穴だらけの推理
分かってしまったかもしれない。犯人はともかく手口が。
シェフの話を聞き終わり、鼻歌を歌いそうになるのをグッと堪えて食料庫に向かう。脳のシワが深くなっていく感覚がある……気がする。
この考えが正しければ食料庫付近での魔力探知に引っかからないのも合点がいく。思いついてみればとても単純なことだったのだ。
「何か分かったんですか?」
少し足早になってしまっていた僕の隣で必死に置いていかれまいと早歩きをしていたオルフェウスがそう言った。
「え、なんで?」
格好をつけたいが故に必死に平常心を装いつつ、口角を上げまいと必死に抵抗しながら聞き返した。図星であることも気取られないように。
「いや、勇者さんってば調理場から少し離れたと思ったら急になにか思いついたような顔をして、そのまま鼻歌を歌いながらスキップで食料庫に直行しているので」
なんてこった、多幸感むき出しのオンパレードじゃないか。本当だったらバレるに決まっている。食料庫で雰囲気を出しつつ推理をする予定だったのに。
「多幸感むき出しのオンパレードでしたよ」
いや、心を読まれてる可能性が高いな。
「そんなことより、何が分かったんですか?」
僕の多幸感むき出しのオンパレードにも臆せず、オルフェウスはそのまま話を続けた。
「それは状況を確認しながらにしようか」
作業の効率を考えてか、調理場から食料庫までの距離は思っていたよりも近かった。改めて見てもここにある食料の量は圧巻だ。まあ、確かに筋骨隆々の男たちの食料がここに集められているんだ。巨大干し肉から穀物まで、ありとあらゆる食べ物が割と綺麗に陳列されている。初めてここに来た人も迷わず欲しいものを見つけることが出来るだろう。ただ、そのものを過去に見た事があれば、の話だが。僕には何が何だかさっぱりだ。以前オルフェウスにお弁当をもらったり、ここに来た時に食べたものがあるから見覚えがあるものはいくつかあるが。
「ここで盗みが確実に起こっているけど、犯人は見つかっていない。流石に何度も盗まれても犯人が見つからないなんておかしいから魔法の使用が有力。確かそうだよね?」
探偵ものの物語に入った気分で、そう尋ねた。
「え、えぇ、そのはずです。ただ魔法の痕跡は一切見つかってませんが……」
オルフェウスの発言を聞きながら後ろで手を組み、無駄に食料の前を行ったり来たりしてみる。
「そうだよね。そこで僕は考えたんだ、なんで痕跡がないのかを」
右手を顎にやり、オルフェウスを見据える。
「ここで魔法を使ったのではなく、使ってからここに来てるんじゃないかって」
「でも……」
「わかってる、証拠がないって言うんだろ? でもシェフが言っていた小さい影って言葉で合点がいったんだ。ただの人の影を小さい影なんで言うかな? きっと魔法で小さくなった人影をみたんだろう、ネズミかそれ以下のサイズに。そしてーー」
「魔法使ったままここに来てたら、痕跡が残ると思うんです!」
オルフェウスが僕の演説を遮ってそう叫んだ。
「そうそう、それで……え?」
その声は確実に僕の鼓膜を震わせたが、脳みそが理解するのに時間がかかってしまった。……え、使用したらその場所が分かるんじゃないの?
「魔法を使ったままこの場所に来てるとしたら、痕跡は残るんです。魔法をその場所で使った痕跡よりは弱いものになりますが」
こんな格好つけてまで色々話して赤っ恥じゃないか。いや、でも魔法の痕跡の詳細なんて知らないしーー
「それに、仮にネズミ以下のサイズのままだとしたらほぼ何も取れなくないですか? 大きなお肉や果実なんて以ての外で、強いて言うならこのさくらんぼみたいなフルーツくらいじゃないですか?」
そう言って、麻の袋のようなものに山盛りにされた謎のフルーツらしきものを数粒こちらへ寄越した。それはサイズはさくらんぼと同じくらいだがそこまで固くはなく、口に入れてみると酸味が口の中いっぱいに広がった。おいしい。
「でも今までの話を聞いて、多分ですが1つだけ分かったことがあります。きっと犯人は人ではなく、元から小さい何者かなのではないでしょうか」
くそぅ、カッコイイ。何故かメガネが見えてきた。僕は何故今推理を聞きながらフルーツを齧っているのだろうか。計算と違いすぎる。もう【書き換え】て犯人をこの場に呼んでやろうか。
僕はしばらく手のひらに乗った謎のフルーツを口に運び続けることしかできなかった。
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