百合の店
「希美、また連絡する」希美を送り、希美のアパートの前に車をとめ、優羽が言った。
「うん、私も」希美が言った。
「優羽…あのね…」希美が小声で言った。
「ん?」優羽が聞き返した。
「……」
「何でもない。優羽、さようなら。」そう言うと優羽にキスをして希美は家へと帰って行った。
優羽は少し気になったが、希美が家へ入るのを確認すると、自宅へと戻って行った。
次の日、仕事へと行くと、ナルが話かけてきた。「ねぇ、優羽さん。いい加減、みずき姫の事教えて下さいよ〜」
ナルはみずきに出会ってから毎日のように優羽に聞いてくる。
「毎回、毎回うるせえよ!どうせお前、遊んで終わりだろ!」優羽が言った。ナルは女ったらしだ。以前もハルの同期の女を取ってもめていた事がある。
優羽はみずきの事はどうでも良かったが、自分の後輩が女ったらしなのを辞めさせようとしていた。
「違いますよ!今回はマジっす!みずき姫を見た時はビビっと来たんっす。」ナルが必死に言った。
「じゃぁ、他の女とは縁を切って、みずき一つに絞れよ!」優羽が怒鳴った。
「いや、そ、それは…」ナルがボソボソ言った。
「おう!優羽!何を吠えてる。ナルがまた何かしたか?」ハルが出勤してきた。
「あ、ハルさん」優羽が言った。
「おはようございます!ハルさん!」ナルが言った。
「よぉ。お前、あんまり優羽を怒らせんなよ。最近周りのやつらに優羽が俺に似てきたなんて言われてるんだぜ。」ハルが言った。
確かに、優羽は日に日にハルの性格に似てきていた。
「ハルさん、聞いて下さいよ。優羽さんがいくら聞いてもみずき姫の事教えてくれないんです。」ハルが優羽に言った。
「みずき姫?誰だそれ?」ハルが優羽に聞いた。
「あの、おっぱぶの子ですよ。俺の相手した。」優羽がナルに聞こえないようにハルに言った。
「あぁ。いたな。」ハルが思い出したように言った。
「お前、店に来てから惚れたのか?」ハルがナルに言った。
「はい。俺マジっす。」ナルが言った。
「じゃぁ他の女と縁切れ」ハルは優羽と同じ事を言った。
「あっ、その…えっと…」ナルが一度優羽を見てからもじもじした。
「みずき姫に会えるかどうかはお前の行い次第だな」ハルがナルに言った。
「はい…俺、他の女とは縁切ります!みずき姫の事マジっす」先輩二人から同じ事を言われたナルは、一人の女だけに絞る事にした。
「よし、それじゃ行くぞ!」ハルが部屋を出ようとした。
「どこにっすか?」ナルが聞いた。
「いいから付いてこい、優羽もだ」ハルが言った。
優羽とナルは顔を見合わせ、ハルに付いて行った。
ハル様専用のリムジンで到着した場所は百合の店だった。
「ハルさん!もうオープンしたんですか?!」優羽がびっくりして聞いた。
「今日からだ!」ハルが言った。
中へ入ると百合が客を案内していた。オープンしたばかりなのに、店にはたくさん客が来ていた。
「百合!」ハルが百合を呼んだ。
「ハル様!お待ちしておりました。」百合がハルの所まで走ってきた。
「優羽様、お久しぶりでございます。それと…」百合がナルを見た。
「俺の後輩のナルです」優羽が言った。
「そうですか。ナル様、初めまして、ハルの妻の百合でございます。」
百合がナルに挨拶した。
「よろしくお願いします。え!?ハルさん結婚してたんすか?」ナルがハルに言った。
優羽もビックリしてハルを見た。
「あぁ、こないだな。」ハルが言った。
「さぁ、皆様こちらへ。」百合が席へと案内してくれた。
「百合さん、こないだはありがとうございました。」優羽がプレゼント選びをしてくれた百合にお礼を言った。
「いえ、とんでもございません。彼女様は喜んでいらっしゃいましたか?」百合が言った。
「はい。すごく喜んでくれました」優羽が笑顔で答えた。
「それは、良かったですね優羽様」百合も笑顔で答えた。
「おい!お前、百合に見とれてんじゃねえよ!」ハルがナルに言った。
「すいません!でも、すごく綺麗なんで。」ナルが百合を食い入るように見ている。
「ナル様、ありがとうございます」百合はナルに笑いかけた。
「あ、いえ、そんな」ナルが百合に見られて恥ずかしそうに答えた。
「おい!テメェ!百合の事見るな!テメェの汚ねぇ眼中に入れるな!」ハルが騒ぐ。
「ハル様!後輩にその様な事言ってはいけません。」百合がハルに怒った。
「う…」ハルは百合にはめっぽう弱い。
「ハルさん、百合さんにベタ惚れなんすね」ナルが笑いながらハルに言った。
「ち、ちげぇよ。百合が俺にベタ惚れなんだよ。な、百合?」ハルが百合に言った。
「はい、ハル様。百合はハル様にべた惚れでございます」百合が笑顔でハルに言った。
ハルは百合から、いつもの様に「いいえ、ハル様が百合にベタ惚れなんです」と言われると思っていたが、以外な返事だったので、顔を真っ赤にしてしまった。
優羽も百合の答えが思っていたのと違い笑ってしまった。
「ハルさん、真っ赤」優羽がハルに言った。
「そ、そんな事ねえよ」ハルが顔を隠しながら言った。
優羽はこんなにハルの恥ずかしそうな顔は見たことがない。
「ふふ、それではこれで」百合は笑いながら場を立ち去ろうとした。
「百合、俺の接客してくれよ」ハルが百合を愛おしそうに見ながら言う。
「ハル様、私は違う仕事をしなくてはなりません、大丈夫でございます。ハル様好みの女性を連れてまいりますので」百合が言った。
ハルはしょんぼりとした。
「あ、そうだ。みずきってやつは今日いるか?ナルが会いたいらしい」ハルが聞いた。
「みずきですね。かしこまりました。」百合はテーブルを離れて行った。
「ハルさん、いつ結婚したんですか?」優羽がハルに聞いた。
「クリスマスイブに入籍した」ハルが言った。
「じゃぁ、あいつ離婚届け書いたんですね」優羽が言った。
「あぁ、俺にあんな弱み握られてたら書くしかねえだろ。」ハルが笑いながら言った。
「ハルさん、おめでとうございます」優羽は二人が幸せになってとても嬉しかった。
「お前はどうだった?希美ちゃん。やったか?」ハルが聞いた。
「やりました」優羽がハルの耳元で言った。
「お〜!そうか!!おい、ナル!お前の先輩は立派な大人になったぞ!今日はめでてぇ!お祝いだ!お〜い酒盛ってこ〜い!なんなら店のもん全部持ってこい!」ハルはよっぽど嬉しかったのか、一人で騒いでいた。
優羽もナルもそれを見て笑った。
「あ〜!優羽様!」みずきが来た。
他にも、ハルのタイプの子が来た。百合はハルのタイプを良く分かっているようだ。
「み、み、みずき姫!」ナルがみずきを見て言った。
「あ〜ナル王子!」みずきがナルを指指す。
「それに、キャー!ハル様〜」みずきはハルと優羽の間に座った。
「みずき姫、俺みずき姫に会いたかったっす」ナルが言った。
「へ?そうなの?なんで?」みずきが言った。
「そ、その、あの」ナルがもじもじしている。
「みずきにマジらしい」優羽がみずきに言った。
「まじでぇ〜?!」みずきが言った。
「すいません、遅れて。かすみと申します。」女がもう一人来た。
「あっ…」優羽が言った。
「優羽!」あのかすみだった。
「ちょっと、みずき退きなさいよ!」かすみが優羽の隣に座った。
「か、かすみさん。ここで働いてたんですか!?」優羽が言った。
おっぱぶで働いているとは聞いていたが、まさかみずきと同じ職場だったとは…
「最近移ったのよ。優羽が来てくれるなんて嬉しい〜」かすみは優羽を抱きしめた。
「ちょっとかすみ!優羽様は私のよ!離れなさいよ!」みずきが優羽とかすみを離す。
「優羽モテモテじゃねえか!」タイプの子と酒を飲み、話しをしていたハルが優羽達を見て笑いながら言った。
「はい…あはは…」優羽は苦笑い。
「みずき姫!優羽さんの事好きなの?!」ナルがみずきに聞く。
「好き!だってかっこいいもん!」みずきが言った。
「ダメよ!優羽はかすみの事が好きなのよ。かすみたち付き合ってるんだから!」かすみが優羽の腕を引っ張った。
「付き合ってる!?そんな訳ないじゃん!ねぇ優羽様!」みずきも優羽の腕をひっぱる。
ナルがガックリしている。
「いや…その…」優羽の腕が抜けそうだ。
「優羽様は私のおっぱい揉んだんだから!」みずきがかすみに言った。
「揉んだんっすか!?」ナルが優羽に攻めよる。
「あ…いや…なんてゆうか…」優羽が言う。
「そんなの、客としてでしょ!かすみなんて、優羽と二回もキスしたんだから!」かすみが言い返した。
「キスしたんっすか!?」ナルがもっと優羽に詰め寄る。
「そんなの、男のあんたとしたって意味のないことよ!」みずきが言った。
優羽は聞き間違えたのかと思い、もう一度聞きなおした。
「みずき、男って何?」
「え?かすみはニューハーフだよ」言い合っていたからか鼻息を荒くして答えたみずき。
「え…?ニューハーフ?」優羽の時が止まった。
かすみの方を見るともじもじして優羽を見ている。
ハルもあっけに取られている。
「ま、まじで〜?!俺をだましてたのか!」優羽は立ち上がりかすみに言った。
「エヘ。騙してた訳じゃないよ。でも、かすみ心は女だもん!」かすみがハニカミながら言った。
「おい!それは偽物か!」優羽はかすみの胸を指さしながら言った。
「うん」かすみはかわいく言った。
「おい、まだ付いてんのか?」ハルもかすみに聞いた。
「はい!これは勲章なので取れません」かすみが言った。
優羽は頭がくらくらして、座りなおした。
かすみと二回もキスをしてしまった…しかも初キスの相手だった。
優羽はおしぼりを手に取り、唇を荒れる程ふいた。
だから、あんなに背がデカかったのか…化粧が濃いのも男を隠す為だったのか…なぜ気が付かなかったんだ俺。
優羽は自分を責めた。
「ゆ、優羽、気をしっかり持て。」ハルが気の毒そうに優羽に声をかけた。
ハルも優羽とかすみがキスをした事は知っていた。
「優羽様、知らなかったんだ。ウケル〜!!」みずきが大爆笑した。
「おい!これ以上笑ったら犯すぞこらぁ!」優羽はみずきのほっぺをつねりながら言った。
「優羽さん、みずき姫に当たらないで下さいよ〜」ナルがみずきをかばった。みずきはまだウケている。
優羽は酒をがぶ飲みした。酒で何もかも忘れようとした。
「お〜い!一番きつい酒どんどん持ってこ〜い!!」優羽は叫んだ。
「おい!優羽が壊れたぞ!誰かとめろ〜」ハルが言った。
みんな大爆笑だ。
それからは、みんなでわいわいと騒ぎ楽しんだ。優羽達のテーブルはひときわ騒がしかった。
優羽はかすみをかす男と呼んだ。かすみも笑いっぱなしだ。
ナルもみずきを口説きまくり、良い感じになっていた。
「また来てね〜!」外まで送り、みずきがみんなに言った。
「みずき姫。また会いにくるよ」ナルが言った。
「優羽?かすみの事嫌いになった?」かすみが優羽に聞いた。
「ん?嫌いになんてなってないよ。」優羽が言った。
「また優羽指名で行ってもいい?」かすみがまた聞いた。
「もちろんだよ。来なよ!待ってるから」優羽が笑顔で言った。
「優羽…」かすみはますます優羽を好きになってしまったようだ。
「優羽、お前は立派な男だ」ハルが優羽の肩をたたいた。
「優羽さん、かっこいいっす」ナルも優羽を見て言った。
優羽はニューハーフを受け入れた。中身は女と言われたらしょうがない。
三人は自分達の職場へと帰って行った。