サンタクロースはいた。伝説になる前に。
サンタクロースがやってきた。窓の鍵を魔法で開けて、枕元にプレゼントを置いていく。ワタシはこっそりあとをつけた。
雪の積もった道路に、トナカイたちが待っている。鼻はあんまり赤くない。
サンタクロースは橇に飛び乗った。まさかワタシがプレゼントに紛れているとは露知らず、サンタクロースは宙へ舞い上がる。
雲の上は吹雪いているけれど、サンタクロースはサングラスをかけているから大丈夫。トナカイの首で鈴が揺れている。
街から街へサンタクロースは旅をする。子どもたちのために休まずプレゼントを届けるのだ。
南半球ではサーフィンをするサンタクロースがいるという。宇宙にはスペースシャトルに乗ったサンタクロースが、深海には潜水艦に乗ったサンタクロースがいるのかもしれない。
仕事を終えたサンタクロースは北欧の住みかへと戻った。
「さあて、君も入りなさい」
どうやら初めからバレていたようだ。
赤い外套を脱いだサンタクロースはただのおじさんになった。白い髭のただのおじさん。
「温かい食べ物を用意してあるよ」
サンタクロースは大きな肉の塊が入ったスープを振る舞ってくれた。
「美味しいです」
「そうか。それは良かった。彼らに感謝しないとな」
窓の外には鎖に繋がれたトナカイが佇んでいた。ワタシは思わず舌の上に残った肉を噛めなくなった。
「はは、サンタクロースなのに残酷だろう?」
サンタクロースは笑った。
「いいえ、貴重なたんぱく質ですもんね」
ワタシは味わうことなくスープを飲み干した。
「君はどうして付いてきたの?」
「いつから大人になるのか知りたくて」
「いつから、だって?」
「サンタクロースがただのおじさんで、トナカイを食べるなんて子どもだったころは信じられなかった。でもいつかは知ってしまう。どうして大人にならなくてはいけないのでしょうか」
「ならなくてもいいんじゃない」
「えっ」
サンタクロースの言葉に、ワタシは呆気に取られた。
「大人にならなくていいじゃない。真実を目の当たりにしても、君は君のままさ。無理に変わる必要はないよ。ただ、向き合う自分が少しずつ増えるだけ」
そこで目覚めた。
「久しぶりの夢だったなあ」
枕元には両親が置いてくれたのだろう、成人式の帯や振り袖。ワタシの中でサンタクロースが伝説になってから、長い月日が流れた。幼いころはたくさん見た夢も、最近は滅多にない。いずれワタシは夢を見なくなる。
それでもいい、代わりに我が子に見せてあげれば。
夢を見なくなったのは、いつ?




