Ⅱ-01 谷底の薬草園
「マジ無理……」
地面に足をつけるとそのまま倒れ込んだ。きつすぎる。
限界まで土遁を使って斥候部隊の包囲網から逃げたはいいけど、出た先が山頂とか笑えないわ……地層が縦になった時点で気付くんだった。絶景をみたおかげでガーランド高地にいるってのもわかったけど。
ガーランドは帝都の南東にあるいくつもの深い峡谷が刻まれた高地だ。周辺部はともかく、深部は急峻な山と深い谷により人の立ち入りを拒んでいる。
「人はいないし魔獣もいない。今日はここで寝るぞ!」
仰向けでやけ気味に叫びながら ブーツを脱いでベルトを緩める。荷物はとっくにベルトにつけたマジックバッグの中だ。ずっと使っていたせいで練度がさらに上がっていた土魔法を仰向けのまま使用する。
草の下の土を持ち上げてシートを作り、アームレストとフットレストを作る。そのまま身体を沈ませ、首から足の裏までクレイで土を動かし、もんでいく。ひんやりとした土が気持ちいい。
「リ”クレイ”ニング・チェア、ってね」
頭がまわらない。しかたない、疲れてるんだ。
谷が西にひらけているため、まだかろうじて谷には陽がさしている。久しぶりの緑は目を優しく癒してくれる。
「……ん?」
土でウィンウィン身体をほぐしていると、視界のすみでクルミくらいの特徴的な果物が揺れていた。
「ウルソの実が普通に生えてるなんて、さすがガーランド高地だな」
状態異常の疲労回復、二日酔いにもきく便利な実なんだけど、困窮しすぎて前の生活じゃとても手が出せなかったな。ひとかじりして久しぶりの甘酸っぱさにもだえ、また一口と食べていく。腹の中からじわりと疲労が抜けていくのがわかる。疲労が抜けていくのと入れ替わりに頭がさえていく。
「ガーランド高地って言えば、ガーランド・ポーションの産地だった!」
急ぎ飛び起き、辺りを見回す。周囲は日差しが見えるにもかかわらず草の青い匂いが強い。
この世界には分類として薬草が原料で、魔力であるMPを回復するポーションとスタミナであるSPを回復する聖水がある。例えば戦闘でも、MPとSPは同時に消耗するので、商品としてのポーションは二種類の液体のブレンドで成り立っている。
聖水は治癒魔法を水に封じたものなので、ポーションに直接治癒魔法を封入すればいいじゃないかと普通は考えるけど、それをやると薬草の魔力と治癒魔法が干渉しあって効果がさがってしまう。
その欠点をガーランドポーションは克服している。
ガーランド高地でしか採れない水霊根という植物の根をポーションに使うことでポーション自体に治癒魔法を封入し、さらに治癒魔法の効能自体も引き上げたガーランドポーションは高級ポーションの代名詞だ。
それにガーランド高地は水霊根だけが生えているわけじゃない。
「状態異常に使えるフクレィ、精神錯乱に使うホーリーワーツ、解毒につかうオーレン、この谷自体が群生地だ。薬師がいたら泣いて喜ぶな!」
上がり続けるテンションが残っていただるさを吹き飛ばし、茂みへ飛び込むようにかき分け、手当たり次第に薬草を採取していく。薬師の使いっぱしりをしてためこんでいた知識が役に立つなんて人生わからない。
「知らない植物も結構あるな。後で薬効を調べてみよう」
小さな植物は根ごと、大きな植物は一部や種を採取し、マジックバッグに放り込む。
プラントハンターになった気分で進んでいくと小さな滝から始まる沢があった。
「クシャにトキ……あれが水霊根、だよな?」
単体で買えば高額な水霊根が普通にワサワサ生えているので思わず疑問形になってしまった。
引き抜いても大きさはともかく形は図鑑で見た通りだったので、他の薬草とおなじように少し残して採取していく。
結局勢いに任せ日暮れ前まで谷を歩き続け、薬屋が開けるくらい採取してしまった。
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