双子の赤ちゃん
「おはようございます」
「おう。お?」
優羽が控え室に入るとナルが挨拶をした。
ナルを見ると床に正座をしている。
「何やってんだお前?」
正座しているナルの前の椅子に座った優羽。
「心から優羽さんに謝ろうと思いまして。」
ナルは昨日の事を謝ろうとしている様だ。
「昨日の事か?」
「はい、その通りっす。その…昨日はみずき姫と一緒で浮かれてたっつーか調子乗っちゃった〜みたいな。」
ナルはビクビクしている。
「お前いくつだよ。あんな事してて恥ずかしいと思わねえのか?」
優羽がため息まじりに言った。
「そ、そうですね…」ナルが小声で言った。
「あ?聞こえねえよ!はぁ。後輩がこれじゃ俺が恥ずかしい。いつまでたってもお前は何一つろくに出来ねぇし。ハルさんに任されてるつーのに、俺は後輩の改善もろくに出来ない。俺、ハルさんの顔にドロ塗っちゃってるのかなぁ…」優羽はナルの出来の悪さは自分の教育の仕方が間違ってるような気がした。
「優羽さん!そんな事ないっす。俺が悪いんっす。何度言われても忘れちゃうし、すぐ調子にのっちゃうし…」
「お前、このままだと大好きなみずき姫にも逃げられちまうぞ?」
「えっ、そ、それは…俺それは嫌です。」
「だったら、もっと真面目になれよ!接客以外の事も…」
ブーブー。ブーブー。
優羽がナルに説教をしている時に優羽の携帯がなった。
知らない番号からだ。
「はい?」
優羽が電話に出てみた。
「イケメン君?」
「ん?まゆちゃん?」
「あ、良かった!あのね、さっき希美が急に倒れて、今病院にいるの。早く来て!」
「の、希美が!?どうして?!何で!?」
「分からないわ!とにかく早く来て!」
「分かった。ありがとう。」
「………」
「優羽さん、希美さんどうかしたんですか?」
ナルが優羽の動揺ぶりを見て心配した。
「ナル、わりい…俺、ちょっと出てくる。ハルさんに…」
「おっす。」その時ハルが出勤してきた。
「ハ、ハルさん!すいません俺ちょっと…」優羽がテンパり、椅子に足を引っかけたり、机にぶつかったりしながら控え室を出ようとした。
「ゆ、優羽?どうしたんだ?」ハルもビックリしている。
「あの、希美が倒れて病院にいるって連絡があって…」
「え?!まじかよ!?お〜早く行ってやれ」
「す、すいません。」
優羽は急いで病院へ車をとばした。
「すいません!希美は?安積希美の病室は?」
病院に到着し、焦って受け付けの看護師に訪ねた。
「すいませんが、あなたは?」
「夫です!安積優羽です!」
「はい、分かりました。安積希美さんの病室は302号室になります。」
「どうも」
優羽は急いで希美の病室に向かった。
「イケメン君!」
病室に入るとまゆとミチがいた。
「お、おう!希美は?」
「優羽。」
希美はベットに横になっていた。
「希美!大丈夫!?」
優羽が希美に近づき言った。
「うん。倒れちゃった。優羽仕事中だったよね?平気?」希美は優羽を気遣って言った。
「それは大丈夫だよ。何で倒れちゃったの?何か病気じゃないよね?医者なんか言ってた?倒れた時怪我しなかった?」
「アハハハ」三人が優羽を見て笑った。
「ん?」
優羽は何で笑ってるのか分からなかった。
「もう、優羽は心配しすぎだよ」
希美が笑いながらいった。
「で、でも…」優羽はまだ希美が心配だった。
「イケメン君、じゃあ、私達はこれで。ミチ帰ろう」
「うん、そうだね」
二人は帰る支度をした。
「まゆ、ミチ君。ありがとね」希美が言った。
「ほんとありがとうね」
優羽も二人に言った。
「うん!じゃまたね!イケメン君!おめでと」
まゆが優羽に言った。
「おめでとう、安積君」ミチも言った。
そう言うと二人は病室を出て行った。
「おめでとう?」
優羽には良く分からなかった。
希美を見るとニコニコ笑っている。
「ん?おめでとう?」
優羽は考えた。
そういえば、昨日デートをした時に、希美が気持ち悪いと言っていた。倒れたのに、あの二人はおめでとうと言った。そして、希美はニコニコだ。
「希美…もしかして…」
希美が笑顔でうなずいた。
「三ヶ月目だって」希美が笑顔で言った。
「ほ、本当…?」
「うん!」
「…やった…やった!よくやったぞ希美!よっしゃ!」
優羽は喜んだ。
希美のお腹には自分の子供がいる。
嬉しくてしょうがない。
「優羽。嬉しい?」希美が優羽をみながら言った。
「うれしすぎだな!」優羽は笑いが止まらない。
「もっと優羽が喜ぶ事教えてあげる。」希美が思わせぶりに言う。
「え?なあに?」
優羽が目を輝かせながら聞いた。
「あのね、赤ちゃん双子だって」
「双子?!す、すげぇ。希美すげぇな!双子かぁ!家族が二人も増えるのかぁ……うっ…うっ…」
「ちょっと優羽?」
優羽は嬉しすぎて泣いてしまった。
そんな優羽を希美は優しく見つめた。
希美は優羽と一緒に家に帰って来た。
「希美?暑くない?」
「大丈夫だよ」
「喉かわいてない?」
「かわいてないよ」
希美がソファーをたった。
「どうした?俺がやるよ!」
「違うよ。トイレ」
「トイレか。お〜と!ここの段差気をつけてね!」
「はいはい、優羽は本当に心配症なんだから」希美が笑いながら言った。
「携帯持った?」優羽が聞く。
「え?携帯?持ってないけど…なんで?」希美が不思議そうに聞く。
「何かあった時の為だよ。」優羽が真剣に答えた。
「トイレ行くだけだよ?」
「トイレの中で何かあったら大変だから。え〜と、希美の携帯はっと、あっ、あった。はい!」
優羽は携帯を希美に渡した。
「ねぇ、絶対この間にもう出て来てたよ。」希美が若干迷惑そうに言った。
「いいから、いいから」
優羽は家に帰ってきてから、希美の事しか見えていなかった。嬉しさで顔も緩みっぱなしだった。
「おはようございます。ハルさん!昨日は急にすいませんでした。」
職場に着くなり、一目さんにハルを探し、あいさつをした優羽。
「おお!優羽!希美ちゃんどうだ?大丈夫か?」ハルは昨日から希美の心配をしていた。
「はい!大丈夫です」
優羽がニコニコして答える。
「何がそんなに嬉しいんだ?」優羽の顔を見てハルが不思議そうに言った。
「ハルさん!俺、父親になるんです!二人の子の父親になるんです!」
「父親?お前、まさか!?」ハルが何かに気付いた。
「はい!希美が妊娠したんです!お腹に双子の赤ちゃんがいるんです!」優羽が目を輝かせてハルに話した。
「まじかよ!?すげぇじゃねえか!」ハルも笑顔になり喜んだ。
「はい!ハルさん、俺、子供達を絶対幸せにします。ん?ハルさん?」優羽ははっきり言った。
「うっうっ……」
ハルは泣いていた。
ハルも自分の事の様に嬉しかった。
「ハルさん…」
優羽はハルを見て、こんな先輩を持てて何て自分は幸せものなのだろうと心から思った。