表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/17

12 ありえない(※マリア視点)

 ありえない、ありえない、ありえない、ありえない!


 こんな事あっちゃいけないのよ! なんでお姉様なの?! おかしいじゃない!


 私は天使のように可愛いのよ! モーガン様だって盲目的に私の事を信じてくれたわ! だからお姉様を蹴落として公爵夫人になる道を掴み取ったのに……!


 お姉様が王族になる?! どうして?! 私が、私の方がお姉様より一生優れていなきゃいけないのに! 優先されなきゃいけないのに!


 お父様は私が嘘をついて姉の婚約破棄までさせた罰として、日に二回、塩味しかしないような野菜のスープとパンしか与えないようにした。栄養価は考えられているし、私は痩せ細る事は無かった。イライラする、こんなんじゃ足りない。


 モーガン様とも会えなくなったし、外にも出られない。


 なんのプレゼントも貰えなくなったし、使用人たちの嫌々世話をしているような態度にムカついてぬいぐるみや枕を投げて当たり散らした。


 お腹が空く。イライラするからお腹が空くのか、お腹が空くからイライラするのか。


 もう訳が分からないわ。


 暴れて余計にお腹が空く。


 私は飢えてる。こんなにも。心から。


 今まで勝手にたくさん与え続けてきておきながら、今度は全部取り上げる。


 膨らみ続けた慢心という胃袋は、ずっと空腹を訴え続けている。


「どうしたら……フィリップ王子をお姉様から取り上げられるのかしら……」


 私はベッドの上で血が出るまで爪を噛みながら、ずっとその事だけを考えた。


 モーガン様なんか要らない。だけど、婚約してしまった。馬鹿なお父様が、馬鹿なモーガン様が……いえ、モーガンが、勝手に勘違いを起こしてスムーズに話を進めすぎた。


 この馬鹿二人をどうやったら今一度騙せるだろうか。そして、あの抜かりのない王子にどうやったら擦り寄ることができるだろうか。姉から……ジュリアから奪えるだろうか。


 私は、飢えている。


 そうだ、私は飢えればいいんだ。簡単な事だ、まずこの部屋から出るには飢える事が必要だ。


 その日から私は食事をとらずにひたすら布団の中で、時折泣き真似をしながら……それは真似だったのか本当の涙だったのか私にもわからないけれど、飢えた。飢えを選択した。


 流石に1週間何も食べてない事を知って、お父様は私を屋敷の敷地中なら歩いていいと許可を出し、晩餐を一緒に摂るようになった。


 ちゃんとした食事が供された時、私は嬉しくて泣いた。戻ってきた、少しずつ、私の当たり前が。


「お父様、本当にごめんなさい……」


 私は嬉し涙と今すぐ食事に飛び付きたい気持ちを抑えて、お父様に謝った。


「いや、私も悪かった……、ちゃんと監督し、調べていればこうも拗れなかったものを……今日から屋敷の中だけだが好きに振る舞いなさい。欲しい物があったら言うように、できるだけマリアの意に沿うようにしよう」


 馬鹿なのかしら? 馬鹿なのね。男親って馬鹿なんだわ、いえ、男が馬鹿なのよ。


 ありがとうございます、と泣きながら呟いて、私は目の前の食事を丁寧に食べた。美味しい。そう、まずは食事を。


 そして、お父様からの贈り物を。


 モーガンからの、贈り物を。愛を。信頼を。


 慎重に、私は飢えをコントロールするようになった。王子を前に取り乱した時には失敗してしまった。


 私は飢えている。この飢えをコントロールすれば、周りの男どもを騙すのは他愛ない事。


 そして、モーガン。彼を利用してフィリップ王子に近付く事さえできれば……。


 私は飢えていても、天使だもの。


 王子は必ず私を選ぶに違いないわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] むしろ、オカンが亡くなってからの引き籠り&豪勢な食事が 半年程度で済まなかったら肥えていたであろう事は明白な訳で……
[一言] マリア狂ってるけど、「男親って馬鹿なのかしら?」はまさしくその通り。 この父親、頭どうかしてるんじゃないでしょうか? こんな当主なら家ごと潰した方が良さそうだけど、それだと使用人たちが可哀想…
[一言] あぁ〜。 こりゃあ、切られますね… 王族に。ww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ