馬房4 人の想い、馬の想い
丸い月が出ている。
冬の冷気が漂う中、レッドドレイクは馬房から満月を見上げていた。
レ:「随分と寒くなった。もうすぐ年が変わる」
サマーデイズが死んだ年が終わるのだ。
レ:「サマーデイズ……。最近、ミーたちのボスは雰囲気が変わったように思うぜ」
だが、そのボスである音梨蒼司も、二月には卒業して三月一日からは騎手としてデビューする。
レ:「競馬の世界は勝負の世界。決して甘い世界じゃない。ボスもそれを知るだろう」
けれど、その前に卒業をしなくてはならない。
レ:「ボスはまだムチを振るえない。それは、デイズ。お前の死にボスが心を痛めているから
かもしれないんだぜ?」
隣の馬房は相変わらず空のままだ。
レ「ボスを導くのはお前の仕事だとミーは思っていたんだが……」
レッドは蹄で地面をかいて苛立ちを露にした。
レ:「最近、ボスを背中に乗せていると、勝ちたいという気迫が伝わってくる。もう、ビンビンにだ。ミーが現役時代を思い出してしまうほどさ」
デイズが死ぬ前までは、いやそれから暫くも、ボスは何が何でもという想いは持っていなかっ
たはずだ。
レ:「明らかにボスは変わった」
レッドはもう一度月を見上げた。まるでそこにサマーデイズがいるかのように語る。
レ:「ミーは人間があまり好きじゃなかったが、ボスを見ていると満更でもないと思えるよ」
人は変わる。成長する生き物だ。
馬もそうだ。三十年も生きれば大往生とされる馬族は、あっという間に馬生を駆け抜けてゆく。
レ:「ミーは、ボスの想いに応えようと思う。デイズ。お前が生きていれば、きっとお前が
やったであろうことをミーがやってやるぜ!」
すっ、とレッドドレイクは瞳を細めた。
レ:「見ているがいい。サマーデイズ」
まあるい月から視線を切り、レッドは馬房の中央へと戻った。
その瞳には、現役馬もかくやという闘志が漲っていた。
※レ:レッドドレイク 第5レースへと続く




