洞窟探検
最初にご飯を食べた広間から少し奥まったところに出口は存在した。人が2人並んで歩くのがギリギリの幅で、天井も急に低くなって圧迫感がすごい。アーレスが手に持ったランタンを掲げて道を照らしているが、それが必要にないくらいには薄ぼんやりと天井が光っている。なにかの魔法だろうか。
「ちなみに、出口まではどのくらいの距離があるんです?」
アーレスの後ろーー僕の隣を歩いているオルフェウスがそう聞いた。
「結構入り組んでいるので詳しくは分からないですが、直線距離だと15分はかからない程かと」
「なるほどなるほど、直線1kmってとこですかね?」
そう言うと、歩を止めて目を瞑り何かに集中しだした。少しすると徐々に口角が上がっていくのが見て取れる。
「流石勇者さんですね!」
「えっ?」
オルフェウスが何をしたのかも分からないし、今僕は何もしていない。身に覚えがなさすぎる。
「ふふふ……並の魔法使いじゃ無理だと思いますが、勇者さんに能力を上げていただいた私にかかればこの洞窟の範囲の魔力探知なんてお手の物! この天井にある魔法植物の微弱な魔力でさえ丸見えで1人でも出口まで行けちゃいそうです!」
洞窟の中にオルフェウスのドヤ顔がうっすらと浮かんでいる。狭い洞窟で大声を出したので反響しまくって耳が痛い。まあでも確かにこの明かりが魔力を使っているのだとしたら外部からの侵入が出来る人もいるのではないだろうか。
「オルフェウス様の能力を信じて進んでみますか?」
そう言いつつ前を歩いていたアーレスが隅に寄り、オルフェウスが前に出れるようにしてくれた。
「この能力に慣れておきたいですし、いいですか?」
そう言うとノリノリで前に突き進んでいく。お姫様が前線を張り勇者と剣士が後ろを着いて行くパーティの完成だ。まあ、ある程度のことはオルフェウスが対応できるだろうし、いざとなったら僕がどうにかしよう。
「では、行きましょー!」
やっぱり心強いな。
三者三様の足音が無機質な洞窟に響いている。先頭を歩くオルフェウスはこの入り組んだ迷路の様な洞窟を、初めて歩いているとは思えない程に軽やかな足取りで突き進んでいく。たまに出てくる小さいモンスターをノールックで燃やしながら。
「たまーにいるモンスターもそんなに強くないですし、ここの冒険者の人達なら余裕なんですかね?」
指先から小さい火球を放ちながらそう質問した。
「そうですね、このレベルなら全員問題ないくらいには皆さん強いです。この程度でやられるようじゃ足手まといでしかないですし」
流石にオルフェウスの昔話に出てきた時より幾分か強くなっているらしい。
「ふふっ、昔のアーレスさんとは大違いですね」
オルフェウスも同じことを考えていたらしい。
「や、ややめてくださいよ、流石に僕も色々経験して強くなってるつもりです!」
暗くて見づらいが、顔を赤らめているのが何となく分かる。よっぽど恥ずかしい過去のようだ。手に持ったランタンが暴れている。
そんな他愛も無い話をしている間にも先に進んでおり、
「あ、そろそろ魔力の道が途絶えるので出口かと!」
そうオルフェウスが言った時、太陽の光と思わしき光が見えてきた。どうやら本当に途中の分かれ道にも逸れることなく真っ直ぐここまでこれたらしい。
「わーい、やっぱり私は確実に強くなってます!!」
そう叫ぶと全力で太陽の下へと駆け出して行った。
「あ、戻ってーー」
きっと今のアーレスの言葉なんて一切耳に入っていないだろう。
「いやぁああぁぁあああぁぁぁあ!!!」
突如響き渡る断末魔のような声。
「え、なに!?」
「戻ってください、オルフェウス様!」
後ろにいた2人が急いで駆けつける。そこにいたのはーー
「ウオォオォオオオァアアアアァァ!!!!」
あまりにも大きい、ケルベロスのようなモンスターがそこにはいた。確かにそこには太陽の光が差していたが、天井に穴が空いているだけで実際には大きく拓けた洞窟があるだけだった。ここは出口なんかじゃない。
「逃げて! オルフェウス、早く!」
驚きすぎて倒れているオルフェウスに向かってそう叫ぶ。
思考停止で地面に座っていたオルフェウスは自分の状況を理解し、急いで立ち上がりこちらに向かって駆け出してきた。
「ガァッッ」
その瞬間、モンスターの大きな頭の1つから何かが吐き出されさっきまでオルフェウスがいた場所に命中した。
何かが溶けるような音が聞こえる。
「いやあぁぁああぁ! 溶けてるっ! 溶けてますっ!!」
さっきまで平らだった地面は窪んでおり、モンスターの攻撃によって溶けていることが分かる。
「そのままこっちに走って!」
オルフェウスはその勢いのまま僕たちを追い抜き、その後を追いかける形で3人が全員モンスターの視界から抜け出した。