Ⅳ-01 テーベ上陸
青空には雲一つなく、南国の強い日差しは遮られずにティーラ最古の港町テーベに降り注いでいる。
「テーベだ、テーベだよ……」
「良かった、また家族にあえる」
皆一様に安堵の声を上げ、泣く人までいる。俺も同じ気持ちだ。家族はいないけどな。
「しかし、本当にいいのか?」
船長は下船の際に、船の中で何度も言い合ったことを確認した。
「いいんだよ。俺達は眼晶二つに魔石までもらったんだ」
眼晶二つは討伐証明になるし、大きな空色の魔石はシャムスの刻印魔法に使える。
「しかしなぁ、シーサーペントの角と牙といったらどれだけ……」
「それも聞いたよ。討伐不能といわれていた海棲魔獣で、素材は浜に打ち上げられた死体からしか得られないから貴重なんだろ?」
氷から引き上げたシーサーペントの死体は氷上で解体してから乗客達に配っていた。
「それになぁ、あっちの嬢ちゃんには貴重な極凍岩の大物を使わせちまった」
シャムスの魔法は秘密なので、結局複合魔法ではなく、特大の魔鉱を使ったということにしている。太古の生物が放った魔法の残滓といわれる魔力の結晶は、使用者の能力に関係なく強大な魔法を発生させる。
このやりとりも何度目か。きりがない。これから忙しいからこちらが折れよう。
「わかった。じゃあ半分な。顔の右半分の素材をもらうよ」
「そうしてくれるとありがたい。こっちも船主の懐にはいるより命の恩人の懐に入るほうが気持ちが良い」
航海中に倒した魔獣の所有権はまず仕留めたものがもつ。
だけど、船員に限っては仕留めようが他人からもらおうが、航海中に得た利益はすべて船主のものになるんだったか。
素材が入った袋を受け取って背負い櫃にしまう。
櫃の背中側に細工をして、櫃にいれた荷物を自由に腰のマジックバッグに落とし込めるようにした。船中でヒマだったので手慰みにやった小細工だ。
「じゃ、連れもまってるから行くよ。世話になった」
「おう。また船に乗るならこいつを覚えておいてくれ」
船長は青い十字が描かれた後ろの帆船を誇らしげに親指でさし、ニカリと笑った。
船長と別れ、上陸手続きをするゲート前の広場にはシャムスが不満げに立っていた。
「遅い! 暑い!」
シャムスは開口一番文句を言ってきた。確かにな、その北国仕様のマントじゃ暑いよな。
けど中の服がほぼ黒いからマントを脱ぐに脱げない状況なんだろう。
「悪い。そして俺も同じ気持ちだ。さっさと手続きをしてどこかで一息つこう」
「賛成ー」
ゲートはナフタに入るときと同じくらい緩かった。シャムスについても何も言われない。
保証タグは都市内の主要施設で作れるのでそっちで作れということだろう。外国船も入るのに緩すぎないか?
ゲートを抜けると古い港町らしく潮風に吹かれて良い具合に寂びた日干しレンガとタイルの街並みが広がる。
元々帝国の領土ではなく、今はなきケート首長国の都市だった歴史が長いため、帝国の属州となったいまでも異国情緒にあふれている。
少し坂をのぼると、まるで寺院のように大きい、細かいタイルで装飾がされた建物が現れる。
大きなドームの根元にあって、入口にあるテラスが良い具合に影になっていた。
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どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。
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