Ⅵ-09 海棲魔獣を狙撃する
「なあ、変じゃないか?」
音拾いで下の声を聞いていると、前列の狩人から疑問が聞こえてきた。
「たしかに変だ。明らかに近づいてくるスピードが速い」
「慌てるな! 念のため一段あがって土魔法担当は防御壁を追加しろ」
ギルド長の冷静な指示が飛ぶけど、下の民兵に動揺が広がっていく。
「ああもうっ当たらない! 範囲弾をつかわせてよ!」
こっちはシャムスが魔鉱銃改め刻印銃で、有効射程の数百ジィあたりから一足早く攻撃に入っている。
といっても素人がいきなり銃を使いこなせるわけじゃない。射撃を始めているのは速射に慣れてもらうためだ。
「落ち着け。弾丸に刻印するように機械的にやるのがベストだ」
ほぼぶっつけ本番の状況ではやれることは限られている。
敵を遠間から殺すより攻撃間隔を短くして、中距離に迫ったとき多く倒せる方が良い。
「刻印とおなじ、刻印と同じ……」
ブツブツつぶやきながら撃つシャムスの動作が安定してきた。たまに血しぶきがあがる。
音声的にはやばめだけど、良い傾向だ。
そんな事を考えていたら、ひときわ大きな血しぶきが上がった。
「え? 今わたし撃ってないよ?」
怪訝そうにシャムスが振り返るけど、俺だってなにもしていない。
「あっちだ、砦から軍の誰かが氷槍を撃っている」
土と風は威力減衰が激しいし、火属性のキラーゼーレがまとめてやられた。
となればメジャーな水魔法の氷槍で攻撃しているんだろう。
真昼の空でもわかる紺色のドラフトラインが伸び、また一体キラーゼーレを屠っていく。
そのそばをなぞるように幾筋もの赤いドラフトラインが伸びた。
火魔法使いも攻撃をはじめたらしい。
よし、軍の攻撃に紛れてこっちも攻撃をつづけるか。
「いいぞ。もうすぐ中位魔獣が出てくる。的がデカいからそっちはあたるだろ」
メガシールの巨体がはねるのが見えた。
「メガシールを狙うぞ。スリンガー弾装填、中位火弾準備」
魔獣ごとの対策はさっき話してある。今回作った中位火弾は中位火魔法のファイアバーストに相当する弾だ。
「いくよ」
微かな射出音とコッキングレバーを引く音を聞きながらスリンガー弾で巨体の皮膚がボロボロになるのを確認した。
「命中!」
間髪無く装填する音と射出音が続く。
「着弾右二ジィ。予備弾」
外したが、それが普通だ。あせることはない。シャムスも落ち着いて中位火弾の弾帯から弾を取り、装填する。
「目標二体並んだ。火弾目標左」
傷がついてなければ火弾が効果的に通らない。一体ずつ確実にしとめる。
「命中!」
傾くメガシールに小型の魔獣達が群がっていく。奴らのどれかが沿岸まで魔石をもってきてくれればいいんだけど。
隣のメガシールはしばらく止まっていたけど、諦めたのかまたこちらに進み始めた。
すると、群れの左後方に比較的大きな小山が出てきた。
「ブルートルトガがでてきたな。でもアレは後回しで問題ない」
アレの甲殻は硬いので効率が悪い。水属性なのでいざとなれば至近距離で俺が倒す。
「よし、もう慣れただろう。いったん休憩だ」
後の戦いが楽になるだけで遠距離攻撃は必須じゃ無い。俺もシャムスも目立たない事が大事だ。後は港内での乱戦で支援に徹しよう。
下でも動き始めたみたいだ。
「魔獣どもがいつもみたいに固まりじゃない。最初はムダ弾を撃つな。前列二パーティ岸辺に! 上陸後足が鈍ったところを近接武器で倒していけ。魔法を使うときには指示をだす。土魔法担当! 少しはやいが上陸予定のスロープに防御柵を一列形成してくれ」
ギルド長の指示に従い受付嬢達が小型船が引き上げられるスロープにロックウォールを展開する。
壁を一枚板にせず、複数を斜行させて出口にを作るのは魔獣を密集させるためだろう。
程なくキラーゼーレの一群がたどりつき、戦端が開かれる。
キラーゼーレはアシカの魔獣で魔法による攻撃はしない代わりに身体強化が発達している。
海中での動きは異様に速いため範囲の狭い魔法では狙ってもとらえきれない。
「サクサクいくよー!」
恵まれた体格をした重量級の女戦士がハルバードを自在に振るう。
力は強くても、所詮魔法の使えないアシカであるために魔法すら使う必要がない。
一群は瞬く間に死体へとかわり、ハルバードに引っかけられて港の傍らに積み上げられていく。
俺は高見の見物をしているけど内心笑うことができない。
スタンピードをしている魔獣でも十体も仲間が殺されれば進行方向を変えるものだ。
なのにあいつらは全滅するまで上陸しようとした。
一見普通のスタンピードではあるけど、仲間が死んでいるのにも気づかないほどの執念が自分の命に向けられていると思うぞっとする。
続々と魔法の射程範囲にはいる海上の魔獣に対してかぶらないように前列右翼から順に攻撃が加えられる。
死体は種族ごとに浮かんだり沈んだりしている。
生き残り上陸できたものも満身創痍だ。たやすく近接特化の狩人達に討ち取られていく。
もちろん魔獣も獣魔法を使って攻撃している。
人間なら属性限定中位でなければ使えないレベルの水の攻撃魔法を放つ。
別の魔獣がアローカット相当の補助魔法でこちらの攻撃をそらし上陸しようとしてくる。
それでも後列の防御担当の人達は慣れた様子でタイミングをずらし、危なげなくレジストしている。
けれど、海上から不意に現れたしぶきが見えると、それまでの楽勝ムードが一変した。
先ほどまでのシャムスの狙撃を逃れたメガシールが港に入ってきたのだ。
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どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。
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