馬房3 安楽死
レ:「今日。レースで激走したミーはとてつもなく疲れているのだが……。今回はミーが安楽死というものについて、どうしても説明しておきたい」
空の馬房:隣の馬房には誰もいない。本来はサマーデイズがいる場所だったのに……。
レッドは首を伸ばして、空の馬房を覗き込んだ後、やがて正面を向いた。
レ:「ミーたち競走馬が骨折をすると、症状にもよるのだが、それが重度と診断された場合、治療の施しようがないのが現状だ。ご存じの方もいるかもしれないが……ミーたち馬族は、睡眠をとる時も立ったまま寝る。じゃれて地面に寝転ぶことはあっても、ミーたちは決して地面に横たわって寝ることはできない」
レッド、一度深くため息を吐く。
レ:「すまない、続けよう。馬族は長時間地面に肌を接していると、そこから壊死してゆく生き物なのだ。これが、人間が競走馬に対して安楽死を与える理由である。脚に重度の骨折を負った馬族は横たわっていることしかできない。つまり壊死してゆくのだ。もちろん人間たちも様々な努力をした。ミーたちが人間を愛するように、人間たちもミーたち馬を愛してくれている」
レッド、馬房の中を一回りする。
レ:「ガラスという言葉がある。ミーたち競走馬の脚も、よく『ガラスの脚』と揶揄される。それほど繊細で脆いのが競走馬の脚なのである。速く走るためだけに品種改良されたが故の結果――。それを酷いと言う人間もいるが、ミーはそうは思わない。ミーたちは走るためだけに生きていることに誇りを持っている。多くの馬がそうだとミーは考えている。だがそのために、ミーたち競走馬は脚の怪我に見舞われることも多いのも事実だ」
レッド、暫し瞳を閉じる。
レ:「デイズが脚を折って、予後不良と診断されたのは運命だ。逃れられない運命。きっとヤツは、ミーたちのボスである蒼司がたいした怪我を負わなかったことを喜んだだろう」
レッド、蹄で地面を掻き、いななく。
レ:「うぉおぉぉぉ! だが、分かっていても、やはり辛い! デイズよ。我が隣人よ。なぜ逝ってしまったのだ! ミーを一人にするなんて酷いではないか! 淋しいではないか!」
レッド、再び隣の馬房を覗き込む。
レ:「失って初めてユーの大切さが身に染みる……」
レッド、星空を見上げる。潤んだ瞳から一筋の涙が零れた。
レ:「おい、サマーデイズ。ユーがいなくなってミー一人でどうすればいいと言うんだ!」
※レ:レッドドレイク 次回、馬房に続く……。




