。

先月までは、つわりがひどく、辛そうな希美だったが、今は大分おさまり外へ出れるようにもなった。




「やっぱり男は青がいいよね?」

二人は久しぶりに出かけ、買い物を楽しんでいた。


「うん、そうだね。こっちの緑も男の子っぽいんじゃない?」


「じゃあ、色違いで買おう」


二人はベビー洋品店にいる。


「手袋と靴下と下着と、あっ、あとグローブ買わなきゃ!」

優羽が思いついたように言った。


「グローブ?」希美が訪ねる。


「うん、大きくなったらキャッチボールするからね!」優羽が笑顔で言った。


「ふふ」希美は気が早いと言わんばかりに微笑んだ。


「たくさん買ったね」買い物を終えた希美が優羽に言った。


優羽は持ちきれない程の荷物を両手に抱えている。


「あはは、そうだね。でも、まだ希美のマタニティドレス買うから、俺一回荷物車に置いてくるよ。希美は座って待ってて。」


「うん」


そう言うと優羽は車へと戻って行った。


その後ろ姿を希美はじっと見た。なんだか希美の目は切なかった。

希美はこの時、誰も知らない何かを悟っていたのかもしれない……



それからまた、数ヶ月が経った。

希美のお腹も大分大きくなった。


「やっぱり二人分だから、かなりおっきいね?」優羽が希美のお腹をさわりながら言った。


「うん、今朝は赤ちゃんが蹴ったよ」希美が言った。


「へぇ〜、お〜い!もう一回蹴ってくれ〜!」

優羽が希美のお腹に向かって言った。


「…………」


「ダメかぁ。」


[トン]


「あっ!今蹴った?」優羽が希美に聞いた。


「うん、蹴ったね。ちゃんと優羽の事パパって分かってるみたい」

希美が笑いながら言った。

「お腹を蹴るのは、赤ちゃんが元気に成長してる証拠だって」


「そっか。良かった。お〜い!大きくなったらキャッチボールしような〜!」優羽は笑った。


「………」

優羽は希美のお腹に耳をあてた。



「…トン…トン」


「お〜!希美!ちゃんと返事するよ!」


「ほんとだね!優羽に似て頭が良いのかもね!」

希美が言った。


「あはは、そうかもね!じゃあ、希美に似て、優しい子が産まれるね」優羽も言った。


「そうかもね」希美は笑いながら答えた。


二人はもうすでに親バカになりつつあった。



「もうすぐ予定日だね」希美が言った。


「そうだね。早く見たいな〜赤ちゃん」

優羽は赤ちゃんが産まれるのが、本当に待ち遠しかった。






それから、数日後。


真夜中、突然希美が苦しみだした。


「う〜ん、う〜ん」


優羽は希美の声で目を覚ました。


「希美?大丈夫!?お腹痛い?今、救急車呼ぶから!」

優羽は急いで救急車を呼んだ。


「希美!がんばれよ。すぐ病院に行けるから。」

「う〜ん、ん〜、ん〜」希美は苦しそうだった。

すぐに救急車が到着し、病院に運ばれた。


希美は先程よりも苦しそうだった、陣痛がひどくなってきているようだ。


「安積さん、まだ力んだらダメですよ!もう少しがんばってくださいね!」助産婦達がテキパキと行動する。


優羽も出産に立ち会った。


「希美がんばれ!がんばってくれ、希美」優羽は希美の手をギュっと握って励ました。


希美は泣きわめき、痛さで我を忘れているようだ。

だが、優羽の手をギュっと握りしめている。




「安積さん!せーので力んで下さい!行きますよ!せーの!」


「ん〜!!はぁはぁ…」

助産婦のかけ声で希美が力んだ。


「もう一回!せーの!」

「ん〜!!はぁはぁ…」


これを何度も繰り返した。



優羽もずっと声をかけ、祈った。


みんな汗だくになりながら、続けている。


何時間も経ったがなかなか赤ちゃんが出て来ない。



「安積さん!もう一回!もっと力んで!がんばって下さい!せーの!」


「ん〜…………」

希美の力が抜けた。


「の、希美!?希美!!」優羽が希美を呼ぶ。


希美は気を失ってしまった。


「安積さん!安積さん!」助産婦が希美の顔を叩く。


すると希美が目を開け、再び苦しみだした。


「希美…がんばれ。希美…」優羽の目からは涙がこぼれている。



「安積さん!もう少しですよ!開いてきましたよ!がんばって下さい!行きますよ!せーの!」


「ん〜………」

希美はまた気を失った。


「安積さん!安積さん!」また助産婦が希美の顔を叩く。


すると希美はまた目を開け苦しみだす。


なかなか赤ちゃんが産まれない。もう少しなのに…


「希美…がんばれ…目を開けて…希美…」



何度はいくら叩いても目を開けない希美。


「はぁはぁ、安積さん…」医者が優羽を見て言った。


「はい…」優羽が答えた。


「このままだと、母子共に危険な状態です。どちらかを優先させます。よろしいですね?」

医者がはっきりと言った。


「どちらか?……そんな…」


「安積さん!迷ってる暇はありません!早急に決断を!」医者も焦っている。


「…………」


優羽はどちらも大切だった。そんな簡単に決断なんか出来ない。しかし、時間がない。


「…………」


「安積さん!母胎を優先させます!よろしいですね?」なかなか決断を下せない優羽に、医者が言った。


「…はい…」優羽はどちらかを選べと言われても、どちらも選べない。でも選ばないと両方死んでしまうかもしれない。

希美を選ぶしかなかった。優羽は希美を失いたくない。


「わかりま…」

「…赤ちゃんを…先生…赤ちゃんを助けて下さい…」気を失っていた希美が医者の言葉を遮り言った。


「希美!」優羽は目を覚ました希美を呼んだ。



「優羽…優羽はこの子達の父親なのよ…子供達を守って…お願い…」

希美は優羽にお願いをした。


「でも…俺は…希美がいなくなったら…」


「大丈夫…優羽は私が選んだ人よ…優羽は強くて…優しくて…かっこいい男なんだから…」希美が笑った。


「希美…嫌だよ…」


「優羽…キャッチボールするって子供と約束してたじゃない?ね?優羽、お願いね。大好き…」


「希美!希美…」

希美はまた気を失った。


「安積さん…決断を」

医者が優羽に問いかける。


「……」


「安積さん。」


「子供を優先にして下さい。」





「…………………………」





チュンチュン。チュンチュン。鳥のさえずりが聞こえ、朝日が優羽の寝室を照らす。


優羽は目を冷まし、ベットから起きあがった。

なんだか体が重い。

最近よく寝れてないせいだろうか。


同じ部屋にはベビーベットが置かれ、中には二人の赤ん坊がすやすやと眠っている。



優羽はキッチンへと行った。


「おはよう。優羽。」

希美が朝ご飯を作っていた。


「希美。おはよ…」


「……………」


希美がいた気がしたが、そこには希美はいなかった。


「希美……」優羽の目からは涙が溢れその場に座り込んだ。


「…………………」


どのぐらいたっただろうか。その場に座り込んだ優羽は動く事もしなかった。動く気力すらわかなかった。


希美は死んでしまった。もう、前の様に静岡に探しにいっても会うことは出来ない。


希美は俺と一緒になって幸せだったのだろうか?

俺と出会っていなければ希美は死ぬことはなかった…

俺が希美を好きにならなければ死ぬことはなかった…

俺が告白しなければ死ぬことはなかった…


辛い…こんな辛い思いはもう嫌だ…俺も希美の所へ行きたい…希美に会いたい…



優羽は立ち上がり、窓へ向かった。

窓を開け、窓の縁に立った。

「希美…」


「おい!!何やってんだよお前!!」


優羽は思いっきり引っ張られ、部屋の中へと引きもどされた。


ハルだった。

何度もチャイムを鳴らしたが、それにすら優羽は気が付かなかった。


「ハルさん…」

優羽は気力なく言った。


「ふざけんな!お前、俺に言ったな!子供は俺が幸せにするって!その約束はどうした!お前が死んだら、誰があいつら守んだよ!あいつらにはお前しかいねぇんだぞ!」

ハルが優羽を怒鳴る。


「…すごく辛いんです…」

優羽は下を向きか細く言った。


「希美ちゃんが命がけで産んだんだろ?だったら、お前は命がけでこいつら育てろよ!」


「…………」


「それでも死にたいなら、死ね。俺も一緒に死んでやる。」



「…ハルさん…」

優羽は顔を上げ、ハルを見た。ハルの目から涙がこぼれている。


優羽はハルの涙を見て我に帰った。


「ハルさん…俺…」


「オギャー!!オギャー!!」


今まで泣きもせず、眠っていた赤ん坊が泣き出した。


「泣いてるぞ」

ハルが涙をふきながら言った。


優羽は立ち上がり、赤ん坊の所へ行った。


二人の赤ちゃんが大泣きしている。


「ごめんな、ほったらかして。腹減ったか?今ミルク作ってやるからな。」

優羽はキッチンでほ乳瓶にミルクを作った。





「こいつら、よっぽど腹減ってたんだな」

ハルが必死にほ乳瓶を掴みミルクを飲む赤ん坊を見て言った。



「キャッチボール…」優羽がボソっと言った。


「キャッチボール?」ハルが聞き返した。


「こいつらが、希美の腹ん中にいる時、大きくなったらキャッチボールしようなって言ったら、こいつら蹴って返事したんです」



「お前、子供とした約束は守んねぇとな」ハルが微笑みながら言った。


「そうですよね。俺、バカでした。希美にも子供達守ってって言われたのに、死のうとしたなんて。希美に怒られる所でした。ハルさん、ありがとうございます。」優羽が先程のお礼をハルに言った。


「ああ」ハルが笑った。




「おい、優羽!全部一人で抱え込むなよ!俺がいるからな。それに百合だっている。なんかあったら、頼れよ。」ハルが優羽に言った。



「はい、ハルさんありがとうございます。でも…」


「ん?何だ?」



「あの、百合さんこいつら食べたりしませんか?」



「ああ!人間の子は食わねぇよ!………たぶんな。」


「たぶん…」



二人は冗談を言い合い笑った。






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