人類を進化させる男
人類は文化を発展させて以来、目覚ましい進化を遂げてきた。特にここ150年は、電気や蒸気機関にはじまり、鉄道や飛行機、石油の利用、原子力、水道やインターネット、スマホなど年々技術の進歩は進んでいる。
だが!それは人間が進化しているのでは決してない。ただ、外部の環境を快適にしているのであって人間そのものは以前と変わらない、いやむしろ快適さに慣れ切ってしまい退化すらしている。あらゆる作業を外部に委託し、一日中座って首をもたげて仕事をしているような生物は弱くなる一方なのだ!
だが、ついに人類にも進化の時が訪れる。…たった一人の男によって。
彼は突然現れたわけではない。ごく普通の高校生であった。たしかに彼は哲学的で日々生きることに悩み友達も少なかったが、犯罪を犯そうという気もなく、特殊な能力もないよくある思春期、厨二病のような状態だったにすぎない。だが、彼は選ばれたのだった。
彼、つまり尾道 昇は学校から帰る途中、やはりいつものように哲学に耽っていた。人間の所業、生命の価値、自分の存在意義…そんなことを考えていると突然目の前の世界が変わり、白黒になったかと思えば上下が反転し、色の明暗も逆になった、そしてキーーンという金切り音がしたかと思えば、誰かが自分に話しかけてくる。
「おめでとう、君は選ばれた…。ぼくは君に賭けるよ…」といつのまにか現れた一人の子どもが言った。子どもは青白い顔で太いボーダーのシャツを着ていてその目には冷たい意志を感じた。
「驚いたかい?僕は君達で言うところの神と言われている存在だよ、もっとも実際は僕の他にもたくさん同類がいて普段は君達には見えないってだけでそこらへんにいるけどね…ただ、君達人類よりも遥かに…その力は上回っていると思うよ。言葉も形も自由自在だし、同類の攻撃以外からの死は無いしね。それでいて一瞬で君達の生命を奪うこともできるし、何よりこうして君の脳になんの前触れもなく干渉している…。それで何が言いたいかと言うと僕達は賭けをしているのさ、君ら人類がどこまで短期間で進化できるのかってね。で、たまたま君を選んだというわけだ。理由は本当にたまたまだ、思い上がらないように。それで、まあ他の連中も自分が応援する人間を決めてそいつの進化を見届けようというわけだけど、個人の変化は成長であって進化ではないよね?それは君達的な言葉遊びだとしても、要するにみんな干渉する気はないんだってさ。それがなんの賭けになるかは知らないよ。でも勝ったら惑星の一つを自由にできる権利を得られるんだって。暇つぶしかな?だけど僕は違うよ。つまり…君に思いっきり干渉することに決めたよ。君を進化させる…。もちろんこれは良いことではないけどね。僕のパパはこっちの世界じゃあ偉い立場だからね。こんな小さなことは揉み消せるよ、君達人類のことなんかさ。なんていっても僕達は宇宙全体を見ないといけない。ちなみに、こう見えても僕は君達の単位で言うと58679歳だから…君よりは長生きしてるよ。僕らの種族じゃ子どもだけど。さて、話が長くなった。君に力をあげる。力の中身は「人間を進化させる力」さ。君自体はそのまんま。強くないし簡単に死ぬから気をつけて。でも君はその手で触れた人間を君の意思で進化させることができる。どういう風にするかは君次第だ。たぶん一回は使うだろうね。好きにやってみな。たぶん楽しいよ、君も僕もさ。だけど、君と話すのはこれっきりさ。でも僕は見てるから。よろしく頼むよ。じゃあね…」
そういうと「神」は消えて世界は元に戻った。時計を見たらさっきから10秒も経っていない。いったい何が起きたんだ…。あれこれ考えているうちに遂におかしくなったんだろうか?そんなことを思いながら彼は途中だった。帰宅を再開した。