百合の奪還
その日一日の仕事が終わり、ハルがいつも通り、専属リムジンで帰ろうとしている所を優羽が呼び止めた。
「ハルさん!話があるんですけど」
「おう!優羽。じゃ、乗れ。」
優羽はハルのリムジンに乗った。
「どうした?」ハルが聞いた。
「この前連れてってもらった、おっぱぶの子が今日、店に来ました。」優羽が言った。
「あぁ、それで?」ハルが聞いた。
「百合さん、今仕事休んでるみたいです。」優羽が真剣に言った。
「……」ハルは黙った。
「なんでか言ってたか?」ハルが口を開いた。
「たぶん顔に傷を追ったからって…」優羽が言った。
「………」ハルは下をむきガックリしていた。
「百合さんの事助けにいきましょうよ。」
「………」
「何でですか?何で行かないんですか。」優羽攻めよる。
「……」
「俺、百合さんがハルさんを見る目しっかり覚えてます。とても悲しそうで、何かを言いたそうで…百合さんって、きっと強い女性なんだと思います。だから、自分に辛い事があっても誰にも言わず、一人で耐えているんだと思います。」
「…俺は一度百合を捨てたんだ。今さら俺に何が出来る。俺と一緒にいたって、結局また百合を泣かせちまう…今のままが一番いいんだよ。」
ハルがうつむきながら言う。
「百合さんはまだハルさんが好きなんですよ!ハルさんに助けを求めてるんですよ!」
優羽が怒鳴る。
「うるせぇ!何もしらねぇ〜くせに、ごちゃごちゃ言うな!」
ハルも怒鳴った。
「そんな二人の過去の不幸話なんて知りたくもないですよ!ハルさん、過去が怖くて、現実から目を背けてるだけです!そんなのハルさんらしくない。俺が保証します。」
「あぁ?」
「百合さんは、ハルさんと一緒にいる方が絶対幸せになります。もうハルさんはもう二度と百合さんを不幸にしません。俺が保証します。」
優羽がハルの目を真剣に見つめる。
「…………」
「…俺ってだっせぇ男だな…後輩に言われて気づくなんてよ。」
「ハルさん…」
「百合は俺の女だ!ぜってぇ〜奪い返す!」
ハルの曇っていた心が優羽の言葉で晴れた。
引きずっていた過去のださい自分とさよならが出来た。
「おい!百合の家へ行く!」
ハルは運転手に告げた。
優羽はいつもの自信満々で怖いものなしオーラを取り戻したハルを見てほっとした。
リムジンは大きな門の前に停車した。
ハルは車からすぐに降り、門のチャイムを何度も鳴らした。
優羽もハルを追いかけ降りた。
とても大きな家だった。
「はい。どなたでしょうか?」インターフォンから女性の声がした。
「弥生だ。ここ開けろ!頼む!」ハルはインターフォンに言った。
「弥生様……開けられません。旦那様にきつく言われておりますので」どうやら、この家のお手伝いさんらしい。
「いいから開けろよ!!テメェぶっ殺されてえのかよ!」ハルが怒鳴った。
「…………」
ハルの言葉にビビったのか、門が開いた。
ハルが走り、中へと入って行った。
優羽も後に続いた。
家の中へ入ると、先ほどのインターフォンと同じ声のお手伝いがいた。
「弥生様。お帰り下さいませ。旦那様に見つかったら大変です。」
「百合は?」ハルは無視した。
「…」お手伝いは下を向いた。
「百合はどこだよ。」ハルが怖い顔でもう一度聞いた。
「…」
お手伝いは向こうの部屋の扉をチラッと見て、また下を向いた。
ハルがその部屋まで行きドアを開けた。
中には百合がいた。
「ハル様…」
百合は目に眼帯をしていた。
「……」ハルは百合の顔を見て、眼帯の場所を触った。
「大丈夫か?」ハルが悲しい目をした。
「はい…」百合がか細く言った。
「百合…俺、やっぱりお前が好きだ。自分勝手な事は良く分かってる。」
「…………」百合は何も言わずハルを見つめている。
「俺の所に戻ってこい」ハルも百合を見つめる。
「ハル様…百合は…」
「おい!勝手に人の家に入りやがって何のまねだ?」
「だ、旦那様!申し訳ございません。」
お手伝いが怯えながら言った。
「お前かぁ?百合の旦那つうのは?」
ハルは百合の旦那に会うのは初めてだった。
「その通りだ。俺はお前の事は見た事あるぞ。百合に一目惚れしたぺーぺーホストだな?」
旦那が言った。
百合の旦那は憎たらしい顔をしていた。
「ああ、あの時は確かにペーペーだったな。」ハルが言った。
「百合に何の用だ?一度捨てた女をまた拾いにでも来たか?」
旦那が憎たらしい顔をした。
「ああ。その通りだ。」ハルも喧嘩を売るような態度だ。
「百合!お前みたいな能無しにはやはり能無しの男しか寄りつかないみたいだなぁ」
旦那が意地悪く言った。
百合は下を向いている。
「お前、なんで百合と結婚したんだ?ちゃんと愛してるのか?」
百合をバカにしている旦那に怒りを覚えたハルが聞いた。
「私は綺麗な物が好きでね。百合は私のアクセサリーの一つだ」
旦那が言う。
「百合は物じゃねえぞ」ハルは右手をギュと握りしめた。
「物だ!見た目以外なんの取り柄もない。だから、百合も今の仕事を始めたんだろう。私の店にいる女共は全員そうゆう人間だ。」
「違うわ!」
百合が否定した。
「黙れ!俺に逆らうな!また殴られたいのか?
ほら百合、いい子だから私の側に来なさい。」
「行くな」
」百合が旦那の方に行こうとした時、ハルが百合の腕を掴んでとめた。
「おい、ガキ。汚い手で百合に触れるな」旦那が言った。
「お前、口答えする度に百合に手上げるのか?」ハルが旦那を睨みながら言った。
「しつけだ。体でしつけないと、バカには分からん」旦那が言った。
「てめぇ、ふざけんじゃねえぞ…」ハルは拳を力強くにぎりしめ、今にも旦那を殴りそうだ。
「おい、ガキ。私は百合に何不自由なく生活させている。なぁ百合?私と一緒になってから贅沢ざんまいだ。幸せだろう?」旦那が言った。
「……はい」か細い声で百合が言った。
ハルは百合の答えを聞いて目をつむり、下を向いた。
「百合…本当に幸せなのかよ…」ハルが聞いた。
「はい…幸せでございます…」百合が震えながら答えた。
「百合は幸せだ!お前とはもう何の関係もない。」旦那が笑いながらいった。
「……………」ハルがまた目をつむった。
「…じゃあ、百合の事殴るのは止めてくれよ…」ハルが言った。
「それが人に物を頼む態度か?」旦那が言った。こいつ、心底意地が悪い。
「………………」
ハルが膝を付き、頭を床に付けた。
「百合の事大事にしてやって下さい。殴らないでやって下さい。お願いします…」
百合はハルを見て、目を背けた。
「聞こえねぇ〜な!」旦那がハルの頭を踏んだ。
「やめろ!」優羽は思わず叫んだ。
「優羽!お前は黙ってろ!」ハルが優羽を怒鳴った。
「さっきまであんな偉そうな態度していたのに、ずいぶんみっともない姿だな!ぺーぺーが調子乗って、社長にたてつくからだ!お前らのような奴は土べたに頭をこすりつけるのがお似合いだ。」旦那は笑いながら言った。
「おい!百合!おまえが惚れてた男、ずい分ぶざまだぞ。」また笑いながら言う。
「お前はこんな男の為に毎日がんばってたもんなぁ。バカバカしいだろう?百合。」
「どうゆう事だよ?」
ハルが旦那を睨みながら言った。
「ぶざまついでに教えてやる。私が百合に結婚を申し込んだ時だ。あっさりと断った。お前がいたからなぁ。だが、私は必ず百合を物にしたかった。だから、毎日体を奪った。無理矢理なぁ!百合は相当頭が悪いようで、それでも私の物にならない。それには私も手を焼かされたよ。だが、そんな時、お前から百合を手放して…」
「…めて」旦那の話を遮り百合が何か言った。
「何だ百合?」旦那が言った。
「やめて!」百合が叫んだ。
「やめろだと?私に逆らう気か?」旦那が百合に言った。
百合は下を向いた。
「お前は私のゆう事にしたがっていればいいんだ。」
旦那はそう言い、ハルの頭をまた踏みつけた。
「もうやめて下さい!」百合はハルの所に行きハルをかばった。
「私に逆らうな!百合、お前がかわいがってるやつらどうなってもいいのか?」旦那が百合を見ながら言った。
百合は旦那を睨んだ。
「私は社長だぞ?簡単に店ぐらい消すことが出来る。そうなったら、お前の後輩達はどうなるんだろうなぁ百合!」旦那が百合に怒鳴った。
「………」ハルは黙ったままだ。怒りでふるえている。
百合は下を向き泣いていた。
百合は立ち上がり、机からはさみを取り、自分の旦那にそれを向けた。
みんな時が止まった様だった。
「ハル様から足を離しなさい。」百合が旦那を睨みながら言った。
「ゆ、百合やめなさい。」旦那はハルの頭から足を話し、一歩後ろに下がった。
ハルも百合を見た。
百合は震える手で旦那にはさみを突きつけていた。
「百合…」ハルが言った。
「両方大切なんです。後輩も…ハル様も…私が守るります。」百合が震えながら言った。
「両方守るだと?お前にそんな力はない。さっさと私の言う通りにしろ。」旦那が百合を見下しながら言った。
百合は震えながら泣いている。
「百合…」ハルが言った。
「ハル様…百合はあれからずっとハル様の事思っていました。百合は今でも、ハル様を愛しています……………ハル様…助けて下さい…」
百合がハルに言った。
百合が言うなり、ハルは旦那を思いっきり殴った。
「百合。行くぞ」ハルは百合の手を掴んだ。
「優羽!付いてこい!」ハルは優羽にも言った。
優羽も走り出したハル達の後ろについて行った。