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Ⅲ-03 ワケありエルフの少女


「荷物が来たみたいだな」


 音もなく扉が開かれ、入ってきたシーフに続いてきたのは十代前半くらいの子供だった。


「なるほど、ダークエルフか……」


 確かに、ハンターギルドでは護衛依頼が受理されない対象だ。

 エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人、その他人間と意思疎通が可能なマイノリティは人間から亜人と総称され、国家の福祉を始め、多くのサービスを受けられない。ハンターギルドへの依頼もその一つだ。


 それに、そもそも彼らが都市に滞在するためには保証人制度という高いハードルがある。

 滞在のためには亜人は人間と保証契約を結ばなくてはならないとする制度は、悪用すれば人間が契約破棄をちらつかせて亜人を思うままにすることも出来る。亜人の幸せは保証人の心次第という言葉まである。


 奴隷じみた扱いを国家ぐるみでしていて亜人に乗っ取られたという国がアーリアの方にあるらしいけど、少なくとも帝国ではそこまでひどい扱いはない。帰る集落があって、技能があるから人間の社会に呼ばれる亜人の生活は、雇われとはいっても行き場のない人間の下層民よりよほど暮らし向きはいい。


 翡翠の瞳にショートボブ程度の灰色の髪、褐色の肌にはティベリウス帝国産の白色のマントが映える。 手に抱えているのは本か? 亜人にひろまっている宗教の経典だろうか。


「おい」


 観察していた俺をトマスを部屋の隅へと引っ張っていく。


「おめぇ亜人嫌いのクチだったか? 連れて歩いたって目立つ程度で犯罪じゃねぇんだから今更キャンセルするなんていうなよ?」


「亜人自体にはなんもおもわねぇよ。ただ見てただけだ」


 シーフギルドが扱う荷物なんて大体ろくでもない物ばかりだったから、こんな美少女が出てきてびっくりした。なんて死んでも言わない。


「逆に亜人好きでも口説くなよ?」


「そんな気おきねぇよ、年の差考えろバカ。金をもたねぇおっさんがどんだけもてねぇかお前だってしってんだろ」


「いや、俺ギルド長で金持ってるし、妻子いるし」


 腹の立つ顔で煽りやがって、昔から変わらねぇなこいつマジでなぐりてぇ。


「とにかく、サルみてぇに盛ってギルドの顔潰すようなまねはしねぇから安心しろ。せっかくきれいにしたステカの最初の汚れが性犯罪者なんてマジで笑えねぇ」


 ギリギリで止まってようやく上向いてきた人生だ。ここで放り出すつもりなんてない。

 それは置いておいて、どうしても聞いておきたいことがある。


「ハンターギルドじゃなくてシーフギルドを頼ったのはいい。だがティベリウスからここに来るまでに保証人や護衛はいたんだろ? そいつらはどうした?」


 ティベリウスの格好をしているのだから彼女の旅の始まりはティベリウスか、ティベリウスとの国境近くのはずだ。そんな遠くから都市にもよらずやってきたという割には子供の服装が綺麗すぎる。

 ちっとトマスは忌々しげに舌打ちした。訳ありなんだろうけど、ちょっとは隠せよ。


 ただの亜人、と追われている亜人では訳ありの意味合いが全く違う。カードも出来たし、場合によっては依頼を断り、薬師ギルドで製薬したりして金を用意させてもらおう。


「この依頼人を護衛してたシーフ達は道中に夜盗に襲われて死んじまってな。森で途方に暮れていた所を『トネリコの導き』って狩人パーティに助けられたが、そいつらが野営中に斬りかかってきたらしい。脱出してここにたどり着けたのは依頼人と黒髪のポーター女だけで、ポーターもすぐに死んじまったよ」


 いや、訳ありにもほどがあるだろう。なんとか中継地であるこのギルドまでたどり着けたのは不幸中の幸いだろうけど、なあ。

 ダークエルフの子供に目を向けると緊張からかにらみ返してきた。

 狩人がねらうような価値のある物は、見たところ彼女自身くらいしかない。


 ダークエルフは差別こそされていないけど、立場の弱さから『さらってもいい美人』と考える下種もいる。

 けれどそれでも違和感がある。

 娘一人をさらえばステカに犯罪称号が刻まれる。そこまでして娘一人欲しがるだろうか?

 それにポーターだけど、逃走が完了してから事切れる、というのもおかしい。LPが削れていくまで傷をうけていたのなら、受けた時点でSPは0だ。もうまともには動けないのだ。よほど変な恩寵をもっていれば別だろうが、そんな奴がポーターをしているだろうか?


「今の手持ちのシーフ達じゃこの仕事はむずかしい。狩人に戻れるおめぇならいけんだろ?」


 シーフギルドは最初に依頼を受けた時点でギルド全体で依頼を遂行する義務を持つ。

 襲撃でシーフ達が全滅しても依頼が生きている以上、ギルドは赤字でも新しいシーフに金を払って仕事を引き継がせなくてはならない。


『できるのならやらないと、後で後悔するから』


 割に合わない事をするとき、彼女はいつもそう言っていた。この仕事は、割に合わない。どんな爆弾をこのダークエルフが抱えているかまったくわからないのだ。

 だから爆弾のことは少しでも知らなくてはならない。


「仕事を受ける前に確認したい。襲われる可能性は今後も続くのか?」


 すこし詰問口調になるが、しかたない。こっちだって命をかけるんだ。彼女みたいに無条件で人助け、ということはできない。


「……続くと思う」


 それきり彼女は黙ってしまった。まあ、とりあえず隠さないのだから及第点だ。


 俺は少女の前に立ち、すこし身をかがめて握手を求めた。

 友好的態度を子供に求めるのも無理な話だ。頼りになる護衛だと安心させるためにもこちらから歩み寄ろう。


「はじめまして。……えーと、ポエニキアまで君の護衛をすることになった。狩人崩れではあるけど仕事は全うする。よろしくな」


「……よろしく」


 差し出した手を取りもせず、眉根にしわを寄せてなんとも微妙な表情をしている。狩人に襲われたばかりだから無理もないか。ダークエルフは長命らしいが、大人になるまでの時間は人間と変わらない。


「ああ、それと君のことはなんて呼べばいい?」


 子供と接したなんて遠い昔に思える。なんとか優しげな雰囲気を出してみる。


「名前はシャムスだけど、あなたでも君でもお前でも返事はする。後ダークはつけないで。一部の白い奴らが差別したくて使い始めた言葉だから」


 ……あー、このコミュニケーションはわりとマイナスからのスタートらしい。

 俺が顔を上げるとシャムスを連れてきたシーフがトマスになにか告げていた。


「顔合わせが済んだなら急いで腹に青い十字が描かれた船に向かえ。軍が港を封鎖して船舶を一斉臨検する動きがある」


 臨検自体は港町では別に珍しいことじゃないけど、亜人のシャムスをつれていれば、どんな因縁をつけられるかわからない。トマスの言うとおり急ぐことにしよう。


「そうか、でもその前にトマス。さっき言っていた経費だ」


 手早く地図などをバックパックに押し込み、手を差しだす。


「ふん、もってきな」


 トマスが差し出してきた革袋を受け取る。なにを偉そうにいってるんだか……ん?


「おいおい、出すなら最初から渡せよ経費。おっさんのサプライズとかいらねぇよ?」


 袋の中にはこちらが要求した額より多い六十万ディナが入っていた。悪態をつきつつもほおは緩むもんだ。


「経費じゃねぇよ。二十万は餞別だ」


 トマスの言葉がわからず首をひねってしまう。センベツってなんだったっけ?

 経費じゃないなら目の前の大樽はなんで金をくれるんだ?


「……あん時はすまなかったな。余裕が無かった」


 ようやくわかった。ようするに慰謝料のことか。ならわかる。


「礼はいわねぇぞ? なにせ慰謝料だからな。じゃあな」


 もう会うこともない昔の同僚に挨拶をし、六十万がはいった革袋をバッグに突っ込んでその場を後にした。

 トマスのなんとも言えない表情に違和感を覚えるが、とにかくもらうものをもらったのだから先を急ごう。


 お読みいただきありがとうございます!


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