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Ⅰ-03 今の自分と別れを告げる


「好きに生きていいとあの天使はいった。なら断る権利ぐれぇあんだろ? ケツん中までのぞかれるなんてごめんだな」


 ——ヒュ

 節くれだち、黒ずんだ爪をしたその日暮らしの手から石が放たれた。


「ツブテか。はやいな」


 大箱の上のペーパーウェイトがなくなっているのでそれをなげたのだろう。小鳥型端末は実態をもたない。石はロガーと窓枠をすり抜けてみえなくなった。


「チッ、仮にも天使の犬か」


 そういうなりソウタはベッドに戻り布を被り直した。


「俺ぁ寝るぜ。お前の事は無視すっからよ。好きなだけいろや」


 追い出すのは無駄と感じたのか。ソウタは早々に諦め寝ようとしている。


「契約の対価も聞かないとは欲のないものだな。予告しよう。近いうち君の脳を含む神経系は、簡単にいえば君の精神は異常を来して廃人となる。全てを諦め、このまま朽ち果てるか?」


 椅子の背もたれを止まり木にして彼が食いつく言葉を発した。

 荒んだ口調とは裏腹に、彼は肉体労働を終えてなお生き残るすべを磨き、清潔を心がけ、他を切り詰めてでも体力が回復するできるだけ良い部屋を借りている。死の誘惑から逃れようとあがき続けている。

 そしてこれまでの生活で、狡猾さも身につけている。転移前の潔癖さのままならば、あの少女と同じ道をたどっていたはずだ。


「……」


 ふかいため息とともにソウタはベッドの上であぐらをかいた。


「…んだよ。もったいぶってんじゃねぇよ。言ったからにはそれなりのもんなんだろうな?」


 ふてくされもせず、媚もせず、挑発も意に介さない。持ち込まれた品の質を見極める商人のようにソウタは話の先を促す。


「ああ、少なくとも軍工兵科とは名ばかりの城壁街道補修工の生活からは抜けられるだろう。対価は、神が与えた恩寵おんちょうのアップデートだ」


「……具体的には」


 ソウタはあぐらをかきつつもわずかに居住まいをただした。

 種類も強さも様々だがこの世界に住む人種には恩寵が与えられている。もちろんソウタ達にも転移する際与えられている。


「先ほども伝えたが、君の場合精神が肉体レベルで損傷している。具体的には回復魔法でも戻らない脳の変質が起こっている。今後の生存に不利であるためこれをまず回復させる。その上で契約にもとづき、現在の恩寵『全属性適性』の最下位限定を解除しよう。最も練度の高い属性の限定を全解除し、他の属性も一部解除する」


 この世界においてほとんどの者は土水火風いずれかの魔法に適性をもっているが、同じ属性を持つ者でも等しい力を得るわけではない。《《限定》》という障害がどの属性にも付与されるからだ。

 例えば双子で同じ火属性適性をもち、同じ経験をしても、片方が中位限定、片方が上位限定であったとする。

 中位限定の者は中位魔法を覚えた所で成長が頭打ちとなり、上位魔法を覚えられない。そして上位限定の者も上位魔法で頭打ちとなりそれ以上は成長しない。


 正式な転移者は容姿、体力、知力に差はあったが、転移当時、この世界の一般人を超える恩寵を付与されている。

 一方で《《数合わせ》》の者達は、ソウタのように最下位で付与が中止されるというエラーもざらにあった。


「それで全部か」


「そうだ。私は伝令であり、いかなる裁量もない。交渉はできない」


 全てを伝えた後、ソウタは黙考していた。彼の中では契約を結ぶことが確定事項なのだろう。それでもなお黙している。


「30%を切るぐれぇの転移者が生き残ったっつうけど、さらに生存者が減ったら恩寵はぜってぇ増えんのか?」


 裁量はなくとも情報は引き出せると踏んだのだろう。


「……それは決まってはいない」


 これ以上伝えることは「***」との対立を深めることとなる。我々ができるのは今伝えた通りの恩寵を与えることがせいぜいだ。

 彼が我々の側につくのか、それとも同胞を殺して回る「***」の側につくのか、中立を保つのかは彼自身に任せるしかない。


「……そうか。わかった。契約はするわ」


 ソウタは得られる情報は得たとばかりに不敵に笑った。


「よろしい。ここにある小鳥型端末は正式な端末となり、しばらくすれば姿を消すが、常に近くにあり情報を収集し続ける。アップデートされた恩寵については自身で確かめればいい」


 端末の不可視処理が終わると、残されたソウタは目を閉じてベッドに倒れ込んだ。


「じゃあな、俺」


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