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蒼きギャロップ  作者: 印藤ゆう
19/24

馬房4   人の想い、馬の想い

 丸い月が出ている。

 冬の冷気が漂う中、レッドドレイクは馬房から満月を見上げていた。

レ:「随分と寒くなった。もうすぐ年が変わる」

 サマーデイズが死んだ年が終わるのだ。

レ:「サマーデイズ……。最近、ミーたちのボスは雰囲気が変わったように思うぜ」

 だが、そのボスである音梨蒼司も、二月には卒業して三月一日からは騎手としてデビューする。

レ:「競馬の世界は勝負の世界。決して甘い世界じゃない。ボスもそれを知るだろう」

 けれど、その前に卒業をしなくてはならない。

レ:「ボスはまだムチを振るえない。それは、デイズ。お前の死にボスが心を痛めているから

かもしれないんだぜ?」

 隣の馬房は相変わらず空のままだ。

レ「ボスを導くのはお前の仕事だとミーは思っていたんだが……」

 レッドは蹄で地面をかいて苛立ちを露にした。

レ:「最近、ボスを背中に乗せていると、勝ちたいという気迫が伝わってくる。もう、ビンビンにだ。ミーが現役時代を思い出してしまうほどさ」

 デイズが死ぬ前までは、いやそれから暫くも、ボスは何が何でもという想いは持っていなかっ

たはずだ。

レ:「明らかにボスは変わった」

 レッドはもう一度月を見上げた。まるでそこにサマーデイズがいるかのように語る。

レ:「ミーは人間があまり好きじゃなかったが、ボスを見ていると満更でもないと思えるよ」

 人は変わる。成長する生き物だ。

 馬もそうだ。三十年も生きれば大往生とされる馬族は、あっという間に馬生を駆け抜けてゆく。

レ:「ミーは、ボスの想いに応えようと思う。デイズ。お前が生きていれば、きっとお前が

 やったであろうことをミーがやってやるぜ!」

 すっ、とレッドドレイクは瞳を細めた。

レ:「見ているがいい。サマーデイズ」

 まあるい月から視線を切り、レッドは馬房の中央へと戻った。

 その瞳には、現役馬もかくやという闘志がみなぎっていた。


   ※レ:レッドドレイク                    第5レースへと続く

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