Ⅰ-05 魔法の威力と旅支度
軍工兵科総務、ではなく外注先の傭兵団で除隊を願いでたら死ぬなら瘴気の森で死ねとか言われた。ひどい話だ。土魔法を使うだけの最後までろくでもない職場だった。
今は城壁内農場の売店でドライミレット、要するに雑穀の干し飯を買っている。旅の間これが主食になる。あとは市場で小物を買って、武器は……魔法次第だな。限定が解除されたから使える魔法も増えてるだろう。
試し撃ちは人に見られないところが良い。堆肥小屋の裏にはいって辺りを見回した。よし、誰もいない。
「クレイ」
土を引き上げて鉱物質を抜き、粘土質だけを固めていく。最下位土魔法のクレイは土や岩の形を変形させる魔法で、今砂を抜いて硬くしたように、練度が高ければ内容物を選別したり、結構応用がきく。
軍にいてもろくな事が無かったけど土属性技能の練度があがった事だけは意味があった。
さて、的も出来たことだし次が本番だ。
土はしばらくすれば元にもどってしまうけど、そもそも戦闘では地形変化までさせる意味がないので問題ない。
「ロックウォール」
――ズァッ
視界が黄色になった直後、2ジィ、元の世界で2メートル四方にわたる壁が現れた。
「おお!?」
魔法発現の直前には行使者と発現先との間に、ドラフトラインという属性色の光線が現れる。
先ほど俺の視界を覆った黄色い光がそれにあたるので、当然俺が発現させたんだけど、思わず辺りを見回してしまう。
散々やってできなかった下位魔法があっさりとできてしまった。この事実で、恩寵のアップデートが本当にされたんだと自覚した。
「よし、じゃあ、スリンガー!」
この分なら下位攻撃魔法もいけるだろう。足下から飛び出た多数の石が的を割り、後ろのロックウォールに散弾のように衝突する。
「よし、じゃあ、昔魔術書で覚えた……メタルニードル!」
土の中の金属質をクレイで細長い針にしてスリンガーで打ち出す連続魔法だ。
――スカスカスカッ!
「ヤバいなこれ……」
太さは鉛筆ほど、長さは矢ほどもある棒がウォールを貫通して止まっている。
前段階で行う最下位魔法の金属精製に少し時間がかかるし一度に3本しか放てないけど、スリンガーより強力で音も小さい矢は避けづらいだろう。
「うん、名前はメタルアローってことで」
どう考えてもニードルじゃないし。最下位、下位、中位、上位、最上位、至天位でいったらどこに入るんだろう?
その後残りの水・火・風3属性も試したけど、どれも下位魔法レベルだった。やはり魂の位階、要するにレベルと練度が足りないらしい。
「? 焦げ臭い……って!」
火魔法の火が干し草に燃え移ってる!
「おーい! 火事だ! 水魔法使えるやつ呼んでこいー!」
消そうとしてウォーター、煙がでてブリーズとだめな対処をしていると人の叫び声が聞こえた。クレイでまとめて土にぶち込めばよかったよ!
そうこうしているうちにさっきのミレットを売ってくれた兄ちゃんが仲間とこっちに来てしまった。
……。
「おい、火なんてどこにあるんだ?」
「っかしーな、煙が見えたんだけど……」
「んなこといっても匂いもねぇ、見間違いだろ」
「わりぃ、多分そうだわ」
頭の上で二人が話している。ばれてなさそうだ。すまんミレットの兄ちゃん、火の始末はしといたから許して。
まだ声がするけど逃げさせてもらおう。
中級魔法の土遁で自分ごと隠したウォールとクレイの残骸を溶かして、俺はその場を後にした。
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