調理場
案内された場所は僕らのテントから程近く、そこには大量の食料が綺麗に陳列されていた。なるほど、盗難被害に遭ってはいるもののこれは確かにすぐには無くならさそうな量がある。とはいえ、いつか大量に盗み出されてしまう可能性もあるし、現状被害は少ないとはいえ無視はできない問題だ。それに侵入方法が分からない以上、それを利用していつか敵が襲ってくる可能性もある。
「じゃあ、やりますねー」
そう言いつつ、オルフェウスは食料庫に意識を集中させた。僕が能力を【書き換え】て、その能力を魔力量最強レベルであろうオルフェウスが使う。これで見つからない訳が無い。少しズルかもしれないが、能力で直接犯人を見つける訳ではないし、こっちのほうが幾分かマシだろう。
「見つかりそう?」
集中を続けているオルフェウスに対して、少し急かす様に尋ねた。
「んー、なかなか……」
苦戦しているようだ。あんな強力な魔法を易々と放つオルフェウスの魔力でも難しいとなると、相当な強敵だぞ……?
「……すみません、何も分かりませんでした」
ガックリと肩を落とし、そう言った。
難しいどころではなく、不可能なのか。これは想像以上に難航しそうだ。それこそ魔王側のモンスターの可能性も出てくる程に。
「そっか、他に方法があるかもしれないしやれることをやっていこう」
ざっと見た感じ、元の食料状態が分からない僕が見てもどこを漁られたのか気付くことができない程綺麗に食料が並んでいる。盗賊が入った後だとは思えない。ここの人達が細かい食料管理をしていなかった場合、ずっと気付かなかった可能性もあったのではないだろうか。
「とりあえず、色々な人に話を聞いてみようか……すみません、ありがとうございました」
ここまで連れてきてくれた女性に一礼すると、調理場があるであろう方向へと二人で歩を進めた。食料を管理している人がいるとしたらそこにいるだろう。
こういう所の調理場は汚いイメージがあったが、そんなことは無くシンクからコンロまで全てがピカピカに掃除されている。一目見ただけで食料庫の担当者がここにいることが確信に変わった。食料庫の整頓具合と調理場の清潔具合を見る限り、相当な綺麗好きな人がここにいるらしい。
「すみませーん、どなたかいませんかー!」
人が見当たらないため大声を出すと、死角から一人の男性がひょっこりと現れた。
「どうした、大声出して。腹でも減ったか?」
顔にバツ印のような古傷が刻まれている歴戦の戦士オーラが凄いおじさんが出てきた。つまみ食いでもしているのだろうか……いや、このパターンはーー
「丁度いい、ここの唯一のシェフである俺が作ってやろうか」
やはり、絶対綺麗好きに見えない綺麗好きパターンだ。繊細な料理とかできなさそうな見た目だが、これは絶対に飾り切りとかが得意なタイプだ。リンゴを切らせたら絶対にうさぎにして出してくるだろう。
色々な思考を巡らせて何も話さなかった僕らに目の前の大男は、
「ああ、これか? いやぁ料理人として恥ずかしい。昔でっけえ魚を捌いた時に自分でやっちまってなぁ!」
がっはっは、と笑いながら腕を大きく広げている。どうやら僕らが顔の傷を見て唖然としていたと思われたらしい。それも要因の一部ではあるが、僕らはもっと大枠のことが気になっている。
こーんなにデカくてな、と言いながら笑っている。申し訳ないが本題に入らせてもらおう。
「すみません、今お腹すいてなくて……」
えっ、と食べる気満々だった様らしいお姫様がこっちを見ている。
「食料が盗まれたことに気付いたのはあなたですか?」
「ああ、見つけたのも大声出したのも俺だ!」
どうやら有力な情報を持っていそうだ。
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