子猫
「優羽。またかっこよくなったよ〜」
「ありがとう。かすみさんも綺麗ですよ。」
優羽はかすみの接客中だ。
最近ゆうは伸びてきた髪を少し切った。
少し前まで毎日のように店に来ていたかすみだったが、一週間来ていなかった。
「かすみさん、久しぶりですね?何してたんですか?」優羽が言った。
「ちょっとね〜色々忙しくって。優羽、かすみに会えなくて寂しかったでしょ?」かすみが上目使いで優羽を見ながら言った。
「はい、寂しかったです」優羽が答えた。
「ごめんね、心配かけて。私も寂しかった。」かすみが優羽に抱きついた。
「もう、心配しましたよ」全く心配なんてしていなかった優羽が言った。
一週間会わないうちにかすみの胸が一段と大きくなっている気がした。
優羽を抱きしめた腕を離し、かすみがキスをしようとした。
「ダメだよ、かすみさん。みんな見ててはずかしいよ。ね?」以前、かすみにキスをされた所をハルに見られ怒られた事があった。優羽はかすみとはキスをしたいとは思ってもいないが。
「もう、優羽は恥ずかしがり屋だなぁ。かわいい、かわいい」優羽の頭をなでるかすみ。
かすみの接客が終わるといつも通りに外まで送る。
「ねぇ、優羽ここならキスしてもいい?」かすみがまだキスをしたがった。
「ここも人が多いし、恥ずかしいから。」優羽がやんわり断った。
「もう!」かすみは怒ったのか、小走りで暗い路地に入った。
「か、かすみさん!」優羽は客を怒らせてしまったと思い、かすみを追いかけ路地へ入った。
「ふふ…やっぱり優羽、追いかけてきてくれた。」かすみが笑顔で言った。
「かすみさん、ビックリさせないで下さい。ほら、危ないから行きましょう。」優羽がかすみの手を引いた。
「ねぇ、ここなら誰も見てないよ?」かすみがまた上目使いで言った。
「……」さっきは人が見てて恥ずかしいと断ったが、今はいくら探しても上手な断り方法が浮かんで来なかった。
しょうがないか...と優羽は思い、かすみの肩に手を置いた。
かすみは結構背が高かった。176センチある優羽の身長と同じぐらいか、少し上ぐらいだった。
「優羽、かすみの事好き?」かすみが聞いた。
「好きだよ」そう言うと優羽は軽くかすみの唇にキスをした。
これはしょうがない事だ。だって、かすみは優羽の事を恋人だと思っているのだから。優羽もそれに付き合わなくてはならなかった。
かすみは優羽にキスをされ満足して帰って行った。
次の日、優羽は携帯のバイブの音にビックリして飛び起きた。
ハルから着信があった。
「ハルさん、おはようございます。どうしたんですか?」優羽は半分寝ている状態で言った。
「おい!俺の子供預かってくれ!」ハルは何だか焦っていた。
「子供!?」ビックリして優羽が聞き返した。
「これから持っていく!」
そうゆうとハルは電話を切った。
しばらくして、ハルが少し大きめの黒い袋を持ってきた。
「ハルさん、そんなのに子供入れてきたんですか?!ハルさん子供いたんですか!?」優羽はテンパっていた。
「これ預かってくれ!」ハルが言った。
「いえいえ!ハルさんの頼みとは言え、子供なんて無理です!無理無理!」優羽は腰が引けている。
ジャー!ハルが袋のチャックを開けた。
おそるおそる中を見る優羽。
「ミャ〜」
「わっ!」優羽はそれを見て驚いた。中には子猫が一匹入っていた。
「どうしたんですか!?ハルさん猫飼ってましたっけ?」優羽が聞いた。
「この前買ったんだ!一目惚れした。」ハルが子猫を袋から出しながら言った。
「かわいいだろ〜」ハルは子猫にベタボレだった。
「ミャ」子猫が鳴いた。
「かわいいですけど…ハルさん、預かれって何でですか?」優羽が聞いた。
「さっき、こいつ、百合が気に入ってる服におしっこしたんだよ。そしたら、捨ててこいなんてゆうんだぜ?」ハルが子猫をさすりながら言った。
「やだつったら、じゃぁ、食うとか言うんだ。だから、こいつ連れて逃げてきた。」
天下のハル様も惚れた女には弱いようだ。
「優羽、百合のほとぼりが冷めるまで預かってくれ!頼む!エサも持ってきた。」ハルが優羽に頼んだ。
「それは構わないですけど。」優羽が言った。
「おぉ、良かったなお前!百合に食われる所だったんだぞ。優羽に感謝しろよ」ハルが子猫をまたなでた。
ブーブー。ハルのポケットに入ってる携帯がなった。
ハルは子猫を優羽に渡した。
「うお!百合だ…はい。」ハルが電話にでた。
「…ん?百合?どうした?」ハルが聞いた。
「百合!落ち着けって!何があったんだ?」ハルがまた聞いた。
どうやら何かが起こっているようだ。
「あぁ…やっぱりきたか…すぐに向かうから、お前は」
百合が電話を切った。
どうやら一大事の様だ。
「百合…」ハルも携帯を閉じた。
「ハルさん…?」優羽が心配そうに聞いた。
「あいつが出て来やがった。百合達の店、今ぶっこわしてるらしい」ハルが優羽に言った。
「え?!」優羽が言うと、ハルが急いで部屋から出て行った。
優羽もハルの後を追った。
ハルは車を飛ばし百合達の店へと向かった。
到着すると、以前優羽が行った事のあったおっぱぶが、壊されている。
店の周りにはそこで働いている女の子達が集まっていた。泣いている子もいる。やめてと叫んでいる子もいる。
「ハル様!」百合がハルを呼んだ。
「百合!」ハルも呼んだ。
「ハル様!私はどうすればいいのでしょう。みんなの居場所がなくなってしまう…」百合は泣いていた。
「………」ハルは黙った。
「おい!百合!どうだ?やっぱりお前に守る事なんて出来なかったな!」そこには、百合の旦那がいた。
百合が旦那を睨む。
「卑怯よ…」百合が睨みながら言う。
「お前が私に逆らわなければ、こんな風にはならなかったんじゃないか?お〜あんなにみんな泣いちゃってかわいそうに。」嫌な笑みを浮かべながら旦那が言った。
「何て悪どい…」百合はまだ睨んでいる。
「百合、今からでも遅くない。私が一言言えば、止められる。さぁ、今までの様に私のそばに来なさい。」旦那が百合に近づいた。
「おい。」ハルが百合の前に壁を作った。
「気安く近づくんじゃねえぞ!俺の女だ。」ハルが言った。
「お前の女だと?ふざけるな。百合は私の物だ。」旦那もハルに言い返した。
「おい、お前!さっさと百合と離婚しろよ。百合はお前の事なんとも思ってねえんだから。」ハルが偉そうに言った。
「私は百合と離婚はしない。するつもりは一切ない。」旦那も偉そうに言った。
「いや、離婚はしてもらう。これ、な〜んだ。」ハルはポケットから何かを取り出した。
録音機だった。
「それは…」旦那が録音機をみながら言った。すこし驚いているようだ。
「悪りいけど、この前の会話全部録音されてるから。これは離婚裁判の時とても役にたつだろうなぁ〜」ハルがニヤニヤしながら言った。
この前の、旦那が言った、百合に対する暴言や殴っている事を認める発言はすべて録音されている。
「貴様…」旦那がハルを睨んだ。
「あれ?役に立つどころかお前、もしかして犯罪者になっちゃう?脅して監禁してたんだもんなぁ?」ハルはとても頭がきれる男だ。
「くっ………」旦那は返す言葉もないようだ。
「あっ、そうそう!お前に報告したい事がもう一つ。俺さ、自分の店作ったんだ。まぁ、キャバなんだけど。今女の子いっぱい募集してるんだよな。あぁ!あそこにいる女の子達、かわいいから俺の店で働いてもらおう!」ハルは向こうで泣いている百合の後輩達を見た。
「俺、社長。」ハルは嫌みたっぷりに旦那に向かって言った。
百合の旦那は手も足も出ない状態だ。
「よし!じゃぁ、帰るぞ。」ハルが百合と優羽を見て言った。
「ハル様」百合の瞳にはハルしか映っていなかった。
三人は車に戻ろうと歩きだした。
旦那は以前ハル殴られた左頬が紫色になっていた。とても悔しそうにこっちを見ている。
ハルが振り返り、最後に捨てぜりふをはいた。
「おい、能無し!早く離婚届け書けよ!それとこれは交換だ!」ハルは録音機を高々と上に上げた。