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二人の溝

翌朝、優羽が目を覚ますと、希美が腕の中で眠っている。

優羽は一晩中希美を抱きしめながら眠った。もう希美をどこにも行かせたくなかった。


自分の腕の中で眠っている希美を見るととても幸せな気持ちになった。

優羽は、希美の唇の下にあるセクシーなほくろを指で触った。


すると希美が目を覚ました。


「おはよう、希美。」優羽が微笑みかけた。


「おはよう」希美も微笑みながら答えた。


「かわいい」優羽が希美の髪を耳にかけた。


希美はニッコリ笑った。

恋人同士の甘い一時である。


ブーブー。ブーブー。

優羽の携帯がなった。

携帯を見るとハルからだった。

ここ一週間、ハルからの電話がたくさんあった。だか、優羽は電話に出る気にならず、放っておいてしまっていた。


「はい…」優羽は電話に出た。


「ゆ、優羽か?」ハルが驚いているようだ。それはそうだ、何度もかけていたのにずっと出なかったのだから。


「ハルさん…」優羽は怒られるのは覚悟だ。


「お前!どこにいんだよ!何度も連絡したんだぞ!」ハルは電話越しに怒鳴った。


「すいませんでした。」優羽が言った。


「すいませんじゃねえよ!一週間も連絡もしねえで何やってんだよ!ふざけんじゃねえぞ!」ハルは怒っている。


「すいません…」優羽はハルに謝る事しか出来なかった。


希美を追いかけ誰にも言わずに静岡に来てから一週間近くになる。その間、仕事も無断欠勤していた。


「なんなんだよ…お前、今日中に俺の所来い!分かったな!」ハルは優羽の状況が知りたかった。

「はい…失礼します。」優羽は電話を切った。


とにかくハルに謝るしかない。迷惑をかけたのは事実だ。何もかも自分が悪い事は分かっていた。

「優羽、大丈夫?」ハルの怒鳴り声が希美にまで聞こえていた。


「大丈夫だよ。心配いらないよ。」優羽が希美に心配かけまいと振る舞った。


「今日、家に帰ろう」優羽は希美に優しく言った。

希美はまだ優羽の事を心配そうに見つめていた。

二人は車を飛ばし、道が混んでいた事もあり、朝出発をしたのに、優羽の家に到着したのは夜遅くだった。


「やっぱり静岡って遠いな。希美の事見つけられてホント良かったよ」優羽が笑いながら言った。

「私ね、あの場所で優羽と初めてデートした時の事考えてたの。そしたら、目の前に優羽が現れたんだよ。」希美が言った。


「そっか…」優羽もあの場所で希美と同じ事を考えていた。その時、希美を見つけた。


運命の赤い糸は本当にあるのかもしれないと二人は思った。


「ハルさんの所に行かなくちゃ。希美、今日からここが希美の家だからね。好きなように使ってね。」優羽が言った。


「ありがとう。優羽、私本当に嬉しいよ。行ってらっしゃい」希美は優羽にキスをした。


優羽は車を飛ばし、職場へ向かった。この時間だと、ハルはまだ職場に居るだろう。


優羽は裏口でハルを待った。

ハル専用のリムジンが止まっているので、もうそろそろ出てくると思った。


ハルを待っている間、優羽は何をすればいいのか考えていた。

とにかく謝るしかない。殴られても構わない。それ程優羽は先輩に失礼な事をしてしまったのだから。

もしも、首になったらどうしようか…金はしばらくは大丈夫だが、他の仕事を探さなくてはならなくなるだろう。何をして働こうか。ホストの様に稼ぐ事は出来ない。

そうなったら、小さなアパートでも探して希美と一緒にくらそう。


ガチャ。

ハルが裏口から出てきた。


「ハルさん!」優羽がハルを呼んだ。


「おっ、お前!!今まで何してたんだよ!!連絡もよこさねえ、電話にもでねえ!家にもいねえ!どうゆう事なんだ!?ああ?」ハルはいきなり優羽の胸ぐらを掴み壁に押しつけた。


「すいませんでした!私用で静岡に行ってました。ハルさんからの電話無視してました。他の事に気が回りませんでした。俺の事、気が済むまでぶん殴って下さい!俺は先輩に迷惑かけました!失礼な事たくさんしました。お願いします!俺を殴って下さい!」

優羽はハルに殴られるの覚悟で目を強くつぶった。


「チッ…」ハルは舌打ちをし、優羽の胸ぐらから手を離した。


「そんな事言われたら、殴るもんも殴れねえだろ。」ハルが言った。


「………………」


「…何があったんだ?」ハルが背を向けながら聞いた。

「………」優羽は答えない。希美の不幸話は言いたくなかった。二人の秘密にしておきたかった。

「俺にも言えねえのか?」ハルが寂しそうに言った。


「…はい……」優羽が答えた。


「そうか。わかった……お前はもう俺の後輩からはずれろ。」ハルが言った。


「えっ…」優羽は言葉にならない感情がこみ上げてきた。


「後輩から頼られなくなったら先輩は終わりだ。お前に俺は必要ない。」ハルが言い終わるとリムジンに乗ろうとした。


「ハ、ハルさん…」

優羽はショックすぎて声があまり出ない。


「お前、明日からちゃんと出勤しろよ。じゃぁな。」ハルはリムジンで去って言った。


優羽は立ちすくんでいた。ショックだった…殴られるよりも、説教されるよりも、首になるよりも、ハルの後輩を外された事が。

優羽はハルの事を尊敬している、憧れている。そんな先輩に見捨てられてしまったのだ。


優羽はその場に立ちすくみ、しばらく動けなかった。




「ハル様、おかえりなさい。優羽様にはお会いできましたか?」百合が帰ってきたハルに聞いた。

「ああ…」あまり元気のないハル。


「ハル様、どうかされましたか?」ハルを見て百合が心配して聞いた。


「……」


ハルは黙ったまま百合を抱きしめた。


「ハル様?」百合が言った。


「わりぃ…」百合を抱きしめながらハルが言った。

ハルは泣いていた。


ハルも自分の事を慕ってくれていた後輩がいなくなった事が寂しかった。

百合は何も言わず、ハルを抱きしめた。






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