Ⅲ-08 シーサーペント(1)
「ねぇ、休まなくていいの?」
シャムスが心配そうな声をかけるがそういうわけにもいかない。何しろ俺の魔力は無尽蔵なんだから。
「攻撃以外で貢献するさ」
船尾楼ではまだ魔法を舷側から海上にむけて打ち続けていた。中央には大人が数名と子供達が固まっている。シャムスくらいの子供も2人いた。皆一様に上からの風を受けている。
「悪い、俺達は下位魔法しか使えないができることはあるか!」
「風属性持ちなら真ん中で帆にゲイルを当て続けてくれ、ブリーズでも良い! すこしでも船足を速くしたい!」
忙しく立ち回る近くの水夫に声をかけてから子供達の集団に加わった。
「俺もブリーズを使いたい。皆風の中心はどこにしている?」
「帆の真後ろ二ジィだよ」
「わかった」
近くで手をかざしている少年に尋ね、俺も同じようにする。
ゲイルもブリーズも気圧の高い球を空中に作るイメージだ。中心がずれれば相殺してしまいかねない。
やり始めてもすぐに船足が変わるわけじゃないけど上から吹く風が強くなったため、それなりには貢献できるだろう。
「おっさん疲れないのか? 使ってるのゲイルだろ?」
しばらくして大人達が攻撃魔法を打つ間隔がまばらになってきたところでさっきの少年が声をかけてきた。ドラフトラインが目立たないようにつかってたのにめざといな。
「途中参加だしな。それに魔力量は多めでね」
周りの子供達は息を切らせている子が多い。MPが少なくなり、意識がもうろうとしている子もいる。
「大丈夫か?」
船長がこちらの様子を見に来た。さすがに疲労の色を隠せていない。
「子供達はしばらく休ませないと回復しない。俺もそろそろ息が上がりそうだ」
ごまかさなければいけないのでそう答えただけで、実際はまだまだいける。船長は内心はともかくうなづいて船縁の大人達を見回した。かれらも多くは肩で息をして、縁に手をついている。
「そうか。でももう少し続けられるか? 群れの包囲からは出られたようだが、しつこいやつがいてな」
そういえばいつの間にか魔法を撃つ音がやんでいる。
今まで襲ってきた魔物はほとんどが待ち伏せて追いかけてきた奴らだ。この船足に真後ろから追い続けられる海棲魔獣はそうとうタフだな。
「なんて魔獣だ?」
船長が俺たちだけに聞こえる声でつぶやいた。
「……シーサーペントだ」
タフどころの話じゃ無かった。海でシーサーペントに襲われた時の生還率は低い。
つまり、それなりに覚悟しとけということだ。
あらためて船縁の大人達に目を向ける。さっき手をついていたのはへばっていたからじゃなく絶望していたからだった。
「まじか……」
俺も小声で返す。大人達に引き離す手段があるならとっくにやっているだろう。
異世界のチート持ちでもいない限り打開の手段はない。そしてそのチート持ちである俺は土属性特化でいまここでは役立たずだ。
「なに、まずいの?」
それまで黙って後ろにいたシャムスが聞いてきた。他の子供達だって表情を見ているのだからまずい状況というくらいは察している。
「デカい蛇が追いかけて来ている」
小声ではあるがシャムスには隠さずに伝える。
さっきの戦闘での位置取りから、彼女には驚いたりパニックに陥ったりしないくらいの分別はあるだろう。
でもシャムスの反応はさらに意外なもので、しばらく人差し指の背を唇に当てて考えていて、顔を上げていった。
「ちょっと見に行ってもいい?」
ちょっと空気よんでもらっていい?
「シャムスが行ったら子供達がパニックをおこす。収拾がつかなくなるからやめてくれ」
「私の奥の手を出そうと思う」
結構きつめに制止したのに全く意に介さずにシャムスが提案してきた。そういえばエルフ独自の魔法、とかいってたな。
「さっきの話じゃ中位魔法程度じゃなかったか? それじゃシーサーペントは避けもしないぞ」
「それは中位魔法使いがへばってるのみればわかるよ。それに中位魔法が使える、と答えてもそれ以上が使えないとは言ってないし」
なるほど。そういうなら、ノーリスクで出来るなら何だってやるべきだ。
それにだめでも最悪、シーサーペントが欲しいものを船から落とせばいいだけだ。
「……わかった。船長、これから奥の手を使うからこの子と船尾楼に行く。誰にも見られたくないから、大人達も含めて全員船室に入ってもらってくれ」
船長は広い胸板を思い切り膨らませ、大きくため息をついた。
「おう。やるだけやってくれ。俺は扉の後ろにいる」
シーサーペントへの普通の対策法は逃亡一択だから、実質万策尽きている。
専門家だからこその諦めの良さで船長が頷いた。
「全員聞け! これから帆に向けてゲイルどころじゃない大風を吹かせる、あぶねぇから子供らを連れて船室に入れ!」
潮風で枯れた大声に従い、大人達が次々と降りてくる。親と思われる大人達は子供を連れて船室へと降りていく。
「おっさん! その子は船室に入るんだろ?」
さっきの少年がシャムスを心配そうにみながら聞いてくる。
「私は残るよ。これからつかうのは複合魔法だから」
シャムスはきびすを返して船尾楼へと向かっていく。
複合魔法は複数の人が同時に魔法を使い編み上げる特殊な魔法だ。
船長とシャムスの作り話は言い訳としては妥当だろう。
最後に降りていった船長が重い扉を閉めるのを確認し、俺も船尾楼への階段を上った。
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