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Ⅳ-03 美人受付嬢


「さっきの酒場はハンターギルドの入口だったんだね」


 今俺達はホールの入口で、豪華な装飾に目を奪われている。

 シャムスはウェイトレスに抱きすくめられて自由も奪われている。

 最初は抵抗していたシャムスだったが、すぐにされるがままになった。諦めはやくない?


 ギルドは国の機関であるため、システムは各支部で統一されている。

 待合室を兼ねたバーとホール。ホールの壁には病院の診察室に似た、魔石鑑定用の小部屋がならぶ。

 狩人はバーの入口で番号札を受け取り酒や飲み物を飲んで待ち、順番が来ればウェイトレスが呼びに来る。


 さっきのテラスがすでにギルドの施設だった。

 俺もテーベの異文化ぶりに目を奪われていて、ウェイトレスが涼風を求めて居座っていた所で漸く《ようやく》違和感に気づいたくらいだ。

 ホールの景色は細かい紋様を織った薄い絨毯と天井にかかる白い布、俺も聞きかじっていただけで本物を見るのは初めてだ。


「布地の透かし模様もきれいだね」


 天井の光が白い布に隠されていた模様を浮かび上がらせている。

 シャムスはほかにもタイル、柱、タペストリと、建物の内装をしきりに見回している。


「でしょ? 私も気に入ってるのー。シャムスちゃんが着てるのはティベリウスの服でしょ? 私行ったことがないから、ここにいる間だけでも向こうの話をきかせてー?」


 くるくる回る灰色の頭がくすぐったいだろうに、それさえ嬉しいのかほおずりせんばかりにシャムスの頭をなでながらウェイトレスがいっている。

 あったばかりの人間をなぜここまで愛玩できるのか理解できない。


「ティベリウスにもギルドがあったけど、どれもここみたいに豪華じゃなかった」


「港町や大都市のギルドは魔石の買取額が高いんだ。輸送の中継地だけじゃなくて一大消費地でもあるからな。だから予算が沢山あって、人気取りのために建物も受付嬢もレベルが高いんだ」


 目の前のウェイトレスが肩をふるわせている。薄着のくせに風魔法に当たりすぎたんじゃないか?

 今は真昼で酒場もホールもガラガラだけど、夕方になればそれなりに人が来るのだろう。

 ホールに面している、魔石を鑑定する部屋もほとんどが開け放たれている。


 その一つにウェイトレスが入ったので続いて入る。すると店員が書棚にある用紙やらステカ発行の星遺物やらを取り出している所だった。


「ん?」

「ん?」

「……ん?」


小首をかしげる俺と店員を不審におもったのか、シャムスまで続き、三人が首をひねる変な構図が出来上がった。


「なにしてんの?」

「なにってギルド加盟手続きの準備だけど?」

「なんで君がやってんの?」

「受付嬢だからだけど?」

「なんでウェイトレスが受付嬢やってるの?」

「昼間ってヒマなのよねー」


うーん。昼にギルドに入ったことが無かったから受付嬢がウェイトレスをやってるなんて知らなかった。

そんなやりとりをしているうちにウェイトレスが腰に巻いたエプロンをとり、机の隣に立った。


「ではあなたたちの加盟手続きを担当させていただきます、高レベルな美人受付嬢のマリーです!」


 笑いを必死でかみ殺そうとしながら赤みがかった金髪を肩から前に垂らしたウェイトレスがお辞儀をした。


「ねぇねぇ、どんな気持ち? 自分がいつの間にか受付嬢のマリーちゃんに『君って美人だよね』って言ってたってどういう気持ち?」


 マリーが目をキラキラさせながら机の端に座って指で机をタララッタララッと鳴らして煽ってくる《あおってくる》。


 なにこの受付嬢はげしくウザい。

 今まであったこいつ並の見た目の女性ならもうちょっとこう、あれだぞ?

 ドンと構えているというか、美人と言われるのが当たり前という態度の人たちばかりだったぞ?

 私美人だよね、と他人に念押ししてくるこいつはどれだけ必死なんだ?


「悪かったよ。こういうのは相手の目をみて言わなきゃな。俺はユーリ。出会って突然申し訳ないけど言わせて欲しいんだ。『君はまるでソレイユのなかのひまわりのように明るく飾らない美しさを持った美人だね』」


 しっかりと目を合わせていってやる。

 普段なら仮にも美人におっさんが至近距離で笑顔を向けるなんてキモいだろうが、今回は許されるだろう。

 いや、自分が許した。さあ、普通キモがるところだが、承認欲求の塊のこいつはどうする?


「ふぅ、ん。たいしたことない口説き文句だけど、言われて悪い気はしないわね?」


 チョロかった。マリーの右手はしきりに肩から垂らした髪の先をいじっている。

 どうやら高レベル美人受付嬢さんは高値の花すぎて正面突破になれていらっしゃらないようだ。畑でワサワサ生えるソレイユとひまわりはほとんど違いがない。

 今更皮肉だなんてかわいそうで言えないからそういう事にしとこう。


「ユーリ、それって凡百のウェイトレスと見間違えるくらい庶民的な明るさをもった町娘だねって意味じゃないの?」

 挙動不審なマリーをみたシャムスが不思議そうな顔をして聞いてきた。

 シャムス、素直なのはいいけれど、時に真実は人を傷付けるという事を覚えて欲しい。


「だ、誰が庶民的よ! こ、これでもそれなりの生まれなんだからね!」


 からかわれたのに気付いたマリーが顔をまっ赤にしてほめ直しを要求してきた。

 庶民的じゃないって、食べ物のお代の単位を変えて要求するネタとか庶民のコテコテのテッパンじゃないか。

 今さら何を言っているんだ?

 



お読みいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ルビを見やすくふると良いのではないかと愚考いたします [一言] 毎日楽しく読ませていただいております しかも二話投稿であることに感謝
[一言] ユーリの皮肉については意味が良く分からなかったので、シャムスの説明があって助かります。 シャムスは(受付嬢より)賢くて気遣いが出来る少女ですね 皮肉は相手に伝わった方が読んでいてスッキリしま…
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