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Ⅵ-04 夢、その後夜警に入る


 ―― 夢。

 辺境を守る要塞の監視塔から遠くに灰色の塔の群れが立つ砂漠を眺めている。

 コッ、コッ、と、木製のらせん階段を上る靴の音がしている。音がやんだので振り返ると夕焼けに照らされた痩身中背の女性が立っていた。


「ここにいらっしゃいましたか」


 レイ付きの侍女のオルガさんは無口だけどいつも親身に接してくれる。侍女さん達は性格の違いはあっても皆やさしい。

 一回顔を合わせただけの人でも出会ったときと変わらない。

 彼らが元々いいひとであっても、あんなに優しいのはきっと主人がレイだからこそなのだろう。

 そんなオルガさんに今日の結果を伝えなければいけない。隠し立てできないし、自分で言わないのは卑怯だ。


「今日、再試の結果がでました。やっぱり最下位魔法しか使えませんでした」


「そうですか……、それは、残念でしたね」


 オルガさんもそれきり目線を下におろし、何も言わなかった。

 今回の再試で下位魔法がつかえなければ退学になる事をオルガさんは知っているし、屋敷の人間も薄々感じとっているだろう。

 優しさがつらい、という常套句があったけれど、あれが常套句になった理由がわかる。

 確かに、全属性持ちと期待されてから失望され、退学を言い渡されたのはつらい。


 でも他人が相手に優しくするには、される人のつらさに共感していないとできない。

 ということは僕はオルガさんにつらさを理解させてしまっているという事になる。

 そっちの方がたまらなく申し訳なくてつらい。


「レイ様はお顔を見せて欲しい、とおっしゃっておりました。おこしいただけますか?」


 オルガさんの主人はレイだ。彼女にも同じ思いをさせてしまうだろう。

 さっき自分で伝えなければ卑怯だと考えた気持ちはかわらない。でも逃げ出したい。これ以上周りにつらさを振りまきたくない。

 もう、卑怯なクズでいい、それでいいから……


 ————


 俺は宿の共用チェアから身体を起こしてシェスタを終える。

 顔を洗って、身繕いをしていつもの飯どころ、ガリアーノへ足を運んだ。

 港に近い、海に面したホテル・ガリアーノは五階建ての結構大きい宿屋兼酒場だ。

 船員や海を狩り場とする狩人も利用するけど、出す料理が旨いため身分職業を問わず客は来る。


 ホテルといっているけど、こういう酒場を併設している宿の部屋は酔っ払いがかつぎこまれ、翌朝二日酔いで苦しむための部屋だ。

 けっして静かに快眠を得るための部屋ではない。俺は快眠のため、別に宿泊専門の宿を取っている。

 酒場の良い席は海に向かって開け放たれた窓と吹き抜けの間にあって、こもりがちな酒場の臭いがわからないようになっている。

 けれど俺は良い席を通り過ぎ、もう少し猥雑な、テーブルがひしめくバーカウンター周りに座った。


「牡蠣の燻製、エシャロットの酢漬け刻み、香草ボウル、フス二枚……と、今日の酒はなに?」


 近づいてきたやる気の無いウェイトレスに訊く。


「黒ビール、レモンキュロス、ミストヴィッテ。あぃビール黒いっちょうー」


 俺の代わりに自分で注文してくれたよこの娘。優秀ー。


「まって、決めつけないで? たまには俺だっておしゃれなレモンキュロスで女の子を酔わせてみたり、やたらつよいミストヴィッテとかで過去の思い出に浸りたくなるかもしれないじゃない?」


「今日はたくましい船乗りにお持ち帰りされたい気分?」


「ねぇよ。なんで酔わされる前提なんだよ」


 やめてくれないかな。まわりのテーブルにいる酒飲み達が気まずそうに離れていくし、二人くらい逆に近寄ってくるし。

 こっちに偏見はなくても選ぶ権利はあるんだよ?


「今日は思い出に浸りたりながらここのすっぱい部屋で寝たい?」


「そんな気分じゃないし、今日もこのあと南城壁で夜警だよ。あと自分の職場をすっぱいとかいうな」


 どっちかと言えばろくでもない思い出ばかりだし、そしてそんなに強くないのに蒸留酒なんて飲んで夜警したら寝落ちする自信があるよ。


「じゃあ注文は?」


「黒ビール」


「貴重なウェイトレスの時間を浪費した、あなたが支払う金額は?」


 だまって小銀貨3枚をトレイの上にのせた。


「はい毎度ー」


 ウェイトレスがトレイを跳ね上げると小銀貨が彼女のデコルテに当たり、そのまま大きく開いた胸の谷間に吸い込まれていった。まったくもってけしからん。


 ウェイトレスが勝ち誇った流し目を送り、ポニーテールにした青みがかった銀髪と控えめなパニエがはいったミニスカートを慣性に任せて振りながら去っていった。

 がそれは別にどうでもいい。けしからんものを見るときは正面から堂々と。これが大人の男というものだ……

 華奢な背中が描くカーブから急激に盛り上がる腰がけしからん。


 頼んだ料理を全部ピタパンであるフスに詰めて食べながら、風系スキルの音拾いで周りの声を盗み訊く。

——最近陸の魔獣が増えてないか? 昼の歩哨で東の城壁から南をみてるとどこかにはいるんだよ。

——城壁の下をうろうろするだけだろ? 魔法の的にちょうどいいじゃないか。

——それはそうなんだが、シエスタでだらだらしながらできると思ってたのに話がちがう——


 どうやら同業者がいるようだ。

 この街に限らず、さして重要でも無い場所の警備は狩人ギルドなどに依頼し、日銭を稼ぎたい旅人が受注している。

 彼らは口ぶりからして正規の軍人みたいだけど。


——夜の方は大分楽になったけどな。あの黒髪の狩人が来てから。

 お、なんか見られているみたいだ。背中に視線を感じる。

——だな。でもあいつなんか気味わるくないか? 待機から巡回の時間になったらきまって遺跡の方にいくんだぜ? 

——しったことかよ。朝になったら毎回ノルマの魔石持ち帰ってくるんだから文句ねぇよ。


——。——、——。

 ノルマってのは巡回を一人でさせてもらうことへの賄賂と口止め料のことだ。

 まだなんか言っているけど、早めに退散するか。四人のうち二人には後で会うだろうけど。


お読みいただきありがとうございます!


今度の夢は主人公の過去です。


少しでも気になった方、是非ブクマの上で続きをご覧ください。

★★★★★評価ももちろん大歓迎します⁉


↓↓↓こちらも是非どうぞ!

ハイファンタジー

どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。

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