Ⅵ-05 罠師の狩り
「おう、お前か」
工房にいくとズークじいさんがなにやら手元を動かしていた。本業である魔導技士の作業をしているらしい。
「おととい頼んだのできてる?」
「ああ、アンカーなら出来とるよ」
じいさんが足下から持ち出した木箱のなかには無造作に槍の穂先を覆うさやと鎖が収まっている。
鞘と言うには鋭すぎる先端に注意して持っている火属性の槍にはめ、鎖の端をもち、魔力を流すと属性を変えるごとに四種類の光が鞘の表面に現れた。
「ふむ、大丈夫なようじゃな。それにしても全属性持ちとは便利じゃな」
くるくると色を変えるアンカーを見ながらじいさんがつぶやく。
「たしかに便利だよ。どのみち一度は深く刺さないとだめだけどね」
このアンカーは素早い敵の足をとめる罠師が使う魔導具だ。簡単にいうと、四属性攻撃をローテーションで行い、レジストで硬直した魔獣に他属性でダメージも与える。
槍で穂先を押し込んだ後は鎖で魔力を供給し続けるテーザー銃、あるいは鯨に打ち込む銛のようなものだ。
「ところでユーリよ」
じいさんが真面目な顔をしていう。
「そこの魔鉱銃はいつまで預かっていればいいんじゃ? 細工はとうに仕上がっているというのに」
「もう少し置いといてほしい」
金はこの間全部はらったけど。なんというか、きっかけがね。
「今日は嬢ちゃんのところに行ってやれよ。最近マリーのとこにいっとらんじゃろ」
それだけいうとじいさんは別の客の方へ行ってしまった。
〜〜〜
城壁についたのは日の入り前の二十時だった。
点呼から各所での待機を命じられ、順次巡回にまわる。
自分の番になった時、迷わず皇帝の長城へと向かった。城壁から見えない場所まで来たら東側の地上を見下ろす。
「おーいるいる」
この城壁の警備を請け負った初日に長城とと垂直になるように深い空堀を掘っておいた。
堀には色々な魔獣がいる。ボア系低位魔獣、低位や中位のスカベンジャー類、さらにはスチルベアなどの中位魔獣。
どれも俺の中の無尽の魔石を狙い遠くからはるばるやってきた魔獣達だ。
罠師が魔獣溜まりと呼ぶ空堀は、魔獣の通り道、逃げ方などを技能で割り出して作ってある。
俺が近くにいなくても、最初の遠征の時と同じように、魔獣は穴から出られなくなり、食い合うようになる。
「後ろががら空きだぜっと」
一方的に殺して回っている魔獣の前足をメタルアローで打ち抜く。
それまで逃げ回っていた小型の魔獣の群れが一度に襲いかかる。
魔石を食われ放置された死体にはスカベンジャーが群がる。
スカベンジャーは弱いけど肉からも魔力をえることが出来て、魔石の生体濃縮器として有能だ。
そして蠱毒のように中位魔獣の割合が多くなっていく。
罠師の見極めはここにあるといっていい。
位階が低くても儲かると思われている罠師だけど、強くなった魔獣はいずれ罠を食い破り付近に被害をもたらす。
あわてて殺そうとして返り討ちにあうケースも多い。
欲をかきすぎないのが罠師の生き残る条件だ。
「コークストーム、落とし戸、ゴーレムハンド、顎門」
俺自身はまだ中位土魔法しかつかえないけど、土魔法をレジストする中位魔獣も地形を利用したり、下位魔法をベースにした独自魔法や槍でハメ殺してきた。
でもさすがに限界だ。中位が多くなると、餌場と認識した高位魔獣が出てくる。
中位でも相性の問題で俺の手に負えない魔獣もいる。
なんとか全部の中位魔獣を狩って心臓と腹の中の魔石を相当量回収できた。
そして魔獣の死体も全部引き上げた。
後は高位魔獣がすでにこちらに向かっていないことを願おう。
長城から戻り、賄賂という名の交代の手続きを済ませて門をくぐると、目の前に広がるテーベの夜景に目が吸い寄せられた。
もう夜明けが近い。
バザールの天井からは光が漏れ出ている。朝市に備えてもう働き始めているんだろう。
港の際にあるホテル・ガリアーノや屋台船の周りには飲み明かした男達がふらふらと歩き家路につこうとしている。
人の背丈ほどのやわらかな光を灯す魔導灯は、港から岬まで伸びる道をてらしている。
岬にそびえる砦は平和を象徴するかのように足下をライトアップさせていて、もうすぐ朝日が昇ることを信じている。
一方、目につくのは砦から伸びて、今俺の足下にある城壁だ。
海棲魔獣の襲撃や軍船に対応する要塞に比べ、陸を守る城壁は貧相だ。
陸棲の高位魔獣の攻撃には耐えられないだろう。
潮時だな。
先送りしてきた問題を明日、解決することにしよう。
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どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。
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