さいしょのまちへ
「ようこそ、ここはオネの町。あっ、もしかして勇者様ですか? でしたら町長がお呼びですので話しかけてみてください」
最初に話しかけた町民にしては話が分かりすぎだと思ったが、まあそこは仕方ない。ちなみにこういう町民とかの所謂モブと呼ばれるキャラでもゲームのように同じセリフを繰り返す訳ではなく、普通の人間のような反応を見せてくれる。が、目的は設定されているため、例えばこの町民だと話しかける度に町長のとこへ行くように促してくるだろう。
「初めまして、確かに僕は勇者です」
「やはり勇者様でしたか、ようこそいらっしゃいました。是非町長の話を聞いてあげてください」
「分かりました。ちなみにここにお店はありますか?」
「ある程度栄えてる町ですので、武器屋や薬屋、飲み屋や宿屋など、ある程度のお店は揃ってますよ。一通り見てみてたら是非、町長のお家に行ってみてください」
このまま話を続けても町長のところへ行くように促されるだけなので、そろそろ向かおう。好奇心でお店のことを訊いたものの、少し呟けばなんでも手に入る僕には無用だ。まあ雰囲気を味わうのは嫌いでは無いので寄ってみるのも悪くは無いが。
先に進もうと横をみると、先程まで隣にいたはずの場所にオルフェウスがいない。
「こ、この武器凄いですね、やっぱり切れ味とか凄いんですか!」
遠くから聞こえてきた声を頼りに向かってみると、武器屋の店主に質問攻めをするオルフェウスを発見した。
だがしかし今は早く町長の家に行き話を進めたい。
「オルフェウス、君は既に武器を持っているだろ」
そう言いながらオルフェウスの首根っこを掴み、そのまま引き摺って町長の家へと向かった。
「いやあぁぁぁああぁぁぁぁああぁあ」
オルフェウスの断末魔が町に響き渡ったが、それを気にする人は一人としていなかった。
町長の家は町の最奥にあるらしく、今はそこを目指してオルフェウスと共に歩いている。途中までは引きずっていたものの、今は僕の後ろをしっかりとした足取りで歩いている。
最奥と言っても町自体広くはなく、目的の家はすぐに見つかった。位置的にそうと思わしき家の前に人が立っていたからだ。
「お待ちしておりました勇者様。町長がお待ちです、どうぞこちらへ」
黒髪のクール系の女性が柔和な笑みを浮かべ、家の奥へと案内してくれる。豪華な装飾とかはなく、シンプルな廊下を通り広間に着くと、そこには70歳くらいと思しき女性が座っていた。
「ようこそおいでくださいました、勇者様とそのお連れ様。どうぞお座りください」
町長が指す方を見ると、何人来るか分かっていたかのように2枚の座布団が床に敷かれていた。
空気を読んで大人しくしていたオルフェウスと共に、町長の目の前に敷かれた座布団に座った。
「僕達に何かしてほしいことが?」
特に理由はないが簡潔に話を終わらせるため、単刀直入に話を切り出した。
「あぁ、そうじゃ。実は今、この町の周りにモンスターが大量発生しての。普段なら町の若い者が討伐するんじゃが、魔王が来てからは町の外に駆り出されてしまってな……」
なるほど、モンスターを倒せる人がこの町には今、ほぼいないってことか。
「モンスター、ですか。それはさぞお困りのことでしょう。私たちが全て討伐してきましょう」
あぁ、オルフェウスが外面モードになっている。しかもモンスター討伐に乗り気だ。本人はかくしているつもりかもしれないが、瞳の奥がギラギラと輝いている。
「迷惑をかけて大変申し訳ないが、どうかこの町をお守りください」
僕も一端を担っているものの、物凄いペースで物事が進んでいく。絶対物語上はもっと長々と説明とか受けてるんだろうな……。
話が一通り終わると、入口に立っていた女性が出口まで案内してくれた。
「私たちが調査した限り、ゴブリンの一団がこの町を出て東南の方向1キロほど行った先にいるはずです。お手数をお掛けしますが、どうかよろしくお願いします」
丁寧にモンスターの居場所を教えてくれた女性に見送られ、僕達は町の出口へと向かって歩き出した。
「オルフェウス、君モンスター倒すのに乗り気すぎない?」
「な、なな何をおっしゃいますか! 町民がお困りなのです、助けるのが一国の姫の役割というものでしょう!」
一国の姫は戦いの最前線でモンスターを殲滅しないと思うけどなぁ……と、喉まで出かかった言葉を僕は無理やり飲み込んだ。
「はりきっていきますか!」
そう言って町の出口に差し掛かったその時、一番最初に話した町民に、話しかけられた。
「勇者さん、もしかしてその装備でお出掛けになられるつもりですか? 流石に木製の剣と盾では……町に武器屋があるので装備を整えてはどうですか?」
「あー、確かに……勇者様、先程のお店に行きましょう! 殺傷能力高そうな武器が置いてありましたよ?」
ノリノリで武器を買いに行こうとするお姫様はいかがなものかと思うが、確かに今持ってる武器は木製で限りなく攻撃力は低い。……だが、僕には別に強い武器は不要だ。いざとなったら少し呟くだけでどうとでもなるのだから。
「心配してくれてありがとう。でも僕はこの武器で全然大丈夫だから」
油断するとすぐにでも武器屋に駆け出しそうなオルフェウスを片手で捕まえつつ、木製の片手剣を軽く振ってみせた。
「そうは言っても心配です……武器はちゃんとしたものを持っていたほうがいいかと……」
「いやでも――」
「あそこにあるので武器屋が! 危険ですので!」
食い気味に来るな、この子。というかあれか、強制的な主要イベントだな、これ。
「ここまで心配してくれてることですし、ほらほら、早く行きましょ武器屋!」
相変わらずノリノリだなぁ……でも主要イベントなら仕方ない。
「そこまで言うなら、ちょっと寄ってみようかな」
「ふふふん、勇者様が行くのなら仕方なく行ってあげましょう」
凄いニヤニヤしながらこちらを見てくるオルフェウス。正直少しむかつく。対照的に純粋な笑みをこちらに向けてくる町民。
「よかったです。武器屋はこの道を真っ直ぐ進んだ2つ目の角にありますので、是非」
今持ってる剣を鉄製に変えることはできるが、きっと何かイベントがあるに違いない。
「ほらほら行きますよ、武器屋!」
遠くからオルフェウスの声が聞こえる。行動力がありすぎではないか。
「はーやーくー!」
「ああ、今行くよ! ……君も、ありがとね」
町民に一言お礼を言うと、駆け足でオルフェウスの元へと向かった。
刀が2本交差している絵が書いてある看板のお店のドアを開けると、そこには先程オルフェウスが嬉々として話していた屈曲なおじさんがにこやかに出迎えてくれた。
「おっ、さっきのお嬢ちゃんじゃねえか!」
「おじさん、武器をください! 強くてイカついやつを!」
一国のお姫様がイカつい武器を所望するんじゃない。
「イカつくなくて大丈夫なんで、強い武器をくれませんか? これと同じ形で」
腰に据えていた木刀と木の盾を店主に差し出しつつ、そう言った。正直強制イベントさえ終われば武器なんてなんでもいい。
「おっ、兄ちゃんは初めてだな? なんかこだわりとかはあるかい?」
ガハハ、と豪快に笑いながら渡した武器を眺めている。
「んー、しいて言うなら軽めで持ち運びやすいやつがいいです」
「確かに兄ちゃんの腕っ節だと重いのは無理そうだもんな、任せとけ!」
そう言うと、店主は店の奥へと消えていった。
「えー勇者さん、強くて重くてイカついのにしないんですかぁ」
カウンターに突っ伏しながら不服そうにこちらを見るオルフェウスがそこにはいた。
「せっかくの新しい武器なのに、強そうなのにしないなんて損ですよ?」
「僕は見ての通り腕は細いし、ちゃんと自分に見合った武器にしないとだよ」
こんな見てくれで大剣とか持ってても違和感しかないしな、と思いつつ店に飾ってある大剣に反射している自分の姿を見た。片手剣や双剣が似合う細身の体がそこにはあった。
「まあ確かにそうですけど……はぁ」
「なーにイチャイチャしてんだ、ほらこれはどうだ?」
武器を見繕い終えた店主が、店の奥から持ってきた武器をこちらに差し出した。
「ありがとうございます」
そう言うと、店主に持ってきてもらった片手剣と盾を手に取ってみた。青を基調としており、装飾は少なく全体的にシンプル。持った感じもそこまで重くなく、手にしっくりくる。
「これにします、おいくらですか?」
「おっ、気に入ってくれてありがたい! 料金は町長からもらってるから大丈夫だぜ」
なるほど、これは町長から餞別らしい。ありがたくもらっておこう。
「重ね重ねありがとうございます。ありがたく貰い受けます」
「こんなすごい武器がタダで……ありがとうございます!」
「おっ、その分頑張れよ若いの!」
店主からの激を飛ばされ、少しだけこの旅のやる気が出てきた。我ながら単純なやつだとは思う。
「よかったですね、いい武器が手に入って!」
町の出口へ再度向かう途中、にこやかな笑顔でオルフェウスはそう言った。
「でもすぐ買えましたね。勇者さんすぐ決めちゃうんですもん、もっと色々と見るのかと思ってました」
確かにすぐ終わったな、何事もなく。
……何事もなく?
あれ、武器屋に行くことが必須のイベントだったのでは? 何も無かったぞ?
「あ、勇者様! その武器なら良さそうですね、討伐頑張ってください!」
そんなことを考えながら歩いていると、またあの町民に出会った。
……なるほど、武器屋に行くのが必須なんじゃなくて強い武器に変えることが必須だったのか。強い武器なら一瞬で創造できたので、少し無駄な時間を過ごしてしまった。
そんなことを思いつつも、自分の想像力では造れなかった新しい武器に自然と手をかけながら歩いていた。
町を出て改めて気付いたが、この国は自然が豊かで空気が綺麗だ。現実世界ではコンクリートの地面ばかり歩いてので、土や草を踏みしめて歩く感覚はとてもなつかしい。子供の頃はたくさん公園で歩いてたんだけどなあ。
そんな事を考えながら歩いていたら、前を歩いていたオルフェウスが不意に振り向いた。
「勇者さん、今から倒しに行くのってゴブリンですよね?」
そう言いながら顎に手を当てて深く考え、後ろ向きに歩いている。器用か。
「うん、町長の話を聞く限りそのはずだけど」
「そうですよねぇ、うーん」
様子を見る限り何か思うところがあるようだ。今までの様子を見る限り戦えないということはないとは思うが。
「何かあったの?」
「うーん、いやあの……」
顎に手を当てながらチラッとこちらを見ると、
「人型って倒しづらくないですか?」
あんなにガッツリスライムに大技を放ってたお姫様が何か言ってる。いや、人型限定か。
「なんか、意外だね」
「あ、意外ってなんですか! そりゃあ女の子ですもん、そういう気持ちも持ち合わせてますよ!」
その意見には賛同できないけど、戦えない女の子を戦わせる趣味はない。
「じゃあオルフェウスは――」
「なので私にいい考えがあるんです!!」
僕一人が戦う案を出そうとした瞬間、食い気味にオルフェウスがそう言い放った。
「どうするの?」
「ふっふっふっー、それは行ってからのお楽しみです! 楽しみにしててください」
そう言うと前に向き直り、スキップをしながらどんどん先へと進んで行った。
……絶対戦場に向かうお姫様の後ろ姿じゃないんだよねぇ。
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