Ⅲ-01 シーフギルド
街道に合流し、昼食代わりにミレットとローフォンをボリボリ食べながら歩いて三時間、予定通り市街への入り口であるナフタ大橋まできた。
「でっか……」
全長百ジィあるナフタ大橋は出入りする人間を改める門も兼ねている。華麗な装飾が施された石造りの門は防衛施設というより旅人を迎えるモニュメントだ。
「はい次の方ー、ステータスカードと滞在目的をどうぞー」
カードを渡すときちらりと斥候隊長の顔が浮かんだが、気にしないことにする。さすがにナフタまでは追ってこないだろう。
「目的は渡航です。軍を退役したので開拓団に入ります。まだどの属州に行くか迷ってますが」
「そうですか。頑張ってねー」
雑だった。帝都に入るときにはかなり根掘り葉掘り聞かれたんだけど、やっぱり人が多すぎる帝都から平民が出ていくのは望ましいんだろうな。
門を抜けると長い橋が目の前に広がり、その先に小島の上に作られたナフタの街が見える。
アーリアの一つティーラ首長国と戦争していた頃、軍港だったナフタは島の大半がベージュ色の石で要塞化されていたらしいけど、今は海に面した側は切り崩され、斜面に白い壁の建物が並ぶ風光明媚な港湾都市になっている。
ただし俺に観光をしている余裕は無いのでとっとと目的地に向かう。
計画的で野球場のように扇状に広がる要塞側を無視し、なだらかな坂の小さな店が続く商業地区に入り、一軒の宿屋にフラリと入る。
久しぶりだけどあんまり変わらないな。厨房から離しておかれた貫禄のあるバーカウンターで、貫禄のないじいさんがジョッキを洗っている。ありふれたバーテンの仕草なのにうさんくさい。
「じいさん、シーフギルドはここか?」
「……しらん」
じいさんはジョッキを磨く手をとめない。
「頼むよじいさん、コンラッドの奴がポーションをくれってウルサインダー」
ためいきをついてじいさんはジョッキを布の上に置いた。
「その棒読みはやめろ。俺だってこの古くさい合い言葉は嫌なんだ」
そう言いながら壁際までいき、通路を塞ぐカウンターの天板を跳ね上げる。
「通れ。バックヤードのワイン樽の裏だ」
茶番を演じる見張り役に同情しながら店の奥へと進んでいく。
樽の裏の隠し戸を通れば、入口と同じような間取りの酒場が現れた。
「見ねぇ顔だな。誰の紹介……って、お前もしかしてソウタか?」
カウンターの中でワインを手酌で飲んでいた巨漢が間抜けな声を上げた
「いや、誰だよお前。こんな樽のようなシーフにあったことないんだが?」
かつて痩せぎすだった頃の面影がまるでない。
「いうじゃねぇか。ここにいたときは始終しょぼくれてたくせによぅ!」
カウンターから腹をつかえさせながらでてきたひげ面はガハハと笑いながらピューターのゴブレットにワインを注いで突き出してきた。
「話は後だ。とりあえず再会を祝して飲もうぜ」
こっちの話を聞かないかつての同僚トマスのグローブのような手をみてため息がでた。時の流れは恐ろしい。
そのまま交渉し、金に関する取引を終えた。
手形証文の類いが八ガケで百六十万ディナ、情報が二百四十万ディナだ。くそ、トマスがギルド長じゃなければもっとつり上げられたのにな。
「……ハッハッハッ、子爵もお盛んで。ってか乳母も子供に生々しい話するなよ。ぜってぇ性格ゆがんでんだろこの隠し子」
トマスがソファーでだらしなく腹を突き出しながら買い取ったゴシップをみて笑っている。
「しかし、今になって土の適性限定が上がるとはなぁ……またうちで働かねぇか?」
「俺を追い出したやつがなにほざいてんだか」
ちげぇねぇな、というトマスと笑い合う。いまさらどうこう言う話じゃ無い。このギルドが使えない奴を飼う余裕がなかっただけだ。
トマスはデカンタからワインをさらについでいく。樽から追加されたので4本はいっている。どんだけ飲むつもりだよ。
「おい、悪いがお前と飲みあかすつもりはないんだが?」
「つれねぇこというなよ旧友。おめぇのステカはオーダーが長すぎて書き換えに手間取ってんだ。ゆっくりしてけよ。仕事の荷物も来ないしな」
トマスはテーブルの前の星遺物をチラリと見る。確かに待つしか無いのだろう。ただでさえカードの発行には時間がかかるのに、俺のステータス情報はアホのように多い。
目の前のこの星遺物は普通のハンターギルドにも無い、国営ギルドの地方統括支部のような大きな所におかれている上位互換品だ。
この星遺物はどういう理屈かわからないけど、情報を共有化しているらしい。血を垂らして登録者の情報を読み取るため、カードを無くしたといって再発行しても以前に登録した名前がそのまま使われる。つまり別人にはなれない。
そこを上位互換の星遺物はクラウド上の情報まで編集出来てしまうらしい。想像だけど登録者の血の情報と既存のカードとのリンクを断ち切って、新しい名前が書かれたカードと血の情報をリンクさせているんじゃないだろうか。トマスでも扱えるほど自動化されているのでわからないけど。
「じゃあ移動ルートについて確認するか?」
「そうだな。気が進まないけど、やるからには成功させないとな」
ステカ偽造が終わったらティーラに高飛びする予定だったけど、自由になる前に一仕事することになってしまった。
というのもステカ偽造料金が予想外に高く、金が足りなかったからだ。昔三百八十万ディナだった料金が今五百万ディナで、俺の手持ちは四百万。依頼するには百万ディナ足りなかった。
そこにトマスが荷物の護衛をすれば差額をチャラにするという話を持ちかけてきた。
他人の懐事情を見抜く奴の目は確かで、固有スキルでも持ってるんじゃないかと昔から思っている。
正直仕事を押しつけるためにはめられた気もするけれど、背に腹は代えられない。
「ああ、聞いてやるさ」
こちらが返事をする前にチェストから一枚の地図が引き出され、テーブルの上に広げられた。
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どうやら相続した防具が最強っぽいんだが。
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