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1 婚約破棄

「卑劣な女め。実の妹だというのに、ここまで弱らせる程追い詰めるのが姉のする事か!」


「ご、誤解でございますモーガン様……!」


「聞きたくない! ——あぁ、かわいそうなマリア……、今日からは私が君を守るからね」


「モーガン、さま……」


 ここ、スカーレット伯爵家の次女マリアの部屋で、長女である私は床に膝を突き、顔面を蒼白にしながら必死に婚約者であるモーガン・イグレット公爵子息に誤解を訴えていた。


 ベッドの上で弱々しく、姉である私、ジュリアの婚約者に向かって安堵したように微笑みかけるマリア。


 内心、これはなんの茶番だろう、と思いながら。私はそれでも、なんとしても次の言葉を言わせまいと必死になっていた。


 この流れは本当にまずい。手指が冷えて震えてくる。このままでは、あってはならない事が起こってしまう。


「君がこんなにも卑劣で冷酷な女だと知っていたら、いくら親の代からの約束であったとしても婚約など承諾しなかった……。ジュリア・スカーレット伯爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう。そして、……マリアと婚約する。これならば何も問題無いだろう。さぁ、早く愛しのマリアの部屋から出て行くがいい!」


 言わせてしまった。ここには侍女も執事もいる。膝を突いている私よりも先に、顔を青くした執事が部屋の外に出ていった。スカーレット伯爵……つまり、父に事のあらましを話しに行くのだろう。


 どうしてこうなってしまったのだろう。新雪のような銀髪の頭を俯かせ、涙を瞳いっぱいに溜めた私は、恐怖のあまりに震える手足を叱咤して立ち上がると、顔もあげないまま一礼をして部屋を出た。


 そのまま自室に向かう。パタン、とドアを閉め、モーガン様が帰られた後に父に呼び出される事は分かっていたので鍵をかける。


 机に向かって、日記帳を開いた。今、ここで記しておかなければいけない。この日記帳に挟んでいる母の遺書……偽造のしようがない、今は亡き母の、私だけが知っている遺書。


 そこに書かれている(おぞま)しくも、絶対的な真実。


 私が最も恐れていた事が、今起きたと。


 恐ろしさに未だペンを持つ手が震える私は、落ち着くためにもゆっくりと新しい方のページをめくっていた。そう、モーガン様との婚約が正式に決まったのは半年前……その日からの出来事を思い出すかのように。

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