運命の赤い糸
「はぁ…」優羽はため息をついた。
静岡に来てから2日が経った。
希美を見つける事がそんな簡単な事ではない事は良く分かっている。
でも、確信はないが希美はこの町にいる。優羽はそう思っていた。
優羽はその日、ビジネスホテルに泊まった。
次の日も朝早くから、車を走らせた。時には車から降り、歩いて探した。
たくさんの人に希美の特徴を言い、見ていないか聞いた。
そして、黒川と言う名字の家を調べ、一見一見まわったり、電話をかけたりした。
しかし、誰も希美の事を知ってる人はいなかった。
「希美…どこ行っちゃったんだよ…」
その日もまた希美を見つける事は出来なかった。
もう、希美の電話にかけても通じなかった。料金が未払いで止まってるようだ。
次の日も優羽は諦めずに希美を探したが見つからなかった。
最後に希美と別れる時、希美はさようならと言った。希美はもう会わないつもりだったのだろうか。
優羽はそんな事を考えながら途方にくれていた。
夜になり、優羽は海の近くを歩いていた。
海には光が浮かんでいてとても綺麗だ。
優羽はその光に見とれながら、希美と初めてデートした時の事を思い出していた。
客船に乗り、一緒にご飯を食べた。色々な話をした。優羽が希美の事をかわいいと言うと、恥ずかしそうにしていた。恥ずかしそうに頬を赤らめる希美をとても愛おしいと思った。希美は優羽の職業を理解してくれた。信じてると言ってくれた。初めて名前で呼び合った。初めて希美とキスをした。
そんな事を考え、海沿いを歩いていた。
すると、誰かが海を眺めている。暗くて誰だかは分からない。
優羽はその誰かに近づく。
胸の鼓動が高鳴る。
心が晴れていく。
涙があふれてくる。
「希美…」優羽がつぶやく。
「……」その子は優羽の事を見つめて驚き、言葉を失っている。その子の目にも涙があふれる。
「…優羽…どうして…どうして…」希美だ。
「希美…やっと会えた…」優羽が目をつむった。
「優羽…」希美の目からは涙がたくさんこぼれ落ちていた。
「探したよ…いっぱい…」優羽の目からも涙がこぼれた。
「優羽…私…」希美の言葉をさえぎり、優羽は思いっきり希美を抱きしめた。
「もうどこにも行かないで…お願い…」震え声で優羽が言った。
「…ごめんね…優羽…泣かないで…」希美も優羽を抱きしめた。
ずいぶん長い間二人は抱き合っていた。
会話はない。しかし、二人はお互いの存在を確認するかのように強く抱き合った。
「優羽…もう離して。」希美が沈黙をやぶった。
「…やだ。離さない。」優羽はまだ希美を力強く抱きしめたままだ。
「優羽、大丈夫だから。私はちゃんとここにいるよ」希美が優羽に優しく言う。
優羽は力強く抱きしめていた腕の力をゆるめた。
「優羽…怒ってる?」希美がおそるおそる聞いた。
「…」優羽が横に首を振った。
「希美の家に行ったよ」優羽が口を開いた。
「そっか…私ね優羽に嫌われるのが怖かった…」希美が言った。
「なんで俺が希美を嫌うの?」優羽が聞いた。
「だって私は…優羽が思ってるような人じゃない。私は、あの二人をいつも憎んでた。どうやって殺そうかとか考えたりもしてた。でも、優羽の前ではそれを隠していい子を演じてた。なんか、優羽を騙してるみたいで辛かった…」
優羽は黙って聞いた。
「私の両親は、私が中学生の時に離婚したの。お母さんは男作って出て行ったっきり、音沙汰なし。今はどこで何してるかもわからない。私はお父さんに引き取られて、お父さんはあの女と再婚したの。最初は優しくて、私も好きになった。お母さんって呼んでた。でも、お父さんと離婚する事になって、あの女が私を引き取るって言った。でもそれは、私からお金を取る為だった。最近なんて、家に男が住み付いてる。私がバイトして貯めたお金、あいつらに取られた。専門学校に行く為のお金…私はもう限界だった…」希美が話した。
「うん…」優羽はあの女とあの男の事を思い出しながら返事をした。
「私は親に捨てられて、知らない人と一緒に住んで、邪魔者あつかいされて…私は何で産まれたんだろうって…。こんな女、気持ち悪いでしょ?優羽には似合わないよ…だから、優羽の事は楽しい思いでに…」
「だったら俺にはどんな女が似合うんだよ。」希美が言い終わらないうちに優羽が言った。
「…綺麗で…お金持ちで、みんなに愛されて、それで…」希美が下を向きながら答えた。
「勝手に決めんな!別に俺は、金とか美人とか人気があるとかそんなのどうでもいい!希美が良いんだよ!どんな希美だろうが好きなんだよ!」優羽が怒鳴った。
「優羽…」
「居場所がなかったら俺の所に来ればよかったんだ!寂しかったら俺に言えば良かったんだ!辛かったら俺に話せばよかったんだ!
………俺の事もっと頼ってくれよ。」
優羽は今までの分を全部はきだした。
「…ごめん」希美はまた泣き出した。優羽の言った事が嬉しかった。
「もう俺の前でいい子になるのはやめろよ。もっと俺に迷惑かけろよ。希美の迷惑なら喜んで受け止めるから。」優羽は希美を見つめながら、優しく言った。
「うん…」また希美の目からは涙がこぼれた。
「優羽、どうして私がここにいるって思ったの?」
優羽の車に乗り、希美が聞いた。
「あの、美佐子ってゆう女に聞いたんだ。もしかしたら、希美、お父さんに会いに行ったんじゃないかと思って。」優羽が答えた。
「あの女、素直に答えたの?お金取られたんじゃない?」希美が言った。
「ん?ああ、まぁ。金は別にいいんだ。あいつら希美をバカにしすぎだ!」優羽はまた怒りがこみ上げてきた。
「うん…でも、もういいの!あいつらのお金全部盗んできたから。まぁもともとは私のだけど…私はもう二度とあそこへは戻らない。」希美が唇をかみながら言った。
「希美はお父さんに会いにここに来たの?」優羽が聞いた。
「うん…」希美が答えた。
「会えたの?」優羽が聞いた。
「うん…」希美が答える。
「どうだった?」優羽がまた聞いた。
「…もう来ないでほしいって言われちゃった。お父さんね、新しい家庭持ってて、子供もいたよ。幸せそうだったよ。」希美が笑顔で答えた。
そして、下を向いた。
「………」優羽はそんな希美を見ると、強く心が痛んだ。
「あはは…私って名字、黒川なのかなぁ…あはは」希美の目からは涙がこぼれた。
「希美…一緒に暮らそう。それで、希美が高校卒業したら、結婚しよう。俺が必ず希美を幸せにするから。」優羽が言った。
希美は優羽を見ながら、嬉しそうにうなずいた。
今日はもう遅いので、ホテルへ泊まり、明日の朝自宅へ帰る事にした。
玄関に入ると、優羽が希美を抱きしめ、強引にキスをした。
「ん…ん」希美は驚き、優羽に体重をかけられ、その場に座り込んだ。
優羽はそれでもキスを辞めようとしない。
希美を床に押しつけ、手を押さえてキスを続ける。
希美は優羽にされるがままになった。
「…希美…」優羽がやっとキスを辞めたと思うと、希美を抱き抱え、ベットへ運んだ。
そして、また強引にキスをし、首の方へとキスは下がっていった。
「ゆ、優羽…ちょ…」希美が何も言わず迫ってくる優羽に動揺していた。
「ごめん…我慢できない、嫌だったら殴っていいから…希美が欲しい…」優羽は少し力強く希美の服の上から胸をさわった。
「……」希美は何も言わず、優羽に身をまかせた。
優羽はやっと会えた希美の温もりをいつまでも感じていたかった。