バレンタイン〜青葉編〜
家を出て歩き出す。
朝から妹チョコ(美味そう)を貰いめちゃくちゃ上機嫌な俺は学校への道をらんらんとゆっくり歩く。バレンタインが怖いと思っていた約1時間前の自分に「いいもんだぜ」と伝えてやりたい気分だ。
ただそれでもやはり青葉のチョコは恐ろしい。今年は奇跡的にお菓子作り上手くなってるとかないの?
そんなことを考えながら歩いていると。
俺を震え上がらせる恐怖のチョコの製造者……持ち主が。
あちらからダッシュで迫ってくるではないか。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
大声を出して青葉が迫る方向から逆方向に全力で逃げ出す俺。
やばいやばいやばい!!何でだ!?今日は金曜日じゃない!あいつが来る理由なんてないはずだ!
ま……まさか俺をトイレに封印するために……
全速力でダッシュしながら理由を考えてみる。あいつとの距離は約100メートルと言ったところ。走り出してから10秒ほど経つ。流石の青葉もスタートダッシュに遅れてるし、俺が色んな曲がり角を曲がっているからそう簡単に捕まりはしないだろ
「なんで逃げるの!?」
「速っ!?」
嘘だ!俺は曲がり角を不定期に曲がりそして全力疾走!にも関わらずあの距離を平気で詰めてきた……初めて曲がり角を曲がったのがたしか50メートルくらい走ってからだから……
「聞いてる!?」
「うぉ!」
「いやうおじゃなくて。なんで逃げるの?私の事嫌いになった!?」
「いえ。そんなことないですでございます」
混乱しすぎて謎の日本語を喋る俺。俺が息をゼェゼェと吐き出しているのに対し
青葉は息切れのいの字も見当たらない。ヤバすぎる……
「すまんな……なんか走り出したい気分になったんだ」
「今日の厚生がとてもやばい事になってる事だけは分かった」
あんまわかって欲しくないわかり方……
「まぁよくわかんないけど……渡したい物がってなんで倒れるの!?」
去年のトラウマが……記憶が走馬灯のように蘇る。これからアレを食うんだから確かに走馬灯なのかもしれない。
あのチョコは、呪物だ。或いは人を殺すための毒薬だ。
あれを食べたが最後。トイレに封印されることとなる。
明確にどんな感じかを伝えるならば……
口の中に入れる前から、どこか不安な異臭を放つ物体。それを口に入れると舌の上に乗っかったそのチョコ(?)はチョコの味なんてもんではなく焦げた何か。オマケに硬いため噛んでみるとガリっ(歯が削れる音)と共になんとそのチョコは2つに分離。地獄が2つに増えるのだ。しかも口の中で溶ければ溶けるほど分離し、俺の舌はヤバい状態に。舌が地獄絵図と化すのだ。結果、口からチョコを出すため封印されることになる。勿論下の口も酷いことになるぞ。
「ねぇ……そんなに嫌なら上げないけど……チョコ……」
「嫌じゃない。頂きます!」
死んでいた俺を強制的に息を吹き替えさせる。恐ろしや。
家に持ち帰って牛乳と共に食べよう。ごまかせるかもしれない。
「今ここで食べて」
「安心しな。牛乳とチョコは異次元の組み合わ……え?」
「ここで食べて」
「……」
「無理なの?」
「食べます」
あぁ。妹よ。折角お前から貰ったチョコ。食べられないかもしれない。俊平。何個貰ったか。葬式で教えてくれよ。桃子。毎年チョコをありがとう。遠くのお父さん。お母さん。あんたら早く帰ってきて妹の世話を頼むよ……
そんな遺言を頭の中で思い浮かべながら仏頂面で箱を開け、チョコを取り出す……と。
「なんか……めっちゃいい匂いする……」
ありえない。例年通りなら鼻をつんざくような匂いがするはず。
「いいから食べてみて」
「おう……」
パクッと。
そして例年通り焦げたような味が……
しなかった。
それどころかまろやかな口当たりのそのチョコは歯も要らない柔らかさ(チョコなら一般的なくらいの柔らかさ)で、味は……めっちゃ美味い。ゴリっと分離するチョコではなく、なめらか。普通に美味すぎるチョコであった。
「……これ……お前が作った?」
「うん。美味しい?」
「あぁ……めっちゃ美味い」
「そっか!Pさんの教えはやっぱ凄いんだなぁ……」
「ぴ……ぴーさん?」
良くく分からない単語が出てきたが俺はそのぴーさんとやらに感謝しなければならない。一体誰だろう。ありがとうと言いまくらなければ!
「Pさんは桃子さんの事だよ?」
桃子……おまえだったのか……
「なんでPさん?」
2人で登校する中俺が質問する。桃子にP要素なんかあっただろうか。
「簡単だよ!桃子さんといえば桃でしょ?」
「名前はな……」
実際は全然桃じゃない。というかパインだろ。
「桃は英語でなんですか!」
「あー。そゆこと」
「そゆこと!」
桃=ピーチ。だからPさんという訳だ。意外と安直なネーミングだったな……というか
「お前らいつの間にそんな仲良くなったの?」
当然の疑問。確か昨日桃子が青葉の家に行ったとは言っていたがまさかあだ名で呼び合うほどとは。
「いやー……料理作ってもらったり髪とかして貰ったり……あとこのチョコも作り方を教わりながら作ったんだー!」
随分仲良くなったみたいだね!
俺からすればめちゃくちゃ嬉しい事だ。
「なんかお姉ちゃん見たいでさー……」
「まぁそれは分かる。」
あいつから溢れ出すお姉ちゃん感は凄い。
「俺もたまに甘えちゃうしな」
「え?」
「ん?」
「まさか……私よりも桃子さんの方が……!」
「いやちげぇよ!あいつと彼女とか……ねぇよ。マジで」
「ほんとに?
「おう。なんかさ。恋愛感情湧かないんだよな。昔からずっと一緒だし。でも……」
「俺からしたらめっちゃ大事な友達だな」
「別にそこまで聞いてないし。まぁ私も甘えたくなる気持ちは分かるけど」
「だろ?」
そんな事を話していたら既に校門前である。
まだ学校に着いていないのに2個も貰ってしまった。こっから貰えるかはわかんないけど……
そんな思いで校門をくぐる。さて。最底辺は免れるかなーと……
どうも!久しぶりに2日連続で会えたね!ずんだです。ブクマがまた増えました。ありがとうございます!1個のブクマが私にどれだけの力を与えるのか……。分かりませんが物くスゴいパワーになります。ポイントもめっちゃ増えてますしね。マジで嬉しいです。ありがとー!
黒髪美少女ずんだ