Ⅰ-07 ハーピィとの戦闘
「なんだ?」
まだ暗いのに蹄の音と馬の鳴き声がする。
音のする方向にのぞき穴をあけてみていると、星空で白く浮かび上がる街道の曲がり角がみえる。
そこへ馬車をひいた馬が早足程度の速度でカーブを曲がってくる。御者台には誰も座っていない。
御者がいないということは、人か獣かに襲われたのだろう。どちらが襲撃者でも馬を逃すはずがない。
――ヒュ、ガッ
人の頭ほどの岩が馬たちの頭を打ち抜き、そのまま馬車は横倒しになった。人がいればたすけるが、あれは早便の荷馬車だ。人はまず乗っていない。賊が出てくるまで待とう。
そんな事を思っていると、賊は道の向こうではなく空から降りてきた。
「ハーピィか……」
七羽のハーピィが馬に群がり、さっそく傷口から肉をついばみ始める。一羽が周辺を警戒しているのか首を巡らせている。
都市の城壁外にでればこういった光景は当たり前になる。頭を打ち抜かれたのが人であったとしても今更特に思うことはない。そういう世界なのだともう割り切っている。
それに、魔獣に襲われた生き物を見るのはグロいだけで済む分まだましかもしれない。夜盗に襲われれば特に女性は生き地獄を味わう事になる。あれはさすがに胸くそが悪い。後先を考えない夜盗は盗品を闇商人に売る以外はほぼゴブリンやオークと変わらない。
能面のような女の顔がこちらを向いた。感づいたのか、頭を上下させてやってくる。ひときわ艶やかな美女の口元には肉片が引っかかっている。
――きもち、わるい。
瞬間的に、目の奥がカッと熱くなり、そこから不快な感覚が身体中に走った。
木の枝に擬態した尺取り虫、花に擬態したカマキリと同じく、ハーピィは美女に擬態した鳥だ。正面からは人間に見えるが、横顔をみれば、耳の位置に目玉があり、顎に見えたのは大食らいのくちばしを隠す肉だれなのがわかる。
鳥は食べるものによって同じ種類でもくちばしの形を大きく変える。前足を翼に変えた鳥にとって、くちばしは捕食の重要な道具だ。だから肉食のハーピィのくちばしが美女の華奢な口であるはずがない。
「なんでそんな姿してんだよ。いっそ完全に獣になっちまえばよかったのに」
死んだ人が魔獣に生まれ変わるなんて与太話がある。信じてもいないくせにいらだち紛れに吐き捨てた。
群れは七羽で全部だ。生存者がいるかもしれないし、早く片付けよう。
魔法の発現には自分と目標の間に直線のドラフトラインをつなげる必要がある。簡単に言えば目で見えない場所に魔法を発現させることはできない。
まず六羽を土槍で串刺しにしてから生き残りを死角から倒そう。
まだ馬をついばんでいるハーピィまでの距離は二十ジィくらいか。手前の奴が視界にかぶって邪魔だな――よしそれた!
「「「ケェェェー!!」」」
幾重もの悲鳴。よし、手前の奴も後ろを振り返った! 死角!
――ィン
「レジスト!?」
目の前の岩が急に消え眼前間近に女の顔があった。振り返っていたハーピィも何が起きているのかわからないらしい。互いに静止したまま、目が合ったまま、女の顔が笑う。
「――笑うんじゃねぇ!」
目の前には焼けた石炭を散らしてもがく、でかい口を開けた鳥。
残しておいた石炭を囲んでいた石ごとたたきつけてやった。
「グゲァァ! ァア! ァア!」
耳障りなひずんだ高音で悲鳴を上げている。
「ゲイル!」
酸素を吸い込んだ石炭の大きな炎。その影から伸ばした土槍が今度こそハーピィの胴体を貫いた。さっきは仲間がやられたのを見て発動しようとした土魔法が偶然レジストになったんだろうけど、二度目はない。
土槍で持ち上がり、心臓がちょうど良い高さに持ち上がっている。頭に着いた髪の毛のような飾り羽と顔のような肉だれは綺麗に燃え尽きていた。
「やっぱ鳥だな。うん」
腰のナイフでハーピィの胸を切り割り心臓を取り出す。
「ハーピィの属性は風、で、土槍をレジストしたから……」
割れた心臓からは双晶型の魔石が出てきた。若草色とセピア色のバイカラーだ。
「風と土の複属性持ちってわけだ。こういうのは魔獣に新しい習性をもたせるイノベーターになるからな早めに倒すに限る、ってひどいなこれ」
よく見れば手の平に結構ひどいやけどを負っていた。とっさに暖炉代わりにしてた石炭を投げたけど、土越しでもやっぱり熱いものは熱い。
「ヒール」
急ごう。本当に生存者がいるかも知れない。
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