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8 フィリップ王子の来訪

 婚約破棄はその日のうちにスムーズに執り行われた。まるで予め準備でもしてあったかのように、モーガン様はお父様にマリアが語った私の悪行を語って聞かせ、マリアを代わりに嫁に迎えると、そこまで言い切った。


 お父様は疲れ切っていて……そして、何よりマリアを可愛がっていた事もあって、マリアがそれを望むなら、と婚約を承諾した。


 それから一月。私はもう、この家のために何かをするのが嫌になり部屋に引き篭もっていた。ご飯も喉を通らないし、……誰にも言えない、けれど見ている事もできない事実をどう処理していいか分からなかったのだ。


 まともに食事も摂らず、外にも出なくなった私はどんどんと死ぬ直前の母に似ていった。髪色も瞳も違うのに、顔立ちはよく似ていた母。


 きっと母もこんな気持ちだったのだろう。私は誰に託していいか分からなかった。お父様に打ち明けようか? でも、お父様だって責任感だけで今は立っているようなものだ。もう二度と領民を飢えさせまいと。


 モーガン様とマリアは、今は庭を仲良く散歩している。私はカーテンの隙間からそれをぼんやりと覗いていた。


 そんな折、パーティーやお茶会でモーガン様の紹介があったフィリップ王子が訪ねてくるという報せがあった。


 さすがに私もこれには顔を出さねばならない。料理長の計らいで日に二度は栄養価の考えられた質素な食事はとっていたので、そこまで痩せこけたり肌が荒れたりはしていないが、深雪のような髪に青白い肌で、まるで生気のない人形のようだと鏡を見て思った。


 モーガン様の新しい婚約者を見に来るのだろう。お二人は親友だと言っていたし……そんな場に私が出ていく? なんだかおかしくなって、化粧を施してくれている侍女がいるというのに笑ってしまった。


「お嬢様……」


「私、何のために生きているのかしらね」


 王族の次に位の高い公爵家から破談を言い渡された私に、誰が結婚を申し込むというのだろう。


 いつしか領内に小さな屋敷でも建てられて、そこで一人寂しく生涯を終えるのかもしれない。秘密を、……止められなかった最悪の結果を横目に見ながら。


 モーガン様、そのマリアという子は、私と貴方の妹なんです。


 しかし、マリアを虐めていたというのを頑なに信じてやまない優しいあの人は、私を憎んですらいる。私には一度も見舞いにすら来ない。当然だ。


 最初からモーガン様はマリアに恋をして、マリアはモーガン様を狙っていた。


 使用人たちは破談が決まってから、私にマリアの全てを打ち明けてくれた。


 部屋の中で日がな一日ゴロゴロとして過ごし、喪が明ける前から毎日おやつを食べ、晩餐も一人豪華な物を食べていたと。


 喪中、家の中の予算の管理は少し難しくなる。弔問客に出す食事まで質素にする訳にはいかないので、厨房の予算は日頃より少し多いくらいだった。


 私は気付かなかった。私が気付かなかった。使用人たちは黙っていた事を謝っていたが、言えないのは当然だ。彼らにとって私もマリアも等しく主人なのだから。


 やがて身支度を終えた頃、フィリップ王子が到着した報せを受けて私は客間へと向かった。

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