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6 フィリップ王子(※モーガン視点)

「……と、こういう事があって……、もう、私にはどうしていいのか」


 私は親友であるこの国の第一王子フィリップ・ウィンチェスターに事のあらましを打ち明けた。


 親の代から決まっていた婚約者、ジュリア・スカーレット伯爵令嬢には、初めて会った時から何の不満も無かった。


 少し笑うのが下手で、そんな彼女が笑ってくれた時はとても嬉しくて、年を経るにつれて美しく微笑むようになった彼女は理想の妻になってくれると確信していた。


 そして正式な婚約のため、スカーレット伯爵家に初めて訪れた日、ジュリアの妹であるマリアと出会った。天使のような子、というのが第一印象で、向けられた笑顔に思わず胸が高鳴ってしまった。


 いけないと思いつつもマリアに目がいってしまっていた。思えば恋に落ちていたのかもしれない。しかし、貴族の結婚は政略結婚だ。ジュリアに不満も落ち度も無いのに婚約解消などと言えるはずもない。


 そんな折、スカーレット伯爵夫人が体調を崩され、そのままお亡くなりになられてしまった。


 少し間を置いてからお見舞いに行くと、マリアは部屋に篭りがちになったとジュリアから聞いた。


 ジュリアも相当憔悴していたが、マリアのように引き篭もっている事はできない。ジュリアは家格が上の公爵家へ嫁ぐ身なのだから、こういう時ほど女主人代行として働かなければならない。かわいそうだと思った、どちらも。


 だから帰り際マリアの部屋に顔を出した時、マリアから聞かされた事はショックだった。同時に、ジュリアも辛いんだと思って顔を出し、マリアは部屋から出られないからと土産を持っていった。


 日に日に酷くなるジュリアからマリアへの仕打ちを聞くにつれて、怒りの方が大きくなり、今、どうしていいか分からずにフィリップに相談に来たという訳だ。


「なるほど。お前、それはちゃんと裏を取ったのか? マリアという少女の言う事だけを鵜呑みにしているように聞こえたが」


「マリアは天使のような子だぞ! 嘘をつくはずが無いだろう!」


「そう怒るなよ……、こっちは話を聞いてやってるんだぞ」


「あ……すまない。取り乱した。しかし、マリアが嘘をつくはずが無い」


「モーガン……、お前、マリアという娘に恋をしてジュリアが邪魔になっているだけじゃないのか?」


 フィリップの指摘に、何故か胸がぎくりとした。


 たしかにマリアの言葉以外、何の証拠も無い。しかし、ジュリアは頭の良い女性だ。綺麗で、頭が良くて、性質は大人しくとも女主人としての芯は持っている。


 マリアがかわいそうでマリアにばかり贈り物をして、ジュリアに直接マリアに当たってるんじゃないのか、と聞く勇気も無い。優しい婚約者のモーガンとして接するのが精一杯だ。


 書面上の婚約をしてすぐにスカーレット伯爵夫人が体調を崩されたので、いまだ婚約指輪も渡せずにいる。


 もしかして、そんな私の態度がジュリアを追い詰めているんじゃないのか……、フィリップに胸の内を話したら、そんな風にも思えてきた。


「助言してやろう、モーガン。まずは裏を取れ。本当にジュリアがマリアを虐めているのなら、私が出て婚約を破棄させる事も考えてやる」


「ほ、本当かフィリップ!」


「親友のためだ。しかし、裏も取れないのだったら……、その時はお前と絶交する。はっきり言おう、この会話の間私はずっと不愉快だった。お前の隣を歩くジュリアとは何度も顔を合わせているし、礼儀正しく美しい人だった。何なら私の方が彼女と婚約したい位だ。その彼女を婚約者でありながらお前は侮辱したのと変わらない。だからモーガン、親友として最後の忠告だ。私が納得する裏を取るように」


「……フィリップにそこまで言わせるジュリアはたいしたものだな。わかった、必ず裏を取る。マリアが嘘をついていたら、誠心誠意ジュリアに謝ろう」


「それでいい。……一応、私からも人を遣わせて調べてみよう」


「フィリップ……、私をそんなに信用できないのか?」


「恋は盲目というだろう? ……まぁつまり、私もそういう事さ」


 つまり、フィリップはジュリアに恋をしているらしい。私の婚約者であるから奪う事もしなければアプローチも絶対にしないだろうが、私の調査だけでは足りないと感じているのだろう。


 仕方がないのかもしれない。私はマリアを信じている。ジュリアを信じる人が居ないというのはフェアじゃない。


 私は呆れて嘆息したが、フィリップはどこふく風だった。


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