Ⅵ-12 シャムスの決意
「ユーリ、離れろー」
緊張感のないノラの声が耳に届く。風属性による音矢文だ。シャムスが一人でいるのかと不安になったけど、ノラがいるなら多分大丈夫か。
とっさに近くのくぼみまで土遁で滑り込み、塹壕にする。
伏せながらポーションを一気にあおっていると、ズシン、ズシンと刻印弾による衝撃が腹に響いてくる。
十数回の攻撃音を聞きながらほふく前進で斜面の稜線にでると、ドラフトラインもなく唐突に発現する魔法に翻弄されるドラゴンの姿があった。
だけど、さっきの絶妙な土魔法はビギナーズラックだったらしい。シャムスによる攻撃は当たる弾もあるけど、ほとんどがドラゴンの足下を焦がしたり、背中に岩山を出現させたりして直撃していない。
「なんで、当たらないの!?」
シャムスの焦燥感に駆られた叫びが聞こえてくる。
「それは平常心が保ててないから」
「シャムスちゃん落ち着いて。ユーリならもう大丈夫だから、後は私たちに任せて」
「ダメ、私が倒さないといけないんだから!」
先ほどから音矢文で向こうの会話が聞こえて来ている。シャムスが落ち着こうとしている深呼吸の音さえ聞こえているくらいだ。
「おいノラ、どうせ音拾いつかってんだろ? なにしてるんだ?」
音声を双方向でつなげていると確信めいたものを感じて向こうに呼びかけるが、返事は帰ってこない。わけがわからない。
ドラゴンは唐突に攻撃が止んだため、俺と同じように傷を癒やすために下手に動かずにいる。ただし身体はこちらを向いている。
「……本当は私たちエルフはみんな弱いんだよ。武器も限りがあるから補充のきく刻印石しか持てなかったし」
バスッという静かな銃声の後にこちらでは轟音が鳴る。
シャムスがなにかを語り始め、攻撃を再開した。今度は明らかに命中精度が違う。機械的な装填音が聞こえてくる。
「帰途につくとすぐに、装備の整った軍人が来た。言葉がわからなかったけど、ミーナさんの態度でなにかを拒否したのがわかったよ」
着弾と同時にさっきとより鋭い岩山がスケーリードラゴンの足を縫い止める。
「それから、いろんな人達が私たちを襲うようになって、まずアバサが死んじゃった。御者が―――」
轟音とドラゴンの悲鳴ででところどころがきこえない。
「次は宿屋でタアラ、―――。飛び地――――を頼った時はカラムとナ―――鞍替えしてたなんて」
多分股関節あたりだろう。ドラゴンの後ろ足を岩石が押しつぶした。
「みんな―――を逃がすために魔石を抱いて―――」
「―――護衛はもう私とハッジしかいなかった。小さい私には無理だからってミーナがポーター役になってくれたの」
話が進むたびスケーリードラゴンの鱗がはがれていく。
ドラゴンがこちらに来ようともがいているけど、足を最初につぶされたから這いずることさえできない。
憎々しげな瞳がこちらを向き、土魔法を飛ばしてくるけど、それだけなら動かない身体でも十分レジストできる。
「……いや、ちょっとまて、なんだそれは」
今なんか重要なこと言わなかったか。
「話は終わり。私はこの古くて新しい武器でユーリと旅を続ける!」
シャムスがすばやく三度発射した刻印弾は全弾がドラゴンの鱗を突き破った。
一瞬の間をおいて、目の前のスケーリードラゴンが上半身を大きく丸めると同時に口からピンク色の内臓と一緒にセピア色の結晶が出てきた。ああ、胃袋がひっくり返ったんだな。
弾頭程度の大きさで発現できる魔法には限界がある。
装甲の厚いスケーリードラゴンだからこそ膨らむ余地もなく内臓が押し出されたんだろう。
シャムスが刻印できる風の属性魔法で最大の攻撃になる方法はこれしかなかったので、中位魔石に仕込んでおいた。
スケーリードラゴンは身体を横たえ痙攣している。もうレジストする余裕もない。窒息して死ぬだけだ。
——下手に丈夫だと死ぬとき苦労するな。
「ゴーレム……ハンド」
逆鱗があった場所から岩の指を差し込み、一気に引き裂く。
魔力を吸われて色あせた巨大ワームの魔石と、魔力を吸って色を濃くした暗褐色のスケーリードラゴンの魔石を回収した。
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【ハイファンタジー四半期45位!!】
どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。
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