Ⅵ-02 女の園で囲まれる
マリーが部屋を借りている集合住宅は城壁から港まで続く坂の中腹にある。
少し手前に眺めの良い広場があったので一息つくことにした。
「街は相変わらず活気があっていいなぁ」
孤独な山から人の賑わいにもどる度に、同じような事をいっている気がする。
やっぱり街はいい。
北に広がるセントルメール海から吹く海風は優しくカラリとしていて、青空の巻雲が空に一層の奥行きを生み出している。
「ユーリ? 帰ってきたのならただいまくらい言いに来て!」
下をみると洗濯物を抱えたシャムスがまなじりを上げてこっちをみていた。
身体にまとっているのはワンピースとバザールのばあちゃん達がつけていたような実用重視のエプロンと同じデザインだ。
多分マリーのエプロンだな。
「たった今もどった所だよ、食事にしようか!」
「先に入ってて、マリーがちょうどごはん作ってるからー」
身長の割に長い足がひるがえる白い洗濯物に鮮やかな影をつくっている。
出会った頃とは見違えるほど活発に動き回っている。
おしゃべりだし、眠らないと言われている鳥のカフィアみたいだな。
ベージュ色の石の階段を下って、途中を左に曲がった所に入口がある。
黒いアリアベールをかぶったおばあさんに門を開けてもらう。
ここも女の園で、住んでいるのは独身女性ばかりだ。
ロの字型の建物の中心は花が咲く緑の島になっている。
皆で育てているけど、さっきのおばあさんが特に花好きらしい。
マリーが住むのは最上階なのでそこまで階段であがらなくてはならない。
今日帰る事は伝えてあるのでマリーは休みを取ったみたいだ。
やっぱすげえな受付嬢。
「あれ? あの人誰の恋人?」
「マリーちゃんよぉ。あの子にもとうとう春が……」
「でも相当年上だし女の子連れてたわよ?」
「子連れ? まぁアリといえばアリか……」
バルコニーを兼ねた廊下では民族年齢をとわず、沢山の女性が過ごしていたけど、今彼女らの視線が向けられているのは俺だ。
がっつり遠慮の無い視線でなめ回されている。
「どうも、シャムスがお世話になっております。これ森で採ったんで皆さんで食べてください」
こういう時キョドると一気に彼女らの警戒度は上がる。
テーブルに座ってこちらを見ていたおばちゃん達にキノコや薬草、木の実を取り出して見せた。
「おや、シラキヌ茸かい、なつかしいねぇ」
黒いアリアベールをかぶったおばあさんがその中の一つを手に取って懐かしそうにしわに隠れた目を細めた。
「おばあさん、それなに?」
青みがかった銀髪の女の子が目をキラキラさせて寄ってくる。
「南の森で採れる茸だよ。あたしが娘のころ、森で長城をつくっていたお兄さんがよくお土産にくれたねぇ」
他の女性達も興味深そうに集まってきた。やはり生の森の幸は珍しいのだろう。
「おじさん、これどうやって食べるの?」
女の子が茸をわしづかみして聞いてくる。
「そうだね、この茸は油と合うから……」
「油も売って揚げましょうか? ってね。なかなか来ないと思ったら……」
顔を上げるとマリーが立っていた。後ろにシャムスもいる。そしておばあさん達は好奇心で目をキラキラさせている。
でも期待しているようなことは無いよ。俺はシャムスのついでだからな!
「ユーリ遅い! フリッター冷めちゃったんだから!」
不満顔のシャムスが俺の後ろにまわり、部屋に向けて歩かせようと押してくる。
「ごめん、ここの人たちにお土産渡してた。マリー、もう戻ろ……」
後ろを振り返るとマリーがおばちゃん達に捕まってた。
「へー、保証人? シャムスちゃんがダークエルフだから?」
「そうなんです。だからユーリさんはご飯を食べに来ただけです。タダの飯ぐらいですよ?」
「シャムスちゃんの様子で悪人じゃないのはわかるけど、二人旅なんて大変ねぇ」
「相変わらず皆さんスルーですね。タダの、飯ぐらいでタダ飯食らいだし、さっきの油のくだりもトリプルミーニングで……」
とうとう自分のスベりをフォローしだした。皆もいつものことなのかうんうんと頷きながらお土産を仕分けている。
「マリー、アイスマルドがぬるくなるよ?」
いい加減いたたまれなくなったシャムスがマリーを引っ張ってきて俺ごと押していった。
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でっちあげ料理回ですが、ちらし寿司の生春巻き包みとか、世界のどこかにはあるはず!
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どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。
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