第7話
なんとなく声がする所に行ってみると誰もいない公園からだった。
そこには暗くてよく見えないが、頭のてっぺんがハゲてそうな太ったおじさんが三つ編みをした背の低い女の子の腕を掴んでいた。
やばい、近づきすぎた。離れよう。
と、思った時に女の子がこっちを見た。
えっ。
佐藤…
暗くて良く見えない。
でも、一瞬見えただけなのに俺はあの子は佐藤なんだと確信をもてた。
助けるのは危険だ。無視していこう。
絶対、そうするべきなのに。
気がつくと変態男の手を払い、彼女を俺の背後に隠していた。
『佐藤、大丈夫か?』
「うん…怖かった。」
そいつは震えた声でそう言っていた。
「俺の怜ちゃんに何をする!
俺の女に!!」
『お前の女なんかじゃない!
こいつは俺の…かのじ…、彼女の友達だ。
警察をよぶぞ。』
「へたれ…、かっこよく決めてよ。」
今、後ろからすごく小さな声で言われた。
こっちは全力なんだよ!
「覚えてろよ。
俺の怜ちゃんに手を出すとか許さないからな。
また、会おうね、怜ちゃぁん。」
そう、言って変態男は去っていった。
思わず、座り込んだ俺に彼女は頭を下げた。
「本当にありがとう!!今度、お礼さして。」
と、彼女は何度も繰り返し、ぺこぺこしていた。
助かった。良かった。
と言って、ニコっとした佐藤の満面の笑みの可愛さに課金案件だなと思っている俺はあの男の話からある事に気づいた。
『もしかして、アイドル桃田怜?』
「えっと、え〜、うん、そうだよ。内緒ね。」
やばい、俺は大好きなアイドルグループのメンバーを助けたのかよ。
皆さん、俺は小説の主人公です。
名もなきモブじゃないんです。
しかも、クラスメイト。
思わずにやけてしまった。
「私、親がカズトで待ってくれてるから行くんだけど山本くんは?」
『嘘っ。俺も親父がカズトにいる。』
いつのまにか、敬語で話していた固かった会話がタメ語になっている。
今、思春期特有の女子の前では親父って言う病が発動した。
「えーー!そうなの!
じゃあ、一緒に帰ってくれる?」
桃田怜、いや佐藤は座り込んでいる俺に手を伸ばした。
やばい、いつものデカメガネ、三つ編みでもよく見たらかわいい。
なのに、今日はメイクしてるとか反則。
『ごめん。今、腰抜けてて立てない。』
「あはははぁ〜面白い」
やべぇ、超恥ずかしい。
「山本君、無理して助けてくれてありがと。かっこよかった。」
小さな声で言って、照れてる彼女を見るとまた胸がドクドクしていた。
恋なのか?
いや、この状況でドキドキしない男子っていないよな。
クラスメイトの美少女アイドルと夜の公園で二人だぞ。