Ⅴ-03 オークの巣
着かず離れず追いかけていくと、ゴブリン達は森ではなく、城壁上の道をまっすぐ逃げていく。
カーブを曲がると、一辺が四百ジィ規模の台地の上に集落が形成されていた。
あれは例の都市計画狂いの皇帝、ラーフ帝が長城の延長線上、城壁と城壁が交差する地点に設計した新しい都市の形、トリビウム・ディクタティカ。『皇帝の十字街』の土台で間違いないはずだ。
十字街は内陸を開拓する拠点として長城と同じ高さまで高位の土魔法で隆起させた人工の台地だ。
でも内地と同じく皇帝の失脚と、さらにポエニキアという重点開発地域が生まれたため、ティーラの内陸開拓は止まってしまった。
そして長く訪れる人間がいなかった十字街には物見櫓までつくられるほど立派なゴブリンの集落が形成されたというわけだ。
もう集落には敵の襲来が告げられているようで、正面の目抜き通りをゴブリンの老若男女が逃げ惑う様が見える。
「これだけの規模ならオークがいるかもな」
この世界ではゴブリンとオークは同種だ。
強く生殖能力をもったオスがオークと呼ばれる個体となり、弱い個体は生殖能力を持たない普通のゴブリンとなる。丸い個体はメスゴブリンだ。
「とりあえずオークの寝所を探すか」
こちらをめがけて走ってくる一団を尻目に城壁に土遁を使い土の中にもぐった。
見つけたオークの寝所は中央部地下にあった。
物陰からのぞいてみると、人間なら骨格的につけられない圧倒的な筋肉をもったオークがうろうろしている。
「(こいつら強いくせに働かないんだよなぁ)」
手下のゴブリンに食料と魔石を集めに行かせて自分たちは大抵巣にこもっている。
ゴブリンなど魔物の巣、特に繁殖地には彼らがなぜ集めたのかわからない魔石が沢山ある。
さっき逃げるゴブリンを殺さなかったのはこのためだ。
後をつけて巣を探し出し、魔石をいただく。
こういう魔石狩りはハニーハントと呼ばれ、熟練した狩人はハニーハンターという称号を持つ。
ゴブリン・オークのため込んだ魔石が多く見つかるのは大体巣の奥の寝所らしいからここに来たわけだけど、ハニーハントデビューの俺にはどこにあるのかがわからない。
仕方が無いので一匹ずつ倒していこう。
アサシンのスキル”スニーキング”を使って手近なオークの背後に回りこむ。
(マッドスライム)
バッグから取り出した土の塊が手の平の上で溶け、うねうねと動くスライムになった。
これは魔獣のスライムとは違う、いわばゴーレムのスライム版だ。
「ッ……!」
手にスライムを持ったままオークの口を塞ぐ。
スライムは一瞬で気管まで侵入したはずだ。そのように作ってある。
オークは血の臭いに敏感だ。しかもこんな密室で刀槍を使えばすぐにばれる。
ひと言も発する事無くすぐに痙攣しはじめたオークを残し、次のオークを探しに向かった。
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《用語解説》
【皇帝の長城】
高さ約六〜十ジィの長城。要するに万里の長城です。
魔獣魔物の驚異もほとんどない高速流通網は、実現すれば経済をさぞ発展させたでしょう。
【皇帝の十字街】
四百ジィ四方の岩の台地。皇帝はここに街を作る予定でした。
【ゴブリン・オーク】
ようやく出てきたファンタジーの定番魔物。作中でしつこいくらい区別してますように、魔獣とは系統が違います。
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