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初めての仲間

 なるほど。先程は考え事をしていたせいで気にしていなかったが、城の外へと向かう道中にも煌びやかな装飾の類いのものは一切なかった。お城らしさがあるのは外観だけらしい。

 言われた通り城の外に出ると、そこには手付かずの自然がどこまでも広がっていた。遠くに光の反射が見えるが、あれは湖だろうか。

 様々な鳥たちの声が心地よく感じる。現実世界では到底体験できないことだ。鬱陶しいほどに高い建物に囲まれて空は狭く、星の明かりもほぼ地上に届かない。ここなら空は広く、夜は様々な星が明るく光っていることだろう。

 今まで様々な世界を経験してきたが、ここまで自然が綺麗な場所は初めてかも知れない。本当はもっと歩き回ってみたかったが、お姫様に待ってろと言われてしまった以上、城の前から動くことができない。

 早く来ないかと城の中を覗こうとしたちょうどその時、一人の人物が城から現れた。

「勇者さん勇者さん! 私が来ましたよ!」

 先程までのお淑やかさはどこへやら、城から勢いよくパンツスタイルのお姫様が出てきた。

「あれ、魔法使いはどこに?」

 僕と旅に出るはずの魔法使いがいない。てっきり連れてくるかと思ったが。いやそもそもなぜ彼女はパンツスタイルなのか。しかも、身長に不釣り合いな程の大きなリュックサックを背負っている。……いやまあ、先程の不敵な笑みで何となく予感はしていたが。

「何言ってるんですか、私がこの国で一番の魔法使い、吟遊詩人のオルフェウスですよ?」

 そう言うと、先程も見せてくれた笑みをこちらに向けてきた。

「なるほど、だから召喚士ではなく魔法使いって大枠で言ってたわけか」

「はい、召喚士だとこの国で一番なのは先程の彼女なので」

 しかし大丈夫なのか、一国の姫が抜け出して。

 そんな僕の気持ちを察知してか、

「大丈夫ですよ、ちゃんと父の承諾は得ましたし」

「いやでもあの召喚士のことかと思ったり……」

「大丈夫です大丈夫です、さあ行きましょ!」

 すごい勢いでグイグイ引っ張ってくるお姫様――オルフェウスとの旅が始まろうとしていた。


「私、魔力は高いんですけど使えるのはまだ少しの回復魔法だけなんですよね」

 最初の街へ向かう道すがら、オルフェウスは持っているハープから綺麗な音を奏でながらそう言った。

 そりゃそうだよな、まだ物語は序盤なわけなんだから。そういう僕も今持ってるのは木でできた剣と盾しかない訳だし。

「攻撃魔法、使いたくない?」

 唐突に、僕はそう尋ねた。

 物語の中では無敵な僕は、回復や支援系の魔法よりは火力が欲しい。能力を使えば仲間に攻撃魔法を覚えてもらうことなど造作もないので、できれば抵抗なく受け入れて欲しいけど……。

「攻撃魔法ですか! 私が!? 使ってみたいです!」

 ノリノリだな、このお姫様。

「少し待ってて――最大火力魔法付与。対象、オルフェウス」

 後半はオルフェウスに聞こえないよう、僕はそう呟いた。後はそこら辺に敵でもいればいいんだけど。

 そう思って周りを見渡すと、タイミングよく敵が現れた。――スライムだ。

「少し物足りないけど、今オルフェウスが撃てる最大魔法を敵に放ってみて」

「よ、よく分からないけど私は勇者様を信じてますので! い、いきます!」

 そう言うと持っているハープをかまえた。

 ただでさえ静かだった森が、より静寂に包まれる。大きな力の流れがオルフェウスを中心に渦巻いているのが分かる。どんどん、ハープに魔力が溜まっていく。決してこの魔力はスライム1匹に放たれていい魔力量ではない。

 ――ぽろろん。

 静寂に包まれた森に、ハープの音が反響し響き渡る、その瞬間。スライムを中心に膨大な量の魔法が展開されていく。あー、まずいなこれ。

「無敵付与。対象、目の前のスライム以外」

 そう言った瞬間、この世のものとは思えない雷鳴が轟き目の前にいたスライムが跡形もなく消滅した。

「こ、これが私の力ですか……?」

 眩しい光に視界を奪われたオルフェウスが木に向かって話しかけている。

 いやぁ、まだ最初の町に着く前に覚えていい魔法じゃなかったな……。


 スライムを倒した後、横を歩いているオルフェウスはずっと、ぶつぶつと独り言を呟いている。

 混乱するのも無理はない。国一番の魔力を持ってはいたものの完全に支援職だった一国のお姫様が急に最強魔法を使えるようになったのだ。なんなら自分の力に畏怖してもおかしくはない。

「ゆ、ゆゆゆ勇者さんっ」

 意を決したのか、大きな瞳をさらに大きくしてこちらを見ている。

「この力って、勇者さんのお陰なんですかね! 勇者さんのお陰で私、こんなに強くなれたんですか!?」

 流石はお転婆お姫様。畏怖などなく、むしろ興奮しているように見える。

「う、うん。オルフェウスには支援より攻撃にまわってほしかったからさ」

 完全にこちらの我儘だから性格上無理そうならやめさせることもできたが、どうやらノリノリらしい。

「使っていいですか! 魔法使いまくっていいですか!」

 キラキラと輝く瞳でこちらを見てくるお姫様に向かって、精一杯の優しい笑顔で首をふった。途端にあからさまにテンションが下がっていく。

「ですよね、分かってます分かってます」

 そう言いながらも瞳は敵を探している。

「敵を見つけても最大火力はだめだよ?」

 見つけた瞬間に最大火力で攻撃を放ちそうなオルフェウスに対して、優しく釘を刺しておく。そうでもしなきゃスライムにも最強魔法を放ちそうだから。周りのオブジェクトを守るのは簡単だが、万が一に備えて損は無いはずだ。

 拗ねかけているオルフェウスを宥めながら歩いていると、遠くから人々の声が聞こえてきた。どうやら最初の町が近付いてきたようだ。

「ほらほら、元気だして」

 そう言いながら、町に向かって歩を進めた。


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